第27話 お金を生み出す悪魔 その2


キロと使い魔は、馬車に乗って、ゆっくりと屋敷に向かって走り出す。

キロが見たことがある中で一番立派で豪勢な馬車だった。

外観だけでなく中身もとてもお金がかかっていそうだった。

しかし、キロは、猫耳、猫しっぽの執事服の女性の方が気になっていた。

キロ「・・・あのその尻尾って・・・」

執事「これは、本物ですよ」

キロ「ああ、本物かぁ・・・どおりで」

キロ(本物!?)




着いた屋敷も豪勢で金ぴかに彩られたコテコテの屋敷だった。

お金持ちなんだろうが、主人の趣味の悪さも垣間見える。





使い魔「いやーまさか向こうから挨拶に来てくれるなんてラッキーですね、キロさん」

キロ「そうだな。」

キロ(ああ、生きて帰れるかな・・)




長いテーブルにたくさんの豪勢な料理が並んでいる。

その一番上座に屋敷の主人と思われる人物が座っていた。



ケインズ「初めまして、ケインズグループの会長のケインズと申します。」

太った人間ほどもある大きな猫が人間のように椅子に座っている。

眼鏡をかけており、意地悪そうな顔をしている。

キロ(猫だ・・)



両側には護衛が2名隙なくこちらを見ている。

部屋には給仕の者もたくさんいた。




ケインズ「どうぞ、くつろいで、料理もお食べください。」

こんな豪勢な料理食べたくないはずがないが、ここは敵陣の真っただ中だ。毒が入っているかも

キロ「・・・・・いいえ、結構です。」



使い魔「これはおいしいです。高級な食材を使っていますね。」

使い魔は気にせず食べている。

キロ「・・・・」



ケインズ「あなた方が、この時代の白い剣の所有者ですか。」

キロ「お金を生み出す悪魔、いいえ、ケインズさん、どうして俺たちのことを知ってるんですか」

ケインズ「常に各地の情報を得ることは、商売の基本です。お金で雇った諜報員からあなたのことは調査済みですよ。」



ケインズ「悪魔のことは誰も知りませんが、各地で起こる異変が収まる前に現れる。変な生き物を連れ、剣を持った男、あたしの過去の悪魔の情報と結びつけると

あなたが白い剣の所有者だということはすぐにわかりました。」




キロ「ここへ呼んだ目的は?」

ケインズ「白い剣は、悪魔にとっての唯一絶対の脅威だ。あたしは、その白い剣をあなたにお譲りいただきたい。」



ケインズ「もちろんタダとは言いません。お金に糸目はつけませんよ?」

ケインズが手を出すと手から札束がドバドバ溢れ出てきた。

そのお金を必死に拾う給仕達・・・



使い魔「何を言ってるんですか、売れるわけないでしょう。私が自由になるためにそんなことはさせませんよ。」

使い魔はプンすか怒っている。



キロ「・・・そのお金って・・・」

ケインズ「ええ、これが、”お金を生み出す悪魔と”呼ばれたあたしの能力です。」

キロ「とどのつまりは、偽札でしょう、お札の番号とか合わなくて捕まるんじゃ。」




ケインズ「偽札であっても、人間はこれが偽札だと認識できない。魔力でそう認識させていますから・・・」


キロ「・・・」


ケインズ「どれだけ、偽造困難なお札や貨幣であろうとお札の番号が合わなかろうと最終判断を下すのが人間である以上あたしの魔力によってこの生み出したお金は”本物”になるのですよ。」



そう言い切る悪魔の能力は本物なのだろう。



キロ(・・・いっそ今この場で・・・)

キロの緊張はすぐに護衛の者に伝わり彼らは警戒した。




ケインズ「おっと、変な気は起こさない方が賢明ですよ。こちらの護衛はとても腕の立つ方々ですので」




気まずい時間が続いた。目の前に高級な料理がなければこの時間もそれほど苦痛でなかっただろうに・・・




キロは座りなおした。

ケインズ「今の段階では、売ってくれる気は、なさそうですね。」



ケインズ「しかしなぜです?たくさんのお金を得ることよりも悪魔退治を優先するあなたの気持ちが理解できない。・・・だが、同時に興味深い。お金よりも大切なものがあるのならそれを知りたいですね。正義のためですか?人々を救うことに生きがいを感じるからですか?」





マクセル院長の言葉がキロの脳裏によぎる。

自分の利益を追求しなさい。そうすることにより他人もまた利益を追求していることを知ることができます。他人の欲しい利益を知り叶えることで、また、自分の利益になります。正義や理想を信じてはいけません。それは人を騙す方便です。


悪魔退治には、どんな利益があり、なぜ悪魔を退治するのか?





キロ「・・・悪魔を倒します。課された仕事をきっちりやりきるだけですよ。」




ケインズ「・・・・ぷっはははははははは、仕事といいましたか、100年前は悪魔を退治した者には、しっかりとした地位と名誉とお金が与えられました。しかし、あなたは、たくさんの悪魔を退治しているにも関わらず、その乞食のような服装、これだけの短期にたくさんの悪魔を退治した者の目的がどのようなものかと思えば明確な目的もないままとは・・・」




キロ「今度は逆に聞きます。ケインズさんあなたの悪魔としての目的はなんですか?最近会った”人の人生を変える悪魔”は人生に疲れた人を助けるためと言っていました。」




ケインズ「・・・・あたしですか?・・・あたしはお金を生み出して贅沢をするのが楽しいからですよ。まあ、何百年も生きていればそれも飽きてきますがね。・・・お金ってなんだと思います?」



キロ「物を交換するときに不便がないようにする道具とか?」



ケインズ「違いますね。お金はそれ自体が手段という考え方もありますが。それは違う。たくさんの人がお金のために悩み、人生を費やし、お金のために死んでいく。お金は人間世界での唯一の神だ。あたしは、だんだん、お金に狂う人間を見ることに生きがいを感じる様になっていきました。あたしが、生み出したお金によってたくさんの人を狂わせる。それがあたしの目的です。」




キロ「ずいぶん、率直に話してくれるんですね。」



ケインズ「情報を隠すことがあっても嘘偽りは言わない方がいい。あたしの商売のコツとでもいいましょうか。」



メインディッシュは牛肉のステーキだった。牛肉なんてめったに食べられない高級品だった。さっきから何回唾液を飲めば気が済むのだろう。



ケインズ「やはり、お譲りいただけませんか。あなたにあたしに勝つ見込みなどありませんよ。常にあたしにはボディーガードが付いていますし、何人もの兵士も地下に常駐させてあります。100年前と違い、軍や国家の後ろ盾もないあなたが勝てる可能性はゼロに近い。白い剣のみではお金の力に勝てないんですよ。」



給仕はデザートと紅茶を下げた。キロは手をつけなかった。



ケインズ「3日猶予をあげましょう。その期間で売ってくれる気になれば、いつでもお声をおかけください。3日過ぎて何も反応がない場合、しかるべき処置をおこないます。・・・良い返事を期待していますよ、ひひひ」

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