ままはまままのままに

半年に一回、類を見ない強力な魔獣がキギョウ達の住む街に猛威を振るいにやってくると言う。



それは「ジェノサイドの夜」と魔法少女達の間で呼ばれ、恐れられている魔獣だ。



その魔獣は「天災」を巻き起こし、街を飲み込んでしまう。



その魔獣は強力な上に特殊であり、魔力の強力な魔法少女にしかその結界に踏み入れる事が出来ないと言われる。



だから大抵の魔法少女達は敢えてその魔獣をやり過ごし、過ぎ去るまで待っている。



そう、大抵は…。



しかしジェノサイドの夜はそのままにして置くと街中に災厄を振りまき、多大な損失と被害がもたらされるのも事実。



そして街を守る強力な魔法少女の活躍により、ジェノサイドの夜はその魔法少女に倒され、天災は起こらずにいつも通りに過ごせる時もある。


そして幸運にもその街には、ジェノサイドの夜に対抗できる強力な魔法少女はいた。


しかし、パートナーが病魔に倒れ、その部相応の力は発揮出来ないのは今回ばかりは確実だった。


「今回はよしておいた方が良いでしょう…私は見ての通り、動けません…今までは私の協力で倒して来れましたが…」



白に近い金色の毛に覆われた狐の妖精は一人の果敢にもジェノサイドの夜に立ち向かおうとする一人の巫女に言葉をかけた。



「いえ、私はその魔獣をどうしても倒し、街をいつも通りの、平穏に保つ責務はあります。それはあの子へのせめてもの罪滅ぼし…」



巫女の衣装を羽織った魔法少女はパートナーの妖精に熱い眼差しと声で答えた。



その巫女は恐怖心を押し殺すように拳に力を入れていた。


しかし、その魔獣を倒す事が今は亡き妹への罪滅ぼしだと考え、その魔法少女は引くことは無かった。



「小夜子、そこまで言うのなら私にも止める事は出来ませんが一つ、約束してください」


「はい」


「この間知り合った魔法少女達にも手伝って貰いなさい、あの魔獣はこれまでは私もいたから良いですがお前一人ではまだ無理です」


パートナーの妖狐、アヤネは一人ジェノサイドの夜に向かおうとする魔法少女、小夜子に言い聞かせた。


小夜子は哀しい瞳で答えた。


「はい…そうします」



そして袴 小夜子はただ一人、ジェノサイドの夜が訪れる街の中心部へと足を踏み入れる為に、住む神社を後にする。



そして小夜子は心の中でアヤネに詫びをかけた。



(私の我儘をお許しくださいアヤネ様…、あの方達は私の大事な友達…だから、あの方達まで巻き込む事は私には出来ないのです!)



小夜子の瞳から一筋の涙が伝う。



外は暗く、一般の者達は寝ている時刻、そんな中、一人の魔法少女は街を守る為にジェノサイドの夜を討伐しに向かうのだった。


三年前ーーーー



神社で共に魔法少女の特訓を重ねながら過ごしてきた小夜子と妹ナツキ。



ある日ナツキは言った。



「今日ってじぇのさいどの夜っていうのが来る日でしょ!あたし達も凄く強くなったから3人で戦えば勝てるよ!みんなで行こうよ!!」


ナツキは張り切ってジェノサイドの夜を倒そうと息巻いていた。



「残念ですがまだ無理です、私達はまだ充分な実力をつけていません、それにあなた達はまだ幼い、戦うならもっと強くなってからでないと…」


アヤネは困った表情でナツキに伝える。



「アヤネ様の言う通りよナツキ!私達にはまだ強くなってないんだから!静かにしなくちゃ駄目でしょ!」


小夜子は強めにナツキを叱る。



「ふん!小夜子お姉ちゃんは私がもう覚えた「風の魔法」をまだ覚えて無いからあの魔獣は倒せないんだよね!!」


ナツキは小夜子を見下すように言葉を放つ。


ナツキの言葉が思ったよりダメージが大きかったのか、小夜子はナツキの一言で涙ぐむ。



ただ、ナツキを憎たらしげに睨みつけていた。


「ナツキ!お姉ちゃんにそんな事言っちゃダメでしょ!」



アヤネも流石にナツキは言い過ぎと思い、強めに叱る。



「アヤネさまだってあたしの魔法褒めてたじゃない!あたしはじぇのさいどの夜をお姉ちゃんより先に倒すもん!あたしの方が物覚え良いんだから!」



それでもナツキは嫌と言うほど小夜子を悪く言う。



それで堪忍袋の緒が切れた小夜子はナツキの頬を強く引っ叩く。



パシンっ!


