第26話 お金を生み出す悪魔 その1
100年前の出来事
「おい聞いたかよ。カルデラ軍に入った新人のこと」
「ああ、聞いた。銀髪ですげえ美人なんだってな」
「いや、昨日、ロズワード自治軍とやりあって、無傷で大将を屈服させたって・・・」
「・・・マジかよ」
デシベル王「そなたのロズワード侵攻のおりの活躍、まことに見事であった。」
アーシェ「そのようなもったいなきお言葉、ありがたき幸せに存じます。」
デシベル王「何か、望みはあるか?なんなりと言ってみよ。」
アーシェ「・・・・では、与えることのできる恩賞をすべて、我が父ヘルツにお与えください。それが我が望みであります。」
デシベル王「・・・・はははは、なんと親孝行な娘よ。気に入った。そなたを我が直属の騎士団に加えよう。もちろんそなたの父ヘルツの階級もさらに上げようぞ。」
アーシェ「ありがたき幸せ」
アーシェ「ただいま、お父さん」
ヘルツ「アーシェ、ありがとう、お前のおかげでまた出世できた。」
アーシェ「どうしたしまして」
ヘルツ「父さんは嬉しいが、できればアーシェもう軍なんか危ない仕事はやめて欲しい。私はお前の安全の方が心配だよ。」
アーシェ「心配してくれて、ありがとう、わたしのことは大丈夫だから」
もっと、お父さんに恩返しするんだ・・・
$$$$
使い魔「不思議です。」
使い魔が叫んだ。
キロ「どうした?」
使い魔「この時代の人々は、こんな紙切れをお金って呼びますよね。」
キロ「ああ、100年前は金貨とか銀貨だったけ?」
使い魔「こんな紙切れに金貨と銀貨と同じ価値があるなんて不思議です。」
キロ「金貨なんていちいち持ってたら、重くってしょうがないだろ、国同士の信用があるから成り立つんだよ」
キロ(経済とかよくわからないけど)
使い魔「お金、お金、・・・キロさんは以前に、悪魔退治はお金をもらえないからやりたくないっておっしゃっていましたよね?」
キロ「働いてお金をもらうのが仕事だ。お金をもらえないなら仕事じゃない。」
キロ「そうえいば、ちょくちょく工面してくれるお金はどこから稼いでるんだ?」
使い魔「・・・・いや、その・・・」
使い魔(言えない・・・カルデラの宝物庫から白い剣と一緒に盗んだ盗品を売ったお金だなんて・・・)
使い魔「そういうキロさんこそ大丈夫ですか、このところ顔色も優れないですし」
キロの様子はどんどんおかしくなっていった。
目には大きな隈があるし、白髪も増えてどんどん痩せていく
キロ「前からずっとだけど心臓のあたりになんかもやもやしたものがあって悪魔を退治するたびに心臓のもやもやが大きくなっていく気がするんだ。」
使い魔「へえ・・・」
使い魔(言えない・・・キロさんの体調不良は悪魔退治のせいだなんて・・・)
使い魔は感じていた。
キロの心臓には大きな魔力の塊があることを
白い剣は魔力を吸い尽くすが、それは使用者の心臓に蓄積していくのだろう。
その蓄積した魔力は使用者に決していい方向に作用しない。
使い魔は口をつぐんだ。
使い魔の目的は天使との契約を解消して自由になること、
ここでキロに魔力のことを教えるようなことは自分のマイナスにしかならないと思ったからだ。
使い魔(ああ、キロさんは本当に可愛そうな人ですね)
使い魔「もう少しで村が見えてきますよ。」
キロ「この辺はよく知ってる。俺の生まれ故郷だからな。」
使い魔「へえ、ということはキロさんのご家族が住まわれているんですね。」
キロ「俺は孤児だから家族はいないよ。」
使い魔「・・・すいません。失礼なことを」
キロ「いや別にいいけど、そのかわり、生まれ育った孤児院があるな。」
ジーメス村の孤児院
100年前、カルデラの将軍が地位も名誉も捨て自らの資産をすべて投資して立ち上げた孤児院だった。すでに100年の歴史を持つ由緒正しき孤児院であるが
基本赤字経営で近年は寄付もめっきりなくなり倒産寸前であった。
この孤児院で3代目の院長に就任したのがマクセルという男だった。彼の経営手腕のおかげで孤児院は崩壊を免れた。キロが物心つく前から親として見てきたのもこのマクセルであった。
マクセルは右も左も分からない子供にすらこう教える。
マクセル「あなたたちは自分の利益を追求しなさい。利益とは、よりお金を稼ぎおいしいものを食べ、良い服を着て、大きな豪邸に住むこと私は、あなたたちが、最大の利益を得られるように育てるつもりです。なぜならば、立派に育った人物を輩出することによって、私の利益になるからです。そして、将来、利益を得られたとき、恩返しすることを忘れてはいけません。受けた恩を必ず返すことは大切なことです。」
