ききはさるさるがむききのきー
亜流出 滅斗の体をまほが乗っ取り、滅斗の魂はステッキに収まってしまっている。
そして肝心の薄椅子 まほの身体が無い。
そんな状況で、自分の責任の重さを痛感するキギョウ。
(えらい事になってしまった…まほの身体は消えてまほが滅斗に、滅斗はステッキになってしまった…)
「てまほ、俺の家はここじゃないぞ!」
とステッキ。
「へ?」
滅斗はまほの家に来ていた。
まほは滅斗の体となっており、まほの家に帰ろうとしていたのだ。
「ああ、ごみんごみん…」
平謝りする滅斗。
「てかその女みたいな仕草すんなよ気持ち悪いな…」
ステッキは滅斗を罵る。
「普段の滅斗くんみたいな仕草なんて出来ないよ…」
滅斗は言う。
「わかったわかった、せめて学校では日頃の俺らしくしろよな!」
そんなやり取りの中、キギョウはこの先を案じていた。
そして学校ーーーーー
まほの席に座ろうとする滅斗。
「おい、俺の席はここじゃないぞ!」
ステッキが注意をかける。
「そうだった、えへへ…」
「えへへじゃねえよ!」
滅斗の席に座る滅斗だがそんな時、3人の男子生徒が突然滅斗の周りを囲みだした。
「よう滅斗!」
3人は滅斗と日頃連んでいる男子生徒達だ。
モブだけあっていかにもモブ的な顔だな…。
キギョウは彼らを見てそう思ったのだが。
3人は下ネタの話で盛り上がろうとしていた。
そんな中、滅斗は「あはは…」と苦笑いする事しか出来なかった。
「何だよ、つまんねーな」
3人はノリの悪い滅斗に愛想を尽かし、去ってしまう。
思わずしゅんとなってしまう滅斗。
「日頃の俺らしくしろと言ってただろーが!」
滅斗に怒ってくるステッキ。
「滅斗くんみたいに出来ないもん!」
滅斗とステッキはまた言い争いをはじめる。
「まあまあ、争いはしないで今後の事を考えよう、とりあえず君は君らしくでいいから…」
キギョウは苦笑いをして顔に汗マークをつけたまま二人を宥めた。
(これは俺のせいだ…また魔獣を倒した時に俺がした事と話そう…その時までに話せるようになろう…)
キギョウはまほらの身体が入れ替わった事を自分の責任とその場では言えず、心の準備が出来てから言えるようになろうと考えていた。
「滅斗くん、最近かわったよねー」
「おとなしくなったって言うか…」
「滅斗くんらしく無くてちょっとつまらないよね…」
女子からもそんな声で言われるようになる滅斗。
その言葉で落ち込みがちな滅斗に気遣いキギョウが声をかける。
「ま、まあ気にするな、日頃の行動が違えばこんなもんだ…とりあえず涙拭いとけ」
引きつった表情のまま優しく声をかけるキギョウ。
「う…うん…」
滅斗は思わず潤んでいた涙をティッシュで拭う。
「…たく…」
ステッキは面白くなさそうに舌打ちをする。
「お前も滅斗君にあまりとやかく言うな、まほを日頃見てきたお前なら知ってるだろ?」
「はいはい俺が滅斗ですよー!」
イヤミを漏らすステッキ。
今日はクラスの生徒達や教師にとって超常現象と言える日だったらしい。
何故ならまほが電話もせずに学校を休み、滅斗が珍しく真面目に授業に励んでいた事だ。
まほが学校を休むのはインフルエンザなど、重い病気にかかったことくらいで、休む時は必ず電話を入れていたのだと言う。
一方滅斗は遅刻もするし授業ではいつもは居眠りをしたり隣の席の生徒と駄弁ったりして教師に怒られる事が多いのだが、遅刻もせずに学校に訪れ、授業の話をきちんと聞いて、清掃も積極的に参加していた。
そんな日は珍しいのだと言う。
ただ、キギョウにとっては意外と思えるところはそんな所では無かった。
キギョウが滅斗やまほへの生徒達の評価を見るに、滅斗はクラスでよく慕われていて、逆にまほはクラスで少々浮いた存在であるように思えた。
キギョウにとってまほは少々天然な所はあるものの真面目で素直な子のように思えたし、
滅斗は今では理解出来ているものの第一印象はお世辞にも良いとは言えなかった。
キギョウからしてみれば、まほはきっとクラスで人気があり、滅斗はその逆なのだろうと思えていた。
しかし実際は違ったようだ。
あと、何処かから怪しげな視線をキギョウは感じていたのだがあの視線はなんだったのだろうか?