小気味の良い音が部屋に響いた後、小夜子は怒鳴る。



「ナツキの馬鹿!もう知らない!一人で魔獣と戦いに行けば良いんだわ!!」



と言い、泣き出す。


そしてナツキも泣きながら


「言われなくたって行くもん!!」


と叫び、大声で泣く。


やれやれと言った表情でため息をついていたアヤネは、早く作らないとと思い、夕飯の準備にとりかかろうとした。


ーーーー


「アヤネ様!ナツキがいないの!!」


小夜子は表情を青ざめ、ナツキがいない事に慌ててアヤネを呼びに来た。


「え?」


アヤネも顔に動揺の色を見せる。


ナツキは小夜子とアヤネにとってかけがえの無い家族。


そして今ナツキがいない事に動揺と混乱が二人の間で渦巻くのだった。


ーーー数分程前ーーー


「ナツキ?叩いたりしてごめんね?だから…」


小夜子はナツキに引っ叩いた事を謝りにナツキがいそうな所を所々探す。


しかし、家中の何処にも彼女はおらず、外は既に夜になり、暗い。


小夜子は胸騒ぎがしだし、アヤネと一緒に探さなきゃとアヤネを呼ぶ


ーーーー。




「二人で手分けして探しましょう!大丈夫!何処かに必ずいるはずよ!」


「ふえぇ…、私が…私が…」


泣きそうになる小夜子をアヤネは励ましながら、手分けしてナツキを探した。



ーーーー


それから数十分経ったある時、小夜子は鬱蒼とした草むらの中で、小さな子供の素足をこの場で見た。


まさかと思い、目の前が暗くなる感覚を覚える小夜子。


震える手でその正体を確かめる為に草を掻き分けるとーーー



その日以降小夜子は自分がナツキを殺したとひたすらと責めだし、アヤネ以外の周囲との付き合いを避けるようになった。


そんな小夜子が中学生になり、退屈な授業を受けながら時を過ごしているある日のこと。


小夜子にとってマークしなければならない存在が現れる。



それは平穏な日々を過ごしている薄椅子 まほを魔法少女にしてしまった魔法妖精、クロネコこと黒井 キギョウである。


平凡で家族がいて、不自由の無い少女を魔法少女にする事は不正行為であり、あってはならない事。


人付き合いを避けてきた小夜子だったが、黒井 キギョウには敵視を示さなければならず、あの形で出会った。


当初は憎み合う者同士で対立していたが、キギョウも小夜子を知るようになり、また小夜子もキギョウを知るようになり、今は最高の友達となっている。



小夜子は自分の為に犠牲は増やしたくないと思い、今回はキギョウ達に助けを求めず、ただ一人ジェノサイドの夜が訪れるのを待っていた。


ーーーー滅斗の家



窓越しに外を眺める滅斗。


「一雨来そうだね…」


滅斗はキギョウに問う。



「ああ…」



「今日はジェノサイドの夜が来る日でしょ?私達は行かなくて良いのかなぁ?」



滅斗は目を細める。



「ジェノサイドの夜は俺達の手に負える相手じゃない、街は滅茶苦茶になるだろうが…これまでも何度も来たが大丈夫だろ…[異常気象]で片付けられてきたからな…」



キギョウはベッドの上でしゃがみ、よそを向いたまま答えた。


「しっかし歯がゆいよな、あのタチの悪いやつをみすみす放って置かなきゃいけないなんてよ!」


ステッキは悔しさで歯ぎしりする。


