巫女のミコミコパワーでミッコミコ

いつもの学校……。



「滅斗君ほんとにあり得ないよ!」


ステッキに毒突く滅斗。


「まほもあんな親の言うことヘラヘラ聞いてんじゃねーよ!」


言い返すステッキ。



「まあまあ…」


なだめるキギョウ。


昨日の事だ。


変身でまほの身体になれる事を知った滅斗は明るい表情で言い出した。



「そうだ!変身で私の身体になれるのだったらお父さんとお母さんに顔を見せていったらどうかな?私もお父さんとお母さんに会いに行きたいし!」


変身によってまほの身体が出現しだしたのなら親に元気な顔をみせてあげたいと滅斗は言い出したのだ。


しかしそれがかえって災いを引き起こすことになろうとはまほは考えてもみなかった。


「かったりいけどしゃあねえな!」



言葉を紡ぐステッキ。



「ああ、そうだな、上手くやれよ、滅斗!」


とキギョウ。


「まあ見といてくださいよ」


と軽く返事をするステッキ。



そして変身して滅斗の身体は消滅し、代わりにまほの姿がそこに現れた。


ーーーそしてまほの家ーーー



「お父さんとお母さん、きっと怒ってるんだろうな…」


ステッキは心配気に呟く。


「ああ、しかし怒ってくれるという事はそれだけ愛してると言う事なんだ」


キギョウはステッキをたしなめる。


そしてまほはドアノブを握り、家の中に入る。



入り口にはまほの父と母が立っていた。


「よ…よお…」


父と母のなんとなく漂う威圧感におののきながらも左手を上げてまほは挨拶をする。


やはり父と母は怒っていた。


「夜道に一人で歩いて悪い男に捕まったらどうするつもりだったんだ!!」


「あんなに真面目だったあんたが1日も帰らずどこをブラブラしてたんだい!??」


家中に響く親の罵声。



今はステッキに収まっているまほは(お父さん、お母さん、心配させてごめんね)と心の中で囁くが、一方のまほの身体を借りている滅斗は親の罵声に我慢できなくなり、思わず怒鳴り返した。



「俺はてめえらみたいな口うるさいクソ親といるのが嫌になって家出したんだよ!悪いか!??」



「貴様親に向かって!!」


父親はまほの衣服を掴むがまほは負けじと抵抗する。


ガシャン!グシャ!


家の物がまほによって投げられ流石の父親も怯む。瞬く間に玄関は物が投げられた後でぐしゃぐしゃになった。


「あんな良い子だったまほが何故…!」


母親は泣いていた。


そんな母親にまほは気にも止めず



「こんな家こっちから出て行ってやるぜ!じゃああばよ!達者でなぁ!!!」



と勢いよくドアを閉め、家から飛び出してしまった。


「待ちなさい!まほ!!!」


両親はまほを引き止めようと家を飛び出す。



するとまほの姿はそこには無く、代わりに男子学生が立っていた。



「お父さん、お母さん…」


泣きそうな顔で呟く男子学生。


「滅斗君??」


母はまほの幼馴染、滅斗は知っていた。


しかしやんちゃな滅斗しか知らない母は目の前のおとなしくなっている滅斗にやや戸惑っていた。


「ごめんなさい!!」


そう言って滅斗は涙を流しながら父と母から姿を消す。


「????」


一体どうしたんだと言う表情で滅斗が走っていくのを見送る両親。


まほとなって父と母と過ごしたいと考えていたまほ(身体は滅斗)だったが、それは滅斗(身体はステッキ)の乱暴な行動で潰されてしまった。


ーーー時は遡り、教室。


滅斗は困り果てた様子に机にへばりついている。


そんな時、横からほのかないい香りが滅斗の鼻を包み込んだ。



滅斗の前に女子生徒が現れたのだ。



サラサラした黒髪のロングヘア、女子中学生としてはやや大人びた、と言うより神秘的な感じすら感じる佇まい。



ほっそりとした色白の身体でどこか遠くを見つめたような目。


そんな少女が今、滅斗の席の前に現れたのだ。


「ちょっと良いかしら?」



ニュースキャスターの話し方を思わせる淡々とした口調で滅斗に話しかける少女。




「袴 小夜子さん?」


尋ねる滅斗。



小夜子とキギョウの視線がそこで合う。


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「!」


こちらを睨むように目を合わせる小夜子に背中が寒くなる感触を、キギョウは覚える。


(この子…俺が見えてるのか?いやまさかな…)


きっと虫でも這っていたのだろう。


偶然だ偶然。


キギョウはそう言い聞かせた。


そして、小夜子と呼ばれた少女に連れられ、屋上に連れられる滅斗。


キギョウも彼らについていく。


(この姉ちゃん…何者だ?)


