第2話 大食い悪魔 その2


教会ほどもある大きな黒い怪物は静かにキロの方を向いた。何かを探しているようだった。キロはとっさに自分の持っている食料を遠くへ放り投げた。怪物は食料を投げた方向へ走り去って行った。『生きた心地がしない』というのはこういうことを言うのだろうか。

あたりを見回す。少女はどさくさに紛れていなくなっていた。




そして、一夜が明けて・・・




少女が『使い魔』だと言ってよこした『ぬいぐるみ』はキロの膝くらいの背丈で歩いていた。


使い魔「いやー昨日は大変な目に合いましたねぇ」

キロ(普通にしゃべってる・・・)


キロは頭の整理が追い付かない。だが、昨夜起こった得体のしれない出来事に比べれば『ぬいぐるみ』が喋るぐらいどうということはない。


使い魔「昨夜は、おくれをとりましたが、今夜こそ打ち倒しましょう。」

キロ(ああ、悪魔を退治することは確定事項なんだ・・・)



キロ「悪魔って昨日のアレのことか?」

使い魔「はい、そうです。」

キロ「・・・・」



キロと使い魔は町を目指して歩く。

周りの黄金色の原っぱは麦畑のはずだが、ぐちゃぐちゃに踏み荒らされていた。



キロはお腹が空いていた。


早く仕事にありついて飯を食わないと死んでしまう。

この時期のグラノール地方は麦の収穫の真っ最中だ。この時期は猫の手も借りたいほど忙しいはず、なんとか日銭を貯めて食いつながないと


キロは町の門をくぐった。本来ならば、この時期は活気で溢れかえっているはずなのに町はゴーストタウンのようになっていた。前に来た時に張られていた大量の求人の張り紙もない・・・

「俺は見たんだ。山ほどもある大きな怪物が作物を食い荒らすのを!!」

残った町の人々は口々にそんな話をしていた。




使い魔「これは・・・悪魔の仕業に違いありません。」

使い魔が取り出した黒い本のページが開いた。




【大食い悪魔】

すべてを食い尽くす

大きな豚の形相

飢餓と乾きの悪魔





使い魔「ふっふっふ・・・便利でしょう。この本は近くに居る悪魔のページが自動的に開く仕組みなのです。」

キロ「そうだな」

キロは適当に相槌を打つ。お腹が空いて目が回ってきた。




$$$




しばらく歩いた。

屋敷の前で人々がわらわらと集まっているのに気が付いた。

このあたりで一番大きな屋敷だった。



屋敷には食料倉庫のような建物がいくつも並んでおり、このあたりで残っている麦は『屋敷の収穫済みの麦』しかないらしい。屋敷の周りにたむろしているのは食べ物にもありつけず、屋敷の麦を分けてもらおうとしている人々だった。


屋敷から家主らしい男が出てきた。腹回りが出っ張っている恰幅のいい男だった。

「ここにある麦はわしのものだ。お前らには恵まん!とっととココから消えうせろ!」


雇われの傭兵が彼らを威嚇する。

しかし、彼らは立ち去ろうとしなかった。ただその場に座り込むのみだった。



キロがここから立ち去って隣の町へ移動しようと考えていると

使い魔が立ち上がり、人々へ大きな声で呼びかけ始めた。



使い魔「聞いてください。みなさん ここにいる勇者が必ずや黒い化け物を退治してごらんに入れます。」



キロ「えっ・・・」

群集はしばらくどよめいたが

「うるせーすっこんでろ!!!」

イライラしているのか、石を投げる者までいる始末。

キロ「痛い、痛い」



キロ「余計な反感買うからやめてくれ」

使い魔「キロさん、ここで待ちましょう。しばらく待っていれば、ここに悪魔が現れる気がします。」



正午から暇をつぶしながら待つ、すっかり、あたりが暗くなってきた。。



キロ(俺、何してるんだろう・・・)

化け物を退治すれば、英雄になれるんだろうか・・・もしかしてその功績が噂になってもう一度カルデラの城の警備兵に再就職できるなんてことにならないだろうか・・・




グゥオオオオオオオオオ

遠くで叫び声が聞こえた。

グゥオオオオオオオオオ

だんだん近づいてくる・・・・



間違いない。また、あの化け物がこちらへ向かってきている。

屋敷のまわりにいた人々はチリジリに逃げ出し始めた・・・

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