「大丈夫さ、この街には守り神様がいる、俺達も行きたい所だが…俺達が行ったところで足手まといになるだけだ」


キギョウは淡々とステッキを諭す。


しかしキギョウは案じていた。

小夜子達は無事に奴を倒せるのだろうかと。


ーーーー



小夜子の街の辺り全体は濃い瘴気につつまれる。


これまでに無い巨大な魔獣が現れるサインだ。


その瘴気は魔法少女の目には紫色の煙に見えていると言う。


その時、強い風が吹き荒れ出す。



そして球体が空から舞い降りてきて、そこから黒い蛇のようなものが、うねりを上げて空を舞っていた。



ジェノサイドの夜、半年に一度現れる最大にして最悪の魔獣。



大方の魔法少女はその魔獣を見送ると言うが、ただ一人、袴 小夜子だけは果敢にもその魔獣に戦いを挑んでいて、これまでにアヤネとの共闘で倒してきた。



しかしアヤネは病に伏し、今は小夜子ただ一人。


(八百万の神様、私にどうか力をお貸しください!!)


小夜子は強く念じ、魔法で両手から炎に包まれた弓矢を出す。


ーーー小夜子から発する炎



因みに小夜子の手や体から発する炎は[退魔用の炎]であり、人には風が吹く程度の感触は与えるが熱さは感じられず、目にも見えない。




しかし、魔獣や魔女には威力を発する。



また本人の体にも熱さも痛みも感じず、風の感触のみ当たる。



ただ、何らかの超常現象は起こす事は可能であり、空を飛んだり、実際に炎を起こしたり等は出来る。



なお小夜子は魔法少女として既にベテランの域にはあり、炎以外にも人の体を治療させたり姿を消し、或いは過去を覗いたり等は可能である。


小夜子は炎の弓矢を力一杯引く。



「火炎乱舞(かえんらんぶ)!!!」



小夜子の放つ矢は一層炎を燃え上がらせる。


そしてジェノサイドに放たれる。




と思いきやその前に多くの蛇がその弓矢を食いちぎってしまう。



「妖刀迦具土(ようとうかぐつち)!!」


小夜子は右手を天に掲げ、また炎に包まれた刀を手のひらから出す。



そしてそれを両手で握りしめ、


「不死鳥翼(しなずどりのつばさ)!!!」



と背から炎の翼を生やし、それを羽ばたかせ空をジェノサイドの夜めがけて舞う。



「破ーーーー!!!」


小夜子は雄叫びを上げながら空を舞うスピードを上げる。



その間も多くの黒い蛇が小夜子を食いちぎらんと襲ってくる。


「やあっ!」


小夜子は妖刀でその蛇に一閃を加え、真っ二つに裂く。


そしてまた一つ、また一つと凄まじい勢いで小夜子に襲いかかる黒蛇。


宙を舞う巨大な黒い大蛇を炎の翼を羽ばたかせ、両手に持つ妖刀迦具土で次々と斬り裂いていく小夜子だったが、小夜子が大蛇を裂いた直後その隙をついて後ろから大蛇が小夜子を襲い狂う。



「きゃあぁ!」


小夜子の体に衝撃波が伝わり、小夜子の翼は黒蛇のうねりによってかき消される。



その時、また多くの黒い大蛇、いやジェノサイドの夜から放つ漆黒のオーラは小夜子の体全体を包み、



小夜子を漆黒の世界に閉じ込めてしまった。



ーーーー



アヤネはその時に脳裏に電撃が走り、小夜子の危機を感知する。



(小夜子さん!?あの子は一人で…!)



