第25話 人生を変える悪魔 その4



バースに白い剣をちくりと刺すと

傷口から魔力の黒い煙が出てきて白い剣に吸い込まれた。

バースさんは気が付いたようだった。






バース「・・・・ここは・・・私は何を・・・」

使い魔「あなたは、悪魔の呪いにかかって、夢を見せられていたんですよ。」

ニア「お父さん、お父さん良かった・・」

バース「ああ、ニア」




キロ「バースさん、説明はあとでします。娘さんと一緒にすぐにこの町から離れてください。」





バースさんはニアに手を引かれてふらふらしながらも町の外に向かっていった。




キロ「さて、この人たち全員を起こした方がいいだろうか?」

使い魔「手間ですね、悪魔を倒したら眠りから覚めるでしょうし、悪魔を倒した方が賢明です。」





バースはスラム街の外までやってきた。

ニア「さあ、帰ろう?母さんも心配してるよ」

バース「帰るのか。・・・・」

バースさんは帰るその足取りが重い。

バース(帰ったところで、私は仕事のない貧乏人・・・だったらいっそ・・・)

バース「ニア、先に帰っていてくれないか・・・父さんはその忘れ物をしてしまったようなので取りに戻ってすぐに追いつくよ」

ニア「・・・お父さん?」





メアと名乗る人生を変える悪魔は、こそこそと迷路のような裏路地を逃げ回る。

バースが一人でこちらに返ってきた。


バース「待ってくれ、キロ君といったかな・・・」

キロ「ニアの親父さん?どうしたんです?ニアは?」

バースさん「ニアから聞いたよ。キミは悪魔を退治しているんだってね。」

キロ「はあ」

バース「キミがこの悪魔を倒してしまったら、私はあっちの世界に行けなくなってしまうってことだろうか?」

使い魔「バース様、あれは悪魔が見せた悪い夢、現実ではありませんよ」




バース「・・・・いいや、わたしには、この世界こそが悪い夢に思えるけどね」




「何をいってるんです、この人間は」

「・・・・・」



「あちらに世界では、私は社長だった。誰もが私を慕ってくれる。尊敬してくれる。そうヒーローだ。こちらの世界はどうだ。こともあろうにこんなに優秀な私を首にしたんだ。許せないじゃないか。これからどう家族を養っていけばいいかわからない。私はこんな世界はまっぴらなんだ。一刻も早くあちらに世界に帰りたい。」



「あちらの世界は現実じゃありません。」

「この際、現実かどうかなんて関係ない。私はあちらの世界ですべてをやり直すんだ。どうか悪魔を倒さないでくれ。」




キロ「・・・・・」

キロは耳を疑った。

今まで報われないまでも多少なり悪魔退治はみんなの幸福のためだと信じてきた。

それを今この場で否定されたのだった。


使い魔「キロさん耳を貸すことありませんよ、バースさんももう少し冷静になればわかってくれますよ。」




「キミがわかってくれないのであれば私も戦うしかないな、自分のために」

バースはその場の石をキロに向かって投げつけた。

キロの額からさらに血が流れた。



 普段、キロが本気で怒るということは少なかったように思う。周りにそこまで興味がなかったと言い換えてもいいかもしれなかった。だが、この時キロは自分の中に大きな嫉妬を感じた。そして、それを簡単に捨ててしまおうとする人間に怒りを向けずにはいられなかった。


「バースさん、俺がここへ来たのはニアに頼まれたからなんです。ニアはあなたのことをとても自慢げに話していました。あんなに愛してくれる娘がいて、俺はあなたが羨ましい。・・・娘さんを大事にしてあげてください。」



キロは一気に距離をつめて、バースの腹を殴りつけた。

バースはその場に倒れこんで痛がっている。




・・・・・・




ついに裏路地に人生を変える悪魔を追い詰めた。

あくまで外見は、ほっそりした少年のままであった。

メア「はあ、はあ、キミは極悪人だね、一般人に手をあげるなんて」

キロ「・・・・・」

メア「ボクはね、傷ついて生きることに疲れたひとをここに呼んであげてるんだ。ボクはみんなを助けてあげてるんだ。何も悪いことをしていない。それなのにキミはボクを傷つけるの?」








キロ「・・・・もう善悪なんてどうでもいい、残りのすべての悪魔を退治するだけだ。」









メア「わかった、キミがボクを退治するというなら、全力で抵抗するまでだ。」

人生を変える悪魔の目つきが変わり、巨大な羊の化け物へと姿を変えていく。




化け物は腕を振り上げてキロを地面ごとえぐり取った。

化け物はキロを見失った。手に傷がついていて魔力が漏れ出している。

キロ(巨大化するのも考え物だな・・・的が大きくてかえってやりやすい。)



グゥウウウオオオオオオオオオ



悪魔は甲高い声で吠え、手当たり次第にあたりを攻撃した。キロはその攻撃を冷静に見てかわす。


資格があれは就職に有利だというけれど・・・キロは資格なんて持っていない。勉学もできないし話すことも苦手だ。カルデラ城の警備兵の中で唯一真面目に取り組んでいた剣術においては人より少しばかり優位だ。


近年は剣術よりも学問が重んじられるらしい。100年前に生まれていたら良かったんだろうか・・・なんて



キロはとどめに悪魔の肩を剣で削り取った。悪魔は大量の黒い煙を出してその場に倒れこむ。


魔力を抜かれた、”人生を変える悪魔”はみるみる小さくなり小さな羊の姿になって、ゆっくりとその場の草を食べ始めた。





キロはバースに向ける顔がなかった。

しかし、遠巻きにニアとバースがロズワード近くまで帰るのを見届けてから

キロは反対の方向へ旅立った。




キロ「勢いとはいえ殴っちゃったのはまずかったよな。」

使い魔「まあ、正当防衛じゃないですかね。」

キロ(興味なさげだな・・・)



キロ「他の眠ってた人たちは大丈夫だろうか・・・」

使い魔「人生を変えたいと思うってことはまだ生きる活力があるってことです。きっと大丈夫ですよ。」

キロ「そのまとめ方は強引すぎる気がするけど・・」



これで少しでもニアの親父さんが改心してくれたのなら、俺の剣術は世の中の役にたったんだろうか・・・


そんなことを考えながらキロは歩き続けた。





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