ほのかなほのおはほのかおり

小夜子のマナが割れ、そこから魔獣が姿を現した。



一方小夜子の本体はそのまま倒れ、力つきる。



その魔獣は炎に包まれた巨大な鳥、フェニックスの姿となり、甲高い鳴き声をあげていた。



「小夜子が魔獣に…どういうことだ…?」



滅斗は自分より幾分背の高い不死鳥を見て狼狽える。



「小夜子は…魔女となってしまった…こうなったら倒すしか…」



キギョウは苦い表情をして拳で汗を握る。


「駄目!」


足を踏み込むキギョウの腕をしがみつき、攻撃を制止するまほ。



「小夜子ちゃんを元に戻そうよ!小夜子ちゃんはきっと元に戻るはずだよ!!」





まほはキギョウの言葉に反対の声をあげ、元に戻そうと涙目で諭す。



まほの熱い心を感じたキギョウはそんなまほを見て顔を綻ばせる。



「ふっ、そうだな…何度も何度も語りかければあるいは…」



そしてキギョウは一歩前にでる。

キギョウは身を固めて二人に言った。



「俺が囮になる!お前らは小夜子に語りかけろ!」



「うん!」「ああ!やってやる!」



キギョウの言葉に答える滅斗とまほ。



「クロネコさん!強化魔法!」


「ああ、頼む!」


まほはステッキに祈りを込めて放った。


「プロテクト!」


プロテクト、それは空気のウールを作り、衝撃を和らげる魔法。


これによってどんな致命的なダメージも、この魔法で軽傷程度でダメージを抑えられる。



「小夜子ちゃん!聞こえる?私だよ、まほだよ!!」


「小夜子!俺がわかるか!?」



まほと滅斗は必死に不死鳥(魔女となった小夜子)に呼びかける。



その時、不死鳥は空中に炎の隕石を作り、それをキギョウめがけて落としつける。


隕石は猛スピードでキギョウめがけて飛んで来る。



キギョウはそれを避け、時には拳で撃ち砕き、不死鳥から滅斗とまほを守る。



グオオオオっ!!!



轟(とどろき)を上げ食らいつかんとばかりに襲ってくる隕石。



受け流し、守り続けるキギョウだったがそんな時、不死鳥は翼をバットのように振るい、キギョウの体を横から殴りつけた。



「うごっ!」



プロテクトで防御力を上げているにも関わらず物凄い衝撃がキギョウの全身に伝う。



ドオオオオン!!



キギョウの体は建物の瓦礫にぶつかり、瓦礫は粉々に砕かれる。



「キギョウ!」「キギョウさん!」


キギョウの無事を叫ぶ滅斗達。



「大丈夫だ…、こんな攻撃、屁でもねえ…、お前らは呼び続けろ!小夜子を!!」



キギョウは痛む体で立ち上がり、両手を重ね、祈るように構える。


不死鳥は気が触れたかのように猛攻撃をキギョウにぶつける。



キギョウは両手でガードしながら吹き荒れる炎や宙から放たれる隕石に耐え続ける。




(そうだよ、もっと攻撃を加えて来やがれ!あんたはその分の攻撃をおてんと様から受けて来たんだ!)



キギョウの体は不死鳥の攻撃から火傷や打傷などでボロボロになる。


キギョウは現にギリギリ体を持ちこたえている状態だ。


しかしキギョウはこの痛みを小夜子の痛みと感じ、必死に受け止め続けた。


(怒ってんだろ?何もかも許せないんだろ?わかるよ…)


「小夜子ちゃん!」「小夜子!」


滅斗とまほは小夜子に呼びかけるが不死鳥はそれを聞かずにキギョウに憎しみをこれでもかと言うほどぶつけ続ける。


(全身が痛え…だが、小夜子が元に戻る為なら…俺はサンドバッグにでも何でもなってやる…だから、これで気が済んだら…目を覚ましなよ、小夜子!!)