アヤネは小夜子が忠告に従わず一人でジェノサイドの夜と戦いに行ったことに焦りを隠せない。


しかし、焦る暇は無く、アヤネはテレパシーを神社から数キロ遠くに送る。


ーーーー



アヤネの送ったテレパシー。



それはキギョウに送られたのだった。



キギョウの脳裏から女性の声がしだす。



『キギョウさん!大変です!小夜子が、小夜子が魔獣に囚われてしまいました!!』


「なんだって!?」



つい声をあげてしまうキギョウ。


「な、なんだクロネコ?」


「どうしたのクロネコさん?」


滅斗とステッキが同時にキギョウに目を向け、問う。



「お前ら!急ぐぞ!」


クロネコは焦りから表情を強張らせ、滅斗達を急かす。



「何があったの!?」


クロネコの慌てぶりにつられて慌てるように滅斗は問う。



「小夜子が魔獣に食われかけている!」


「「えぇ!!?」」



滅斗とステッキも小夜子の危機にいても立ってもいられなくなり、小夜子を助けにジェノサイドの夜の元へと駆けつける為に家を飛び出す。


走る滅斗とキギョウ。

外はその時雨が降っていた。

だが今の滅斗達に傘を差す余裕は無い。



「お前ら!みえるか!?」

「何!?」

「あそこに紫色の霧がかかっている!」

「何だよ?霧って…」

「見えないよ?」



わからないと返事をする滅斗とステッキ。



「と、とにかく急ぐぞ!!」



キギョウは走るスピードを上げ、滅斗をジェノサイドの夜の元へと導く。



その霧は魔法妖精か練度の上がった魔法少女だからこそ見えるもので、生身の人間か中堅以下の魔法少女に見えるものでは無い。



滅斗は走る途中で変身し、姿をまほに変える。



「成る程!見えてきたぜ!」


まほは叫んだ。


「あそこに突っ走れ!ジェノサイドから小夜子を救いだすぞ!!」


「合点承知の助でい!!!」



キギョウとまほは全力でジェノサイドの夜の元へと駆け出した。


ーーーー


小夜子は暗闇に包まれる。


(どうしたの!?暗闇で見えない!)



小夜子は目の前の暗闇に狼狽を覚える。

さすがの小夜子も弱気になりだし、誰かに助けを求めようと声を出しかけた時、目の前は白い姿を現す。


それは人型をしており、徐々にその正体を小夜子に見せつける。



「!!」



小夜子はその姿に声も出せない程の感情に襲われる。





その姿は、泣きそうな顔をしたナツキの姿があり、その体は傷だらけだった。



『小夜子お姉ちゃん…なんで…なんで早く助けにきてくれなかったの…?』



ナツキは泣きながら小夜子を責め立てていた。



「ナツキ…ごめんなさい…」



小夜子は哀しみに襲われ、涙をボロボロと流し、泣き崩れる。



「ナツキは私が殺してしまったようなものだわ…私があんな事で怒らなかったら…」



小夜子は自責の念に駆られ、ナツキの元へと歩み寄った。


ーーーー


キギョウは今、建物五階だて分程の巨大な球体の形をした魔獣の前に立ちはだかっている。



その魔獣は先程小夜子が戦っていた[ジェノサイドの夜]と言い半年に一度現れる最強にして最悪の魔獣だ。



その姿を見たキギョウとまほ。



キギョウとまほは本能的に感じ取る。



今の自分達が刃向かっても勝てる相手では無いと。



(しかし、あいつの中に小夜子が取り残されてるんだ!そしてアヤネも俺に助けを求めてる!俺が逃げててどうするってんだ!)



キギョウは心の中で喝を入れ始める。



(キギョウ!思い出せ!これまでブラック企業に耐えてきた日々を!)



