第14話 影の薄い悪魔 その3

予想通り

住み込ませてもらっていた宿舎にも会社にもキロの居場所はどこにもなくなっていた。




夜の海を見ながら、

途方に暮れるしかなかった。




「どうしたんだいお若いの。」

ボロボロのかっこをしたおじさんが声をかけてきた。

キロ「・・・・」

「これだけたくさんの人がこの町にひしめいているんだ。いろいろ失ったとしても、それはちっぽけな物なんだ。まあ、くよくよせずにまた探せばいいさ。」


キロ「・・・・」



おじさんがぺらぺらと話し始めたことをうわの空で聞いていた。




おじさん「おっともう時間だ。お若いの、まだまだチャンスはあるんだから、あきらめちゃあ駄目だよ」

キロ「・・・・ありがとうございます。」




自分が悪魔の餌食になる可能性を心のどこかで分かっていた。でも、高をくくって考えないようにしてたんだ。




夜も更けてきた。野良犬があたりを彷徨っている。

犬が何かを察知したのか、おびえるように逃げ出した。

誰かが近づいてきた。




キロ「・・・て・・・天使」

ぼんやりこちらを見ているだけなのだろうが、三白眼が怖い。




使い魔にさんざん天使の恐ろしさを聞いているため恐怖が先行していた。

天使はおもむろに白い剣を取り出した。

キロが宿舎に置いてきたものだった。

声を出さないが「さあ、悪魔を退治しろ」と言わんばかりだった。




キロ「俺は卑怯な人間じゃない・・・周りの人が被害にあっているのを知りながら、何もしらないふりをして、自分がいざ当事者になったら、こんなに凹んで・・・でも、誰がどうなろうが関係ない、俺は助ける側の人間じゃない、助けられる側の人間なんだ。・・・たとえ社長が被害にあおうが、俺が命を懸けて悪魔を退治する理由にはならない。」



自分の利益のために行動する・・・俺は間違っていない。



キロ「でも、自分が被害にあったら別だ。俺は自分の利益のために悪魔を退治する。」



天使「・・・・・」




キロは、天使から剣を受け取ると一目散に走りだした。


使い魔「流石、天使様が来ると仕事がはかどりますね」

使い魔が草葉の陰から現れた。




天使は暗い顔でつぶやいた。

「あなたは間違っていないわ。私だって自分の利益のために行動しているんだから・・・」



使い魔「何かいいました。」

天使「いいえ」





使い魔「キロさんやる気を出してくれたんですね。」

キロ「ああ、使い魔か・・・ひとつ言い忘れていたんだけど、この悪魔を倒したら、悪魔退治はほかの人を当たってくれ、俺は引退するから」



使い魔「いいんじゃないですか?もう4匹も倒したんです。天使さんも納得してくれますよ。」

キロ「本当にいいの?」

使い魔「ええ、私は賛成です。」




$$$$




キロは影の薄い悪魔をホエールカンパニーの倉庫で見つけた。

キロ「なるほど、存在を食べられると影の薄いモノ同士よく見えるってわけだ。」

今のキロは大きなトカゲの存在をはっきりと認識できていた。



大きなトカゲは舌を矢のような速度で伸ばす。キロは間一髪躱して、トカゲに斬りつける。トカゲは音のない悲鳴を上げてキロから逃げ出す。


「逃がすか・・・」


足に何かひかかっている。見るとトカゲの長い舌がキロの足に巻き付いていた。

(しまった・・・)



トカゲはキロの足を引っ張り倉庫中を引きずり回した。



使い魔「キロさん大丈夫ですか」



トカゲは舌に痛みを覚える。キロは足に巻き付いていたトカゲの舌をぶったぎった。

キロ「痛い・・・でもまだ戦える・・・」


さんざん暴れられてキロは全身打撲だらけであざだらけになりながらも悪魔の魔力をすべて吸い尽くした。残りかすの山椒魚ぐらいのトカゲはそそくさと逃げていった。




キロ(やった、これで、給料日に間に合った!)




時刻はもう朝になっており、偶然、元社長が、とても朝早くに出勤してきていた。

社長「キロ君・・・」

キロ「ああ、おじさん」

キロのことをわかる人がいるということは元に戻った証拠であった。



元社長「・・・・どうしたんだい、この倉庫の惨状は・・・・」




キロは、喜びから一転、はっと我に返った。

悪魔と戦った時に一部の倉庫の商品が破壊されて、倉庫の荷物がぐしゃぐしゃになっていた。

キロ「こ・・・・これはこれは・・・・」




キロは頭が真っ白になっていた。

キロは慌てて財布を出した。

キロ「これは、俺の有り金全部です。これで・・・(馬鹿そんなもんで足りるわけないだろ)」



元社長「・・・・???キロ君???」




キロ「俺は、・・・・その・・・・ごめんなさい」

キロは一目散に走りだした。町から逃げ出すために、そんなことをすればお尋ね者になるが、ここに残って責任をとることもできないだろう。





元社長は、ポカンとしていた。やがて他の社員が出社してきた。

元係長「やあ、今日は給料日だから、やる気が湧くねぇ」

「おっしゃ!!今日1日がんばるぞ」

「終わったら飲みに行こうぜ」




秘書「社長、こんなところで、作業着姿で、何をされているんですか!?」

元社長「あれ、君、わたしのことを思い出したのかね?」

秘書「思い出したって何をいってるんですか?」




「社長!!!???」




係長「あばば、まさか本当に社長だったなんて・・・」

秘書「イワシ係長こそこんなところで何を油を売っていらっしゃるのですか。」

係長「え、わたしのことも思い出してくれたんですか」




その日、社内は、何が何やら分からず、いろいろな事後処理に追われたという、




・・・・・




秘書「社長、本当によろしかったのですか?倉庫の被害額を個人の資産で賄われて、幸い被害は少ないものでしたが・・・」

社長「何度も言わせないでくれ。まあ、わたしも思うところがあるのだ」




秘書「ところで、その封筒はなんです?」

社長「これは、とある男の給料だ。きっちり仕事をした男には給料を支払わなければならないからな」

秘書「はあ?」




・・・・・




キロは人気を避けるため街道筋から離れた山道を進んでいた。




キロ「ああ、これで俺も犯罪者か。」

使い魔「もう、悪魔退治に命を捧げてはどうですか?」

キロ「それだけは嫌だ。」




進む道は暗い暗い森の中であった。

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