向こうは好奇心からでは無く、何やら訳ありな様子で睨んでいたように思えた。
キギョウはその視線を感じたものの、気づかないフリをしていた。
キギョウの姿が見えるのはまほと、ステッキとなった滅斗くらいだ。
ーーー放課後となり、帰宅する生徒達。
「お父さんとお母さん、大丈夫かなあ?」
まほ(身体は滅斗)は家族の事を案じ出した。
「メールは入れといたから大丈夫だろ?」
とステッキ。
そんな時、滅斗の瞳からまた涙が溢れ落ちる。
「お父さんとお母さんに会いたい…」
泣き出す滅斗。
「お、おい泣くのは隠れてからにしろ!こんな所で泣くな!!」
人の視線を感じ、思わず怒鳴るステッキ。
その間隣についてきているキギョウはあまり語らなかったのだが、自分の罪をひしひしと感じ、いたたまれない気持ちになっていた。
なお自分が原因でこのような事態になった事は未だ言っていないし言えもしなかった。
決める所は決めるがそういった所は意気地なしなキギョウである。
そんな時、何処かからまた視線をキギョウは感じた。
「ん??」
後ろを振り向くキギョウ。
「どうした?クロネコ?」
何かに気づいたように後ろを向くキギョウに聞くステッキ。
キギョウが振り向いた先には誰もいなかった。
誰かがこちらを見ていたような気がしたのだが…やはり気のせいなのだろうか?
「い、いや何でもない…」
キギョウは答え、再び前を向き、歩きだした。
「全くクロネコはそう言う所は小心者なんだよなあ!」
ステッキは笑い出す。
「悪かったな!」
キギョウは突っ込みを入れるが心の奥底では(そうだ、俺は小心者だ)と自分をひたすらに責めていた。
その時、コンパクトから魔獣反応のブザーが鳴り始めた。
「魔獣反応!?急ぐぞまほ!!」
「うんっ!」
キギョウとまほと呼ばれた滅斗は、ブザーを頼りに魔獣の元に駆け出した。
やがて魔獣のいる場所に辿り着くキギョウ達。
魔獣は猿を大きくしたような、キングコングのような魔獣だった。
「さあまほ!変身だ!!」
「うんっ!」
滅斗の変身姿はどうなるんだろう?
キギョウ達は考えていた。
滅斗の魔法少女姿…あまり想像したくない姿だ。
かくして変身に戦場に立つ滅斗だが、キギョウ達にとってそれは予想外の姿だったのだ。
「まほ???」
キギョウは変身後の滅斗の姿に驚きの声を上げる。
目の前にいるのは滅斗と言う気弱そうな男子では無く、凛々しい目を魔獣に向け、待ってましたと言わんばかりに仁王立ちしているまほと言う小柄ながらも勝ち気そうな少女だった。
「ふえぇん!身体がうごかないよお!」
ステッキが悲鳴を上げている。
一方まほは久々に身体が動けるようになっている事での嬉しさで興奮しているようだった。
「うっひょ!身体が動くぜ!」
ジャンプしたり空パンチや空キックしたりで張り切っている様子のまほ。
喜んでいるまほの前にキギョウは怒鳴る。
「そ、そんな事は良いから早く魔獣を倒すぞ!」
「お、おう、そうだな!」
睨み合いするまほと魔獣。
そして
両者の戦いの火蓋が切って落とされた!、
「いくぜえ!!」
まほは回旋蹴りを猿型の魔獣にお見舞いする。
竜巻○風脚の要領で、相手に蹴りを浴びせる攻撃力は高いが人間離れした技でもあり、運動能力に優れ、喧嘩に慣れたまほ(滅斗)だからこそ出来る格闘術である。
回旋蹴りでまほのピンクの髪とドレスが風に当たり強くなびく。
「目が回る~!!」
一方、悲鳴を上げるまほが持つステッキ。
回旋蹴りはステッキには辛すぎたようだ。
そして蹴りは投げられた大鎌の如く魔獣に炸裂するが、魔獣はそれを腕で受け止める。
「ちい、やるな!!」
まほは着地し格闘術を用い攻撃を仕掛ける。