キギョウは自分がブラック企業に耐え、怒鳴られ、時には殴られ、それでも必死に謝り、身が粉々になる程の重労働で何度か体を壊しかけた日々を思い出し、自分に喝を入れる。


キギョウの体から紫色のオーラが噴き出る。



「クロネコ!?」「クロネコさん!?」


同時にキギョウの身の変化に驚く滅斗とステッキ。



そしてキギョウから放たれる紫色のオーラは滅斗とステッキも同時に包む。



「俺はクロネコじゃねえ!ブラック企業従業員、黒井キギョウだ!!」



キギョウの体はぐんぐんと大きくなる。



そして180センチ程の長身となり、精悍な顔立ち、筋肉質の上半身に黒いズボンを履いた屈強の男の姿となる。



「え!?」「黒猫から人間に…!」


そして変化したのはキギョウだけでは無かった。



まほと滅斗は元の魂に戻り、ステッキは滅斗の姿となった。



「やった!私、元に戻ったんだ!」


「おぉ!すげえぜ!!」


喜び勇む滅斗とまほ。



キギョウの放ったオーラにより、滅斗とまほは元の身体に戻り、まほは魔法少女の姿のままで、滅斗はジャージを羽織った少年になっていたのだった。


「喜んでいる場合じゃねえ!あいつから小夜子を救いだすぞ!」


「おうっ!」



キギョウと滅斗は宙に浮くジェノサイドの夜を見上げ、構えを取る。



まほは片手に持つステッキを回しながら弧を描き、構えた。



「みんな!行くよ!ブースト!!」


まほはキギョウ達に強化魔法をかける。



キギョウ達の全身に力がみなぎり、脳内にあるエンドルフィンが活性化される。



「フライト!」



そして引き続いてまほは皆に魔法をかける。



するとキギョウ達3人の背から翼が生え出す。



「小夜子!無事でいろよな!俺達が助けに行くからよ!!」



キギョウはそう念じ、地を蹴って強く翼を羽ばたかせ、空高くジャンプする。


「滅斗君!行こ!」


「まほの癖に命令すんじゃねえ!」


まほと滅斗も地を蹴って空高く舞い上がる。


「ホーミング!!」



まほの周囲に現れる50センチ程の光る球体。

まほは数個あるそれを一斉に魔獣にぶつける。


「まほなんかに良いところは取らせないぜ!!」


滅斗は1秒に50発撃つ程の百烈拳を魔獣にぶつける。


「うおおお!!」


キギョウは手から波動を発し、それを魔獣に放つ。


キギョウから放つ波動は巨大な放射の如く魔獣を焼き尽くす。


それに加え3人から放たれる連続攻撃。

しかし魔獣には一向にダメージを与えられない。


それどころか魔獣に逆鱗を触れさせ、一度に沢山の黒い大蛇がキギョウ達に襲いかかってきた。


「ぐああぁっ!」

「きゃああぁ!」


黒いオーラに巻き込まれる滅斗とまほ。


「滅斗!まほ!!」


暗闇に吸い込まれたまほ達を大蛇を振り払いながら叫ぶキギョウ。



「よくも…よくも俺の仲間達を!!」



キギョウのオーラは更に眩い光を放つ。



キギョウは強敵(とも)の業(わざ)を受け取るために精神を集中させる。



「羅忍苦(ラーニング)!」



羅忍苦、それはキギョウが複雑で難しい仕事を覚える為に職場の先輩から悪態を突かれながら覚えた業(わざ)である。



しかしその業(わざ)はブラックフォースと言う力によってラーニングする為、自分の身体に何らかの影響を与えてしまう。


しかしキギョウはその事はどうでも良かった。



ただ、自分の持っている業(わざ)を全力で使うと自分の身が砕け散る。



なら強敵(とも)から業(わざ)を譲り受け、放った方が負担が少ないと強敵(とも)の業(わざ)を思い出し、自分の物としていく。


小夜子、滅斗、まほが使っていた業(わざ)がキギョウの脳と身体に染み渡る。


キギョウは三人の強敵(とも)の業(わざ)を自分の業(もの)とした。



「小夜子!滅斗!まほ!てめえらから貰った技をジェノサイドにぶつけてやるぜ!!」



そしてキギョウは小夜子の火炎乱舞、滅斗の百烈拳、まほのホーミングをジェノサイドにぶつけた。



小夜子の炎が宙を猛スピードで焼き尽くし、まほの無数の光弾がジェノサイドに炸裂し、滅斗の百烈拳がジェノサイドの身体を連続して炸裂する。




しかし、ジェノサイドの夜にはこれらの攻撃も全く通用しなかった。



「なっ!?」


戸惑うキギョウ。


三人分の力を全力で使ってもジェノサイドの夜には傷1つ与えられない。



そんな時、ジェノサイドは反撃をキギョウにお見舞いした。



「ぐああぁっ!!!」



地面に落下するキギョウ。

キギョウがぶつけた分の攻撃がカウンターで返ってきたのでキギョウの体はボロボロとなる。



「畜生!ありったけの攻撃をぶつけたのに効きやしねえ…」



ジェノサイドは次々と漆黒の大蛇を放ちキギョウを喰らおうとする。


「畜生!」



キギョウは襲いかかる大蛇からその場から逃げ惑う。



ドカーン!!ボフーン!!


