第13話 影の薄い悪魔 その2
廊下を歩きながら
社長「最近、社員が失踪するという件はどうなったのかね?」
秘書「それに関しては、まだ調査中です。そもそも失踪したのかさえ分からなくなってきたわけでありまして」
社長「おいおい しっかりしてくれよ、ははは」
社長(・・・・ふふふふ、起業してから20年、本当に長かった。すべては私の才能と人脈と努力の結果、そう私という存在が一流企業の社長としてなるべくして社長になったんだ。)
感慨にひたる社長のすぐ前に何かが横切るのを感じた。
社長「???」
何かぬるっとしたものが、体に巻きついて、自分の体から魂のようなものが抜けるのを感じた。
社長「では、例の資料をみせてもらえるかね?」
秘書「・・・・あのどちら様でしょうか?」
社長「はははは、なんの冗談かね」
秘書「あいにくですが、このフロアは役員の方以外立ち入り禁止なので・・・」
社長「・・・・・え?」
$$$$
使い魔「キロさん、これは予想ですが、影の薄い悪魔は、影の薄い自分の存在を保つため他人の存在を食べるんです。食べられた人間は、地位も人間関係も失って文字通り存在を奪われるんです。」
キロ「へー」
使い魔「係長だったというあのひともきっと被害者なのですよ。悪魔を退治すればかれもきっと元通りになりますよ。」
キロ(誰の話だっけ?)
「兄ちゃん、いくら、かわいいからって職場にペットを連れてきちゃいかんよ」
キロ「あ、すいません、すぐに追い出します。」
キロ「ってわけだから」
キロは使い魔を放り投げた。
使い魔「あーちょっとー」
見慣れない50代の老人が慣れない手つきで荷物を運んでいた。
キロ「大丈夫ですか?」
「いや、すまないね」
休憩中
キロ「もしかして、新人さんですか、お年なのに大変ですね」
「・・・・信じてもらえないだろうが、わたしは、ここの社長だったのだよ。」
キロ「社長・・・ってまさか」
キロの脳裏に使い魔のセリフが蘇る。
キロ「あの、あの、係長さん、係長さん」
係長「はは、何かね、私をそう呼んでくれるのは君ぐらいになってしまったなぁ・・・」
係長は今日は機嫌が良さそうだった。
キロ「あそこにいるひとってもしかしてここの社長さんなんですか?」
係長「何ぃ、社長だとぉ・・・・いやわからんな・・・・というかわたしは社長の顔をまだ見たことがないし、お会いしたこともないのだよ、ははは」
キロ「ええ」
係長「係長のわたしがいうのもなんですが、社長というのはいささか言い過ぎでは?」
社長「いや、本当に社長だったんだ。」
「じゃあ、俺は部長だったような・・・」
「わたしは、南国の支部長がいいなぁ」
「ははは、そのギャグ面白い」
「ははははっは」
キロ(ああ、すごくややこしいことになってる・・・)
$$$$
キロは、厳しい仕事ながらも職場慣れしてきて、仕事が楽しいと思えるようになってきた。
キロ「給料も出ないのに、命を懸けなければならないどこかの苦行に比べれば天国だなぁ」
使い魔「なんか言いました?」
キロ「はは、また見つかったらつまみ出すぞ。」
使い魔(さわやか過ぎて気持ち悪い・・)
社長(・・・・若いころ下働きをしていたことを思い出す・・・私はたくさん頑張ってきたんだな・・・私は、私は、)
社長と名乗る人物が涙を流しているのが見えた、
キロはチクチクと良心の呵責を覚えたが、見て見ぬふりをした。
人が地位を失うということは往々にしてあることだ。
前の仕事を首にされたキロのように
社長もまた例外ではなくその理由が悪魔というだけなのだ。きっと・・・
上司「はは、君なかなか、頑張ってるじゃないか、明日は給料日だし、特別ボーナス出そうかな」
キロ「ええ、本当ですか(やったぁ)」
働き始めて7日間、本当にキツかったけどようやく報われる時が来たんだ。
・・・・・
元社長「良かったですね、褒められていたみたいで」
キロ「え、ええ」
社長はまだ、若干ブルーであった。
キロは微妙に心苦しかった。
キロ「そうだ、初給料でおごりますよ、自分の方が先輩なのに、いろいろと仕事の手順とか教えてもらって世話になってるし、」
元社長「ええ、そんな悪いですよ」
「え、それじゃあ、俺も」
「わたしも」
キロ「新人にたかるなーーー!!!」
・・・
夕刻、
最後の最後にきつい仕事
やっと終わって仕事上がり
倉庫から出ようとしたその一瞬
キロは、自分に何かがからみついて自分から何かが抜かれるのを感じた、
抜かれたあと、大きなトカゲが倉庫の奥に走り去るのが見えた。
キロ(これって、まさか・・・)
「こーら!部外者が倉庫に入ったらいかんだろう!!!」
キロは顔が真っ青になった。
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