キギョウは不死鳥からの攻撃を受け続ける内に、あの日の事を思い出した。


ーーーー



キギョウの同僚が激しいイジメに遭い、上司から殴られ続けるのを見ていても立ってもいられなくなったキギョウは、がばっと前に出て、同僚を庇った。



「もう許してやれよ!こいつだって頑張ってんだ!!」



キギョウは上司に果敢に叫んだ。



その日以降、キギョウはその同僚の身代わりとなり、日々を過ごしてきた。


その同僚も、キギョウと逆の立場になったのだが、自ら庇いには出ず、蔑みか同情の目で見ているのみになった。




業務机に生け花がおかれ、上司にはクズ呼ばわりされ、一人では出来ないような非常に重いノルマを課され、リンチも受け、誰も手助けしないような環境でキギョウはそれでも自分を認めてくれる者は現れるだろうと、必死にやってきた。


正義の味方はドラマの中では評価され、味方につくものも現れたりはするが現実社会はそうはいかない。



人権を無視して好き放題している方に人は味方し、いじめを庇った者はいじめを受けた者の身になり、誰もいじめを止めようとはせず、苦しんでいる者を蔑みを含めた同情の目で見る。


キギョウはその身になり、そう言った現実を目の当たりにし、自分の為に生きる事にした。



ーーーー


(へっ、世の為人の為なんて、ずっと前にやめたはずなのに…ずっとこうして生きてきたはずなのに)



キギョウは気がつけば人助けのような事をしていて、フッと笑みを漏らす。


(なんで…世の中は頑張ってる奴に冷たいんだろうな…)



キギョウはあの日の事を思い出し、攻撃を受け続けているにも関わらず、感慨にふける。


「正義感だけでは街を救えないし愛する人も救えないって言ってたよな…いいんだよ。それが正解さ」



キギョウは小夜子のあの日語った内容を思い出す。


キギョウは少なくとも、今の言葉が今の自分の考えている事と似通ったものを感じ取った。



それだけの事を小夜子は見てきていたのかも知れない。




「お願い!元に戻って!ずっと一緒に魔獣を倒そうよ!」



「俺はあんたのあの笑顔がまた見たいんだ!お願いだ!元の小夜子に戻ってくれよ!!」



まほと滅斗は必死に呼びかける。



しかし、それでもなお、不死鳥が目を覚ます事は無かった。


(頼むよ神様、こいつは充分に痛い目を見てきたんだ、だからちょっとくらい…幸せな夢を見させてよ!)



キギョウは小夜子が元に戻り、また楽しい日々を過ごしてもらうように神に祈る。



だが神はキギョウの声には答えず、不死鳥の攻撃はエスカレートしていく。



キギョウはその場で倒れる。



「「キギョウさん!!」」



二人はキギョウに駆け寄ろうとするが、不死鳥の隕石が滅斗達に飛んで来る。



「バギィ!!」



キギョウは滅斗達の危機を感じ取り、体を振り絞って隕石を砕く。



「小夜子!聞き分けが無いにも程があるぞっ!!」



キギョウは怒鳴り声を不死鳥にぶつける。


不死鳥はまたもキギョウを翼で叩きつける。


キギョウは大地に叩きつけられ、大地には血痕が付着し、衝撃によって宙に跳ねる。


(畜生…全身がボロボロだ…もうトドメ刺すなら早くしろよ…)