大蛇は地上の街の建物を次々と破壊し、そこから煙や土が舞う。



人々はそれに気付き、喚きながら逃げ惑う。



キギョウは建物の物陰に隠れ、まほの魔法「ヒーリング」で自分の体の怪我を治した。


「ちっ、アレを使ったら10年寿命が縮んでしまうが…相手はこの上ない強敵だ…今だけは使うしかねえ!!」


そしてキギョウは切り札的なあの技をジェノサイドにぶつけることにした。



キギョウはそこで、外へ顔を出し、前へ踏み出し、距離をジェノサイドに近づけ、10メートル先の所で立ち止まる。



「俺のブラック企業で編み出した必殺技!ここで決めてやるぜ!!!」



キギョウは拳をジェノサイドに向けて、闘気を放った。


「酷使残酷拳(こくしざんこくけん)!!!」


酷使残酷拳、それは使い手のストレス、心の闇を闘気に変えて放つ技。



酷使残酷拳はブラック企業での嫌な思い出をモヤモヤと募らせ、それを闘気に変え、闘気は巨大なパープル色のレーザー光線となり、敵を破壊する究極の必殺技。



威力は街一個分は木っ端微塵に出来る程の強さだが、本人の寿命は使う度に10年縮んでしまう。



いわば諸刃の剣なのだ。



その為キギョウは使うのをためらっていたが相手が相手だけに今は使うしか無かった。



キギョウオリジナルの必殺技、酷使残酷拳が波動砲のように魔獣に襲いかかる。



「グギャアアァ!!!」



激戦の末、キギョウは3人から貰った力と自分の力を結合させたパワーで、ジェノサイドの夜を撃破した。


「はぁ、はぁ…」


キギョウは全身に汗と傷を作り、息はすっかり荒げている。



街周辺はキギョウと魔獣の激戦により崩壊され、建物の大半にはキギョウと魔獣が戦った傷痕が生々しく映っている。



そして日は昇り、太陽が出始めていた。



長き戦闘の疲労だったが、ブラック企業で罵られ、こき使われた後の疲労の事を思えば、キギョウにとっては大したものでも無かった。



そしてキギョウによって介抱されたまほと滅斗は目を覚まし、起き上がる。



「う…いてて…」


「私、勝てたの?」



キギョウはまほの問いに答える。



「ああ、俺達の手でジェノサイドの夜を倒したんだ」


実際はキギョウの力だが、キギョウにとってまほ、滅斗、小夜子の力を借り、自分達四人で魔獣を撃破したのだ。



「それより小夜子は!?」


「あ、ああ!」



キギョウ達は街の周辺を探し、そして小夜子を見つけるが…。


小夜子は苦しみにもがき、喘いでいた。

そして叫んでいた。


「ナツキ…許して、許して!」と。


小夜子の全身に脂汗が噴き出て、血管が所々に浮き出る。


ヨダレが垂れるのをそのままに余りの激痛に目は白目を向く。


小夜子は今、全身の痛みや心の痛みに襲われていた。



「こ、これは…」



「どうしちゃったの!!」



変わり果てた小夜子を見て狼狽を隠せないまほと滅斗。



そして小夜子の首筋には痣が映っていた。



X印の痣が…。



「小夜子…既に魔獣の印を付けられていたのか!」


キギョウも顔を強張らせ、狼狽の声を上げた。


「!!あ…貴方達!?」


キギョウ達に気がついたのか、目をキギョウ達に向け、口を滑らす。


「小夜子ちゃん!今のマナキューブを…」


まほはマナキューブを小夜子の魔力に流し込む。


マナキューブは小夜子に流し込まれるが、すぐに小夜子の赤色に光るマナからは黒い煙が。



「どういうこと…?」



まほは半泣きになり、混乱のあまり体が震える。



キギョウと滅斗も、マナキューブを受けたにも関わらずすぐにマナが濁る今の小夜子をどうしたら助かるのかと狼狽えの色を見せる。



小夜子は息を切らせながらキギョウ達に伝えた。



「無駄よ…一度魔獣から印を受けてしまったら…すぐに魔力が…ぐああぁっ!!!」


小夜子はまたもがく。



「小夜子ちゃん!」


「小夜子!」


小夜子を抱き起こし、小夜子を元に戻すようにと叫ぶキギョウとまほ。



「小夜子!小夜子はどうなっちまうんだよ!!」


滅斗は大粒の涙を流しながら雄叫びを上げた。



「貴方達!早く逃げて…!」



小夜子がそう言った途端、マナは当然割れだし、その中から炎に包まれた美しくも恐ろしい魔獣が、キギョウ達の前に現れた。

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