マクセルは子供を商品として育てた。
しつけの行き届いた子供を輩出することで利益を得た。
さらにその子供達からも寄付を募った。
キロは多少運動神経のいい子どもとして育てられ
カルデラ国の城の警備兵として
士官学校へ入れられることになる。
$$$$
キロの育ったジーメス村はただの貧乏な田舎町だった。
今、キロの見ている景色は夢であろうか。
そびえる大きな建物に
派手な看板と大きな道にたくさんの街灯
こんなに賑わう繁華街がキロの前に広がっていた。
並び立つたくさんの店がカジノカジノでひしめき
羽振りの良さそうな人々が闊歩していた。
キロ「・・・・ここはどこだ?」
使い魔「あなたの生まれ故郷のジーメスの村でしょう?」
いつの間にこんなことになったのだろう。
そういえばもう5年もここに帰ってきてはいないけれど
あまりにも急すぎる
そのとき、使い魔がもっている本が反応しページが開いた。
【お金を生む出す悪魔】
大量のお金を生み出し人を狂わせる
人を煽ることを生きがいにする
太った猫のような外観
キロ「悪魔の仕業か・・・」
使い魔「ですねー」
キロ「できればここは早急に立ち去りたかったんだけど・・・」
「・・・・あれーキロ?」
声をかけられた先にいたのは、かつての孤児院の職員のおばさんだった。
名前をマロさんといった。
鬼のように怖いマクセル院長の反面
このひとは抜けてるところもあって甘いひとだった。
キロ「・・・マロさんお久しぶりです。」
マロ「本当にひさしぶりねぇ」
キロ(無難に話して切り抜けよう。)
マロさん「立ち話もなんだから孤児院で一晩くらい泊まっていきなさいよ。」
キロ「・・・い、いえ、先を急ぐので・・・」
マロさん「ほらほら遠慮せず」
マロはキロをぐいぐい孤児院まで引っ張っていった。
孤児院へたどりついた。
「そのお兄ちゃんは誰?」
当たり前だが、どの子も全く知らない顔だった。
マロさん「このお兄ちゃんは、カルデラ城の兵士なんだよ。」
「カルデラ城ってあのおとぎ話に出てくる国の?」
「お兄ちゃんすごい」
カルデラ城は100年前にこの地方一帯を支配して全盛期を迎えた都市だった。
今でこそ陰りが見えるもののやはり皆が憧れる古都だった。
そこで働けるというだけで、このあたりのひとはすごいことだと思う風習が今も残っている。
キロ(・・・・もしかしたら、黙っていたらバレないかも・・・)
「そのキロ君は最近、仕事の失敗によりカルデラ城での職を解雇され、カルデラ城を追放されています。」
奥からゆっくりとマクセル院長が現れた。
キロは顔が真っ赤になった。マクセル院長はすべてお見通しだった。
周りの子たちがざわめき始める。
マクセル「それからしばらく経ちますが新しい就職先は見つかりましたか?」
キロ「いえ、まだ」
マクセル「キロ君、君は仕事を失敗してこの孤児院の顔に泥を塗った。そして、まだ新しい職にも就いていない。」
キロはうつむいたまま反論することができない。
マクセル「現在のキミはとても私たちに利益をもたらしてくれる存在には思えない。今日君をここに泊めることはできない、この意味が分かるね?」
キロ「・・・はい、失礼しました。」
マロ「キロ・・・あたしは・・・」
キロ「マロさん、誘ってくれてありがとう。」
キロは町の外れに移動した。
小さな丘に小さな娘の像が立っていた。
キロ「ここは全く変わっていないなぁ・・・」
使い魔「なんです?ここは」
キロ「これは、100年前に孤児院を創設したカルデラ城のお偉いさんの像だってさ。娘さんが失踪して今までの地位と財産をすべて引き払って孤児院を創設したんだって。」
キロ「小さい頃嫌なことがあるとここに来てたんだ。なんか安心する。」
中央の広場でぼんやりと眺めていた。
キロ「もう、この町を出よう。」
使い魔「いや、悪魔退治はどうするんですか。」
キロ「どう考えても、そんな雰囲気じゃないだろ。空気読め。」
二人が言い争っているところに
馬車がとまり執事服に身を包んだすらっとした女のひとがやってきてお辞儀をした。女の人にはぴょこんと尻尾が生えていた。アクセサリーなんだろうか。
「キロ様、使い魔様、我が主が、あなた方を屋敷でもてなしたいと申しております。」
帽子をとるとそこから猫の耳が見えた。
キロ「・・・・はあ?」
身に覚えのない招待にキロは困惑している。
使い魔「キロさん、怪しすぎます。」
「我が主の名は、お金を生み出す悪魔ことケインズといいます。」
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