キギョウは仰向けに倒れ、これ以上は動かなくなる。

そんな時、一人の女性がキギョウを守るように不死鳥の前に立ちはだかった。


「はぁ、はぁ…ゴホッ!」


女性の口から赤い滝が地に降り注ぐ。



巫女の衣装を羽織り銀髪を揺らめく細身の女性。


女性は立ち上がれるのがやっとという状態で、痛む横腹を手で抑えていた。



「あんたは…?」



目の前の女性にただただ驚くキギョウ。



しかし女性はキギョウの言葉には答えず、苦しそうな声でまほに声をかける。



「まほ様!キギョウ様に回復魔法を!」



呼ばれたまほは「はい!」と驚くように返事をし、魔法でキギョウの全身に受けた傷を癒す。




その女性は先程妖狐の姿で神社にいたアヤネで、アヤネは病による痛みをひきづってキギョウ達の前へやってきたのだ。



そしてアヤネは手を重ねてひざまづいた。



「貴方がたは早く行きなさい、後は私が引き受けます。


そしてアヤネはキギョウに背を向けたまま言った。



「キギョウさん、敵は[ブラックホール]です!ブラックホールがブラック企業を増やし続けているのです!」



「ブラックホール!?」



キギョウも初めて聞く名で、疑問詞で聞く。



「そこは一箇所にとどまっています、しかし、物凄く凶悪で、凶暴な魔獣です!」




そしてアヤネは呪文を唱える。



すると目の前に赤いガードレールが現れキギョウ達が入り込むのを遮る。




「さあ、お前ら、行くぞ!」



「でも、あの人はどうするの!??」



放っておけないまほはアヤネを助けようと言い出す。



キギョウは悲しい目をして言った。


「あの人なら無事だ、だから眠ってろ!」



キギョウはまほの首を軽く叩き、ショックを与えて寝かせた。


「キギョウ!何すんだ…!」



「滅斗!お前もだ!」



キギョウも滅斗の首筋を軽く叩き。眠らせる。



キギョウはまほと滅斗を担ぎ、そのまま走り去った。



キギョウが走り去り、いるのはアヤネと小夜子のみになる。



「心配入りません、小夜子、一人ぼっちは寂しいですものね、これからはずっと一緒です…」


アヤネは髪飾りを解く。



それはシスター時代から持ち続けていた白いロザリオだった。



そしてそのロザリオに軽く口づけし、手から離した。



地に落ちようとするロザリオ。




その刹那、アヤネは手から大きな槍を持ち出し、立ち上がる。



そしてその槍でロザリオと不死鳥を同時に力の限り突き刺した。




そしてそのロザリオは光りだし、アヤネと小夜子を爆風に巻き込んだ。


ーーー

ある日、不思議な力を持つ少女がいました。


少女は持っている力で沢山の人々を助けました。


しかし人達は少女のその力を見て少女を魔女と批判して来ました。


その場にいられなくなった少女は他の地へと移らざるを得ませんでした。



しかし少女は善良な心を捨てず沢山の人を魔法で助けました。



しかしそんな少女を尊敬する人は誰もいなく人々はそのまま幸せを享受しながら過ごしていました。



それでも少女は幸せです。



ひとりぼっちでも幸せです。


ーーー


小夜子…しかしその後は続きがあるの…。


一人の人間が傷ついた少女を助けるのよ…。



貴女は一人ではありません。


戦っている貴女の姿は必ず誰かが見ています。


ドオオオオン!!!