「滅斗君魔法は使わないの!??」
「魔法なんてめんどくさいもん使わなくたって俺は格闘術で充分だぜ!!」
「いやー!死ぬー!」
激しい攻防戦の中、ステッキは悲鳴を上げ続けていた。
「ちいっ、キャーキャーうるせえっ!!」
そう言ってまほは乱暴にステッキをキギョウめがけて投げつける。
「おっとっと!」
慌てるようにステッキを受け止めるキギョウ。
「乱暴に投げないでよ滅斗!!」
目を回しながら怒鳴るステッキ。
凛々しく魔獣に立ち向かい、魔獣を倒さんと格闘を繰り広げる魔法少女まほ。
少女がアグレッシブな動きを見せ戦う姿は素敵であり見惚れてしまうものがあった。
あとあの短いスカートで恥じらいもなく風を切るまほの荒れのない可愛らしい少女の細い脚。
キギョウも例外では無く、その姿に少しながら見惚れてしまう。
「クロネコさん恥ずかしいからあんまり見ないでよお!」
一方、自分の体が魅せるように戦う姿は少女心としてはあまり見られたくない物なのだろう。
ステッキは恥ずかしそうにキギョウに訴えた。
「ゴクリ…あ…ああすまない」
キギョウは謝るが視線は戦っているまほにどうしてもいってしまう。
ただステッキ(まほ)に怒鳴られてキギョウは我に返るように視線を反らしていた。
ただ戦意はその分消失しているようで、ステッキとしては行先が不安な気がしてならなかった。
まほは拳や蹴りを魔獣に与えるが魔獣はそれを受け流す。
そしてまた魔獣もキーキーと雄叫びをあげながらまほに攻撃を繰り出すがまほもそれを受け流す。
両者共譲らぬといった感じで、どちらが攻撃をより多く受け、致命傷のダメージを与える事が出来るかで争っていた。
(はぁ、はぁ、思ったより身体が疲れやすいぜ…どうなってんだ??)
まほは早く息切れしやすくなっており攻撃も自在に出せないことに戸惑いを覚えていた。
そんな時、魔獣のパンチがまほに炸裂する。
「んがっ!?」
腕でそれを受け止めるまほだが身体が支えきれず、魔獣のパンチによって数メートル後ろに弾き飛ばされた。
まほの体となってしまった滅斗は自分の体に充分に順応できていないのか、或いは少女の体の為充分な筋力が付いていないのか、思うように力強くは動けないようだった。
普通に見ていると危なっかしいものの激しい動きは見せているようだったが早く疲れやすくもなっており、次第に動きが鈍っていく。
猿の姿の魔獣のパンチが炸裂し、それを防ぐも衝撃は伝い、まほの表情は歪む。
その刹那まほは2メートル先のフェンスまで放り投げられるように弾かれた。
「まほっ!」
まほの危機的状況にキギョウも見てはいられなくなり、爪を掻き立てて猿魔獣に一閃を与えようと素早く足を走らせた。
キギョウは猿魔獣の顔面までジャンプし、猿魔獣の顔を鋭い爪でひっかく。
「グオオ…」
猿魔獣は顔を引っ掻かれ、顔を手で押さえてもがく。
「さあまほ!体の治療を…!」
キギョウは滅斗に振り返り、自身の体を魔法で治癒するよう促す。
「出来る訳ねえじゃんかよ…」
まさか変身後、滅斗の魂が乗り移ったまほの体になるとは思ってもいなかったらしく、回復魔法は教えられていなかったしまほ自身使えなかった。
そしてまほの息は絶え絶えで体の所々傷を負っていて立つこともままならない。
(くそっ、これで終わりか…!?)
黒猫のキギョウの体では敵の隙を作ったりは出来るものの充分には戦えるはずもない。
猿魔獣は怒りに満ちた表情でキギョウ達を睨む。
キギョウも魔獣を睨み返し同時に威嚇しあうが魔獣を倒せる勝機は全くと言って無い。
これは正しく危機的状況だった。
「全く、見ていられないわね…」
そんな時、どこかから冷めたような少女