第17話 生と死を入れ替える悪魔 その3


キロは体調が日に日に悪くなっているのを感じていた。

毎晩悪魔と戦う夢を見た。

自分がすんでのところで死ぬ、その刹那がありありと浮かんできた。




外に出てぼんやりしていた。

ここはいい村だと思った。

みんな親切でいい人たちばかりだ。

今まで、悪魔と戦ってきたことが悪い夢だったんじゃないかと思えてくる。

しかし、キロは天使の忠告通り、剣を手放さずお腹にしっかりと括り付けている。




シスターさん「眠れませんか?」

キロ「ええ、お恥ずかしながら」

シスター「あなたは出会ったときからどんどんやつれていくように見えます。何か悩み事や苦しいことがあるならばお話しください。」

キロ「・・・・いいえ、別に」



シスター「・・・・私の話をしましょうか。わたしは小さいころから頭が悪く体力も乏しく病気がちでした。みんなわたしを厄介者のように扱って、でも、ここへ来てからは違います。本当に優しい方ばかりで、みんな私を好いてくれて、家族のように思ってくれる。」




シスター「わたしは、この村に恩返しがしたいんです。この村のみなさんを家族のように思っています。そして・・・」




シスター「あなたのことも」

キロ「え?」

シスター「あなたは昔のわたしに似ています。だから、あなたのことも救ってあげたい。」




キロ「・・・・・」

キロは悩んだ。けれど我慢できなかった。

キロ「あの、とても信じられないかもしれませんが、狂ったひとに見えるかもしれませんが、」

シスター「ええ、大丈夫です話してください。」




キロは話した。

仕事を首になって途方に暮れたこと。

天使に悪魔を退治しろと言われたこと。

甲冑のおじいさんを痛めつけたこと。

無人島に閉じ込められたこと。

倉庫をむちゃくちゃにして逃げてきたこと。

おばあさんが死んでしまったこと。

ここへ来たいきさつ。





シスターは親身になって聞いてくれた。






シスター「信じがたい話ですが、落ち着くまでこの村でゆっくり過ごしてください。話を聞く限りでは、その剣があなたに悪い影響を与えているのかもしれませんね。知り合いにそういうものに詳しい方がいるので、その剣をお貸しいただければ聞いてくることもできますが?」

キロ「この剣を貸す・・・」

悪魔のことが妄想だったとしても、キロは剣を離すのが怖いと思った。

シスター「・・・今すぐでなくともかまいません。きっとこの村で過ごせば、あなたの心の傷は埋まると思います。」




キロ「・・・人間は自分の利益のことしか考えていない・・・」

シスター「?」

キロ「俺の育て親の口癖、いえ教育方針です。でもあなたのことを見ているとそんな人間ばかりでないって・・・そう思います。」


シスター「・・・・私は・・・そこまで褒められた人間ではありませんよ・・・」

その声は弱弱しく小さかった。




キロはもう一度ベットにもぐった。

誰かに悪魔のことを話して心が軽くなった気がした。





キロ「そうだ、白い剣をシスターさんに渡してしまおう。そうしないと前に進めない気がする。」





翌朝

キロ「おはようございます。」

シスターさん「あ、おはようございます。」

シスターさんはちょうど包帯を取り換えていた。

指先から手全体にひどい火傷のあとが残っていた。




キロ「大丈夫ですか?」

シスターさん「ああ、・・・・これは、・・・うっかりと熱いお鍋を触ってしまいまして・・・」

少しうろたえたように答えた。






(火傷?・・・焼け跡・・・まあ、いいか・・・そんなことより剣を渡してしまおう)






キロ「シスターさん!昨日の夜のお話ですが・・」






若者「シスターさん大変だ!」

シスターさん「どうしました?」

若者「シスターさんのとこのガキが川でおぼれてるってみんなが!!」





シスターの顔色がみるみる真っ青になっていった。


「いやああああああああああ!!!」


シスターさんは甲高い悲鳴を上げた。


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!!誰も欠けては駄目!!!!」





シスターの常軌を逸した反応に驚いたもののキロは子供がおぼれた現場まで走り出した。この村では泳げる人はいない。


しかし、キロは泳ぐことも多少はできる。

丸太をつかんで川に飛び込んだ。

なんとか子供を丸太にしがみつかせて岸までたどり着いた。




「おい、まだ息があるぞ。」

「ああ、良かった。」

「あんたやるじゃないか。」




キロ(・・・・この村の役に立てた。やった。やったぞ俺)

子供「お兄ちゃん・・・ありがとう・・・」



キロは子供を抱きしめた。子供の体に白い剣が触れた。そのとき、子どもの中から黒い気体があらわれキロの剣に吸い込まれていった。

魔力を吸い取る白い剣が魔力を吸った。

キロ「・・・え、これって・・・」




子供の表情が一変した。

「あ、・・・・あれ・・・・なんで・・・僕はまだこうして生きているの?」

「ははは、そこのお兄ちゃんに助けてもらったんじゃないか」

「違う、違うよ、村が真っ赤に燃えて、僕の体も熱くなって・・・村祭りの前くらいだよ」

子供は真っ青になってがくがく震えだした。





おじいさん「そういえば、アンタ、村祭りあたりに村にいなかったがどこに行ってたんだ?」

若者「じいさん、何言ってんだよ、俺はずっとこの村にいたぜ?他にどこに行くっていうんだよ?」

おばさん「そういえば、村はずれのメルム婆さん、最近まで見かけなかったような」




場がざわつく・・・





火山の噴火

焼けた村の跡

生と死を入れ替える悪魔

この村に火傷をしているひとなんていない

一人を除いては・・・






キロはふらふらと歩き始めた。

キロ「はははは・・・そんなはずはないって・・・でも確認しなくちゃ・・・」






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