滅斗らについていきながら、キギョウは訝し気にその少女を見ていた。、


ーーー屋上ーーー



空は青く澄み渡り、数人の生徒がそこで弁当を食べながら駄弁っている。



その目立たない建物の日陰にやってきた滅斗達。



(なんの用だろこの子…ひょっとして告白…!?)



滅斗は思わず顔を赤らめる。



(これはひょっとしてひょっとするぞ!?)



ステッキは何か語る訳でも無かったが、思っている事は滅斗と同じで、彼らに悟られ無いように色々と妄想を膨らませていた。



しかし小夜子は次の瞬間、滅斗達の事を知っているかのような口ぶりで言葉を放った。



「貴方は薄椅子 まほね?」


「え!!?」



小夜子に言い当てられ慌てる様子を見せる滅斗。



(なんだ…告白じゃないのかよ…)

ステッキはややがっくりした感じで呑気にため息をついていた。



その後、小夜子はキギョウの方にも目を向けた。


(ん?やはりこの姉ちゃん俺が見えてるのか??)



魔法少女にしか見えないとされる自分達魔法妖精が目の前の少女にも見えているのかと怪訝するキギョウ。



「そして貴方がまほのパートナーの魔法妖精ね?」


「やはり君もこの俺が見えてるのか…?」



キギョウは彼女の只ならぬオーラの前に詰まりそうな声を出す。


小夜子は何も語らずこくんと頷き、再び滅斗に向き直った。



「薄椅子まほ、その妖精さんからは何も聞かなかったの?」



「えと…なんのことだか…」


小夜子の問いに滅斗は困惑して苦笑いで答えた。



「今のは聞かなかった事にして」




と無表情のまま言い捨て、再びキギョウに向き直った。


「貴方はこの子達に伝えなければならない事があるんじゃないかしら?このままにしていては貴方のためにならないわよ」



「な、なんのことかな?」


口調は相変わらず淡々としていて感情の動きが全く読めない。


「何故この子達がこのようになっているか私が代わりに…」




小夜子は罵るような眼でキギョウを睨み、続きを言おうとする。



「てめえ!これ以上好き勝手喋るんじゃねえ!!」




キギョウは小夜子のその眼に恐怖と憤りの混ざった何とも言えない感情に襲われ、猫の黒い毛並を逆立てて血相を変えて怒鳴りだした。



思わずビクンとする滅斗とステッキ。


「…」


一方小夜子は無言のままキギョウを睨み、そのオーラにキギョウは背筋が凍りつく思いは癒えなかった。


「貴方は大事な事を伝えなければいけないのにそれを隠している。それがどれだけ罪な事かは貴方がよくわかっているはず…」



「ちっ、お前にお節介焼かれる覚えは無い!とっとと消えろ!」



キギョウは恐怖と怒りの混ざった表情で威嚇するように言い捨てる。



「クロネコさん、喧嘩はやめて…」



「あ…ああ…」



滅斗に悲しげな表情でそう言われ、ようやく我に帰るキギョウ。



「どうやら逆切れさせてしまったようね、じゃ私はこれで帰るわ」



そう言うと小夜子は踵を返し、教室へと戻って行った。



(一体なんだったんだ?あいつは…)



キギョウはリアクションの薄い口調ながらも自分の全てを鋭く指摘してきた小夜子と言う少女に対し、ある種の恐怖心を覚えた。



その後、小夜子からキギョウ達に何か話しかけてくる事は無かったが下校の途中、滅斗が何かを思い出したみたいにキギョウ達に言ってきた。



少し足のスピードを速めているキギョウに必死についていくように速めに歩く滅斗。


「ちょっとクロネコさん歩くの速いよ~!」


滅斗は息を荒げながら呼び止める。


「あ、ああすまない…」


キギョウは平謝りし、スピードを緩める。


「どうしたのクロネコさん、小夜子さんと話してから様子が変だよ?」


と滅斗。


「だよな、なんからしく無いぜ?先輩?」


ステッキもキギョウを手がうように紡ぐ。


「す、すまない、俺とした事が…」


心の焦りを隠すように苦笑いで答えるキギョウ。


「ところでさ?」


滅斗が思い出したようにキギョウに話しかける。


「小夜子さんもクロネコさんが見えるって事は小夜子さんも魔法少女と言うことだよね?」


「あ、ああ、おそらくな…」


ピクリとし、返事をするキギョウ。



「あの子も仲間に入れたらどうかな?滅斗君とクロネコさんだけじゃ何かと苦しそうだし…あと悪気があった訳じゃないと思うよ?」


一時険悪になりかけたムードはあったが、小夜子は決して悪気でやって来た訳ではないと滅斗は信じていた。


そして理由はもう一つ。


まほ(魂は滅斗)は以前のように魔法を自在には出せず、格闘術で戦っているものの苦戦をし、キギョウが助けに入るも苦戦の末にようやく倒すと言う効率の悪い戦い方をしていて懸念を感じていた滅斗(魂はまほ)。



