第15話 生と死を入れ替える悪魔 その1



グラナ火山は

カルデラ国唯一の活火山であり、

時折噴煙を上げるその姿はカルデラのひとつのシンボルになっている。

グラナ火山一帯には最近2つの不幸な出来事が重なっていた。


ひとつは、火山が噴火して多く犠牲者が出たこと、

もう一つは、その直後、謎の奇病が蔓延してたくさんの人が亡くなったことであった。





キロたちは数日ひたすら人目につかないように山の中を進んでいた。

行く手にとても大きなグラナ火山がそびえる。




キロ(あああ、どうしてこんなことに、よくよく考えたら、逃げて、どうにかなるはずないのに・・・)




キロが草を分け入ったその先には、広場があった。

広場にはたくさん棺桶が並んでおり、そこにおばあさんがひざまずいていた。


おばあさん「おや・・・まだ生き残りがいたのかい・・・」

とても泣き腫らした目をしていた。

おばあさん「もしや、外から迷い込んだのかい?来る途中にここに近寄るなと警告されなかったのかい?」

キロ「あーいやーそれは、そのいろいろありまして・・・」

キロは返答に困った。まさか倉庫をめちゃくちゃにして逃げてきたというわけにもいかない。




使い魔「何かお困りですか?もしよければ相談に乗りますが?」

キロ(こいつ、また勝手に仕切ってやがる・・・)



・・・・



キロは御婆さんが出してくれた食べ物にがっついた。




「あのグラナ火山が見えるかい?」

「ええ、あの遠くに見える。」

「ついこの間まで、ここの土地は、火山灰の豊かな土地と温泉と景観でたくさんのひとでにぎわっていたさ・・・それがあの火山が噴火してたくさんの人が亡くなった。そのせいで、人も寄り付かなくなった。それでもなんとか私たち家族は生き延びてきたけれど、2,3か月前から妙なことが起こり始めた。何の前触れもなく、ひとり、またひとりと突然死んでいく、わたしの家族も娘夫婦も孫たちもひとりひとり・・・私一人を残して・・・」




話を聞くほどにキロの寒気は止まらなくなった。自分が倉庫をめちゃくちゃにしたことなど小さいことに思えた。

キロ(これは洒落にならないような・・・)




窓から蝙蝠が飛んできておばあさんの体に止まった。

次の瞬間、御婆さんの体から、青い炎の塊が飛び出した。

そして、おばあさんはその場に倒れこんだ。

キロ「え、おばあさん?」

急いで体を支えたが、体温が急速に失われていくのを感じた。

キロ「これってまさか・・・」

キロの人生の中で死体を見ることも運ぶこともあっても死の瞬間に立ち会ったことはなかった。



使い魔「キロさん」

本が光りだしてページが開いた。




【生と死を入れ替える悪魔】

生きた人間を殺し

死んだ人間を蘇らせる

蝙蝠のような外見




キロが家の外に出てみると


「こんにちは」

空から黒い翼を生やしたシルクハットのスーツを着た男が舞い降りてきた。



「初めまして、わたくし悪魔ディアン=ボロスと申します。以後お見知りおきを」

キロ「お前が生と死を入れ替える悪魔?」

「あはは、その名前で呼ばれるのも久々な気がしますね。しかし、それはあなた方が勝手に名づけた”あだ名”のようなもの。もしよければ”ディアン”と親しみを込めて呼んでください。」



キロ「お前が人を殺してまわってるのか?」

ディアン「ひどいですね。まるで、わたくしが殺人快楽者かのような言いぐさ。ここ2,3百年の間に生まれた新参悪魔とわたくし達のような由緒正しき悪魔を一緒にしてもらっては困ります。」




キロ「?」




ディアン「由緒正しきマナーと教養ある悪魔は、自分の欲望のままに能力を行使したり致しません。ちゃんと”人間との契約”によってのみ力を行使するのです。封印を解かれてからというもの力が有り余ってしょうがなかったのですが、最近大口の注文が入って大忙しなのです。」



キロ「大口注文?」




ディアン「あなたのことは前々から存じ上げておりましたよ。イベルコ、テレサ、他にもたくさんの悪魔を退治してきた悪魔にとっての天敵。この時代の白い剣の所有者・・・」



ディアン「おっとこんなところで油を売っていてはいけません。それでは獲物もいただいたので、これにて失礼させていただきます。またの機会にお会いしましょう。」





悪魔は飛び立ち、夜の闇に紛れて見えなくなった。

おばあさんは動かなくなってしまった。

キロはどうすればいいのか分からなかった。

死体の処理はしたことがあるけれど

いままで話をしていた人が死んでしまったことが信じられなかった。




キロ「あああ・・・」

キロはおばあさんの家から飛び出して走り出した。

使い魔「キロさん」

さっき悪魔が飛んで行ったのはこっちの方向だったはず。




キロは走り続けた。

こちらは火山のふもとへ向かっている。

いくら走っても

人ひとりいない誰もいない



夜も更けてきてきてあたりは何も見えない暗闇になった。



キロは走り続けた。

悪魔を追うために・・・

悪魔を追うために?・・・もしかしたら・・・おばあさんから逃げたんじゃ・・・

そう考えるほどにキロの胸の奥の方で黒いものが渦巻くような気がした。





ふと前方に人影が見えた。

キロ「・・・天使?」

ふわりと銀髪の少女が降り立つ。相変わらず、目が大きくて怖い。





天使「・・・あっちの方角へ行きなさい・・・そして片時も剣を手放しては駄目よ・・・・」





そういうと天使はまたどこかへいってしまった。



しばらく呆けていると

使い魔「キロさーーん、やっと追いつきました。」

キロ「ああ、使い魔か、いまお前んとこの上司があっちへいけってさ」

使い魔「ああ、ご主人様来てたんですね、おそらくあちらに”生と死を入れ替える悪魔”の本拠地があるんでしょう。」

キロ「アジトってことか・・・なんか城みたいな?」

使い魔「基本悪魔に住居なんて必要ありませんが、どうでしょうね?」




キロ「それと・・白い剣をずっと持ってろって」

使い魔「ああ、それは、大事なことですよ、あの悪魔は、普通の人間の魂を簡単に抜き取って殺すことができますからね。キロさんが無事だったのは、その剣を身に着けていたからなんですよ。」



キロ「・・・・・」




使い魔「実際、あの悪魔は軽口をたたいていましたが、ずっとキロさんを殺す隙をうかがってましたよ。」


キロ「へ、へー」

キロは思い出して青ざめた。






そのころ時を同じくして・・・



ディアン「・・・・というわけお客様、もうすぐ、白い剣を持った男がここを訪れるでしょう。普通の人間となれば何人来ようが構いませんが、あの剣だけは別です。あの剣は悪魔にとっての絶対毒、脅威なのです。」



「・・・・もし、あなたがやられたらどうなるの?」



ディアン「わたしの魔力が著しく低下してしまい、ここに捕えた魂たちを繋ぎ止めておくことができなくなります。つまり・・・」



「やめて・・・・やめて」




ディアン「そこで、お客様にひとつ協力してもらいたいのですが・・」




「・・・何をすればいいの?」




ディアン「ご心配にはおよびません。お客様への安心と信頼のサービス。それこそがわたしの誇りですので・・・」

ディアンはシルクハットをひるがえし胸を張って高らかに叫んだ。

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