爆音と振動が結界の中から響いてくる。



キギョウはまほと滅斗を担ぎ、ようやく結界の外に出ることが出来た。



二人を一度に担いでいるので早く移動は出来なかったが、何とか外へ出るのには成功した。




「すまねえな、結局小夜子を助ける事は出来なかったよ…」



キギョウは気絶させられているまほを見つめて囁く。



「さあ良い子は家で寝んねするんだ、大人のお遊びに付き合ってる場合じゃねえぜ!」



キギョウは二人をそれぞれの家に預け、自分は最後の激戦の地へと歩いていく、



夕日は既に沈もうとしている。



しかしキギョウは歩くことをやめない。



大人の血なまぐさい戦いに二人の少年少女に巻き込む訳にはいかないとキギョウは孤独の寂しさを噛み締めながらもブラックホールへと歩いて行った。


一人でキギョウが歩いている時、二人の声が同時にキギョウの耳に聞こえてきた。



「キギョウ!」「キギョウさん!」


「!」


ピクリとし、振り向くキギョウ。



キギョウが振り向いたその先には、夕日に照らされた少年少女の姿があった。


まほと滅斗である。


それぞれの家に寝かされていた彼らだが、キギョウがただ一人最後の戦地へと向っているのを知り、ここまで来たのだった。


「キギョウさん!ブラックホールに乗り込むんでしょ!?私も行く!」



フリフリのドレス、リボンをした魔法少女、まほはステッキを構えて強い意志を持って答える。



「キギョウだけには行かせないぜ!これまでも一緒に戦ってきたんだ、もう何も怖くない!」



滅斗もハチマキで気合いを入れ、シャツと学ラン姿で登場する。


二人の姿を見て、一瞬表情が明るくなるキギョウだが、再び彼らに背を向け、言葉を走らせた。



「お前達はついてくるな、足手まといだ」



キギョウは静かな口調でそう言う。


足手まといと言うのは嘘で、彼らがいないとこの上なく寂しいのはある。


しかし、滅斗達には学校があり、本来なら青春を過ごすべき少年少女。


それを自分のような企業戦士の為に、人生を棒に振るって欲しく無く、キギョウなりの、彼等への優しさだった。



「何でだよ!これまでも俺達協力してきたじゃんかよ!」


「そうだよ!私も今は小夜子ちゃん程じゃないけど一人前の魔法少女になれたんだよ!足手まといにはならないから…」



二人は聞かずに戦いに行くと言う。


「ついてくるなって言ってるだろ!!!」


キギョウは大声で怒鳴る。


ビクンとし、押し黙る滅斗達。


キギョウは二人に背を向けたまま静かに諭す。



「お前達は学業に励んで立派な大人になる為に青春も勉強も頑張らないといけない時期だ。こんな泥臭い戦いに付き合ってつまらねえ大人になられちゃ、親も悲しむし俺としても嫌だ」



キギョウは二人には、自分のようなブラック企業に身を置いて辛い目ばかり見る大人にはなって欲しくなかった。



二人には感謝しているし、二人のおかげで成長出来たともキギョウは感じていた。



だからこそ、二人には幸せを掴んで欲しいと願っていたのだ。



「だからよ、お前らは家に帰ってつまらなくても学校に通って将来いいとこに行けるように沢山勉強して沢山遊べ、そうすりゃ何すべきか見えてくる」


キギョウは優しい声で二人に語る。


大人になる前に、何をするべきなのか。


大人になる前にすべきこと…


それは勉強も青春も同時に励み、面白おかしくくだらない学校に通う事。



勉強一辺倒で点取り虫になることでは無い。


遊び一辺倒でチャラチャラとヤンチャすることでは無い。



新しいことにチャレンジし、勉強にも遊びにも積極的に参加することだ。



キギョウはヤンチャばかりし、学校に通う事が馬鹿のする事と舐めきり、馬鹿をやっていたが為に、大人になってブラック企業にしか行けなくなり、今のような状態になった。



だからまほや滅斗には、自分のような大人にはなるなと言い聞かせたかったのだ。



(ふっカッコつけたこと言えた柄じゃねえってのに…俺もヤキが回っちまった…)


キギョウは思った。


自分よりもまほや滅斗の方が大人だと。


「へっ、話が長くなっちまった、二人とも、達者でな!!」



キギョウは漏れる涙と鼻水を手で覆い隠し、そのまま走り去った。



二人は涙してキギョウを見送る。



走っている時キギョウは思った。



(へっ、こんな俺にでもついていこうとしてくれるなんて…、ほんと救いようの無えお人好しだぜ!!)



感慨のあまりしょっぱい水がキギョウの目や鼻から溢れ出る。



(待ってろよブラックホール!俺はアヤネ、小夜子、滅斗、そしてまほがついている!例え場所が離れていようとも心は一緒だ!俺はお前らなんかに負けない…負けるもんか!!)



「不死鳥翼(ふしどりのつばさ)!!」



そしてキギョウは空にある要塞、[ブラックホール]へと、小夜子から貰った翼を羽ばたかせ空高く飛んだ。

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