それであの小夜子と言う少女がまほと同じ魔法少女である事を知り、わかりあえばこうした危なっかしい状況は改善出来るのでは無いかと思っていた。


「いや、やめとこう…あいつは俺には合わない」


キギョウは苦い顔をして言う。



「確かにあの子は私と同じ口下手な子だし…厳しい事も言うかもだけど…私はあの子は信じて良いと思うんだ!」


確かにツンとしているものの言ってる事は正論だとは思った。


ただキギョウとしてはそれだけに可愛気が無く無愛想な印象しか抱けなかった。


そんな中滅斗が茶々を入れ出す。


「な、何だ妙に強気だなまほ?」


いつも弱気で一歩引くイメージしか無い滅斗(まほ)に多少驚きを見せるステッキ(滅斗)。



「だって滅斗君達の戦いを見てると危なくて見ていられないもの!」



「うぐ…っ」


事実は事実なだけに、滅斗の突っ込みに何も言えなくなるステッキ。


(この子もこの子なりに頑張ってんだな…何弱気になってんだ俺…)



キギョウはまほの一生懸命な姿勢に対し、内心尊敬を寄せると共に自分の不甲斐なさを感じていた。


「ところでよ…」


ステッキが何かを思い出したようにキギョウに問う。



「あいつはクロネコが俺たちに話さないといけない事があるみたいに言ってたよな?それって一体なんだったんだ?」



「!!」


キギョウはステッキの言葉に更に動揺を覚える。


まほと滅斗の身体が入れ替わり、どちらかはステッキになってしまう。


そのようになってしまったのはキギョウ自身のせいだと言う事をキギョウは前々から言おうとは思っていた。


しかし、彼らのそれへの抵抗ぶりからタイミングなど色々な面で、それを告白する事をキギョウはためらっていた。



しかし、どのみち言わなければいけない内容だ。

そして今ステッキがその内容を聞き出している。

キギョウは深く一呼吸をする。


「あ、ああ、その事についてだが落ち着いて聞いて欲しい…」


口を開くキギョウ。


これを聞かされた滅斗とまほはキギョウに対しどういう反応を示すか、キギョウは悲観的に捉えていた。


(何を恐れているんだ黒井 キギョウ!覚悟は何不自由ない女の子を魔法少女にしてしまってから始まった事ではないか!)



そう、魔法少女は本来は環境的に問題を抱え、身寄りが無く、不自由な生活を強いられた少女がなるもの。



それを家族もいて、信頼出来る人物もちゃんといて、ごく普通の生活をしている薄椅子 まほと言う一人の少女を無理やりな形で魔法少女にしてしまった。



その時点で非難を浴びてもおかしくない事だ。


(非難の一つや二つ、まとめて背負ってやろうじゃないか!)


キギョウは覚悟を決める。


「今の君達をこのような形をしてしまったのはこの俺だ…」


キギョウはまほ等に話した。


まほが魔女と戦っていて、まほは一方的に魔女に痛めつけられていた。



瀕死になるも、身体を振り絞って立ち上がるまほ。


そこで、魔女は無数の触手を槍のように先端を尖らせ、まほを串刺しにしようとした。


そこで、滅斗が飛んできて、まほの身代わりになった。


それを見てまほは発狂しだし、戦闘出来ない状態となってしまう。


キギョウが戦えと促すも聞き入れないまほ。


そこでキギョウは落ちていたステッキを拾い、「アルテム」を唱えた。


奇跡を起こすが、その代償も起こしてしまう最後の切り札的な魔法だ。


そして魔女は消え去るが、まほと滅斗の身体は入れ替わり、どちらか一方がステッキとなってしまう形になってしまったのだ。


虚しい風がキギョウの肌を伝う。



静寂な夜の街の中でキギョウはただ一人、その場に佇んでいた。


キギョウの告白を聞き、やはり魔法少女と言う過酷な運命にまほを巻き込んだばかりでなく身体が入れ替わった事により家族とも離れ離れになってしまったことがやはり許せなくなったのだろう。


そして滅斗も同様で、怒りを露わにしてまほと共にキギョウの前から離れてしまった。



(また独りぼっち…か…)



キギョウは声に出す気力もなくただ心の中で嗚咽していた。



覚悟はしていた。

予想通りとはいえ、仲間と言うものはこうも簡単に去っていくものか…いや仲間と思っていただけでそうでは無いのか?




キギョウは二人に離れられ、やはり心細さと大事なものを失った絶望感で街に灯るライトに照らされながらぜんまい人形のように安息の地を求めに寂しげに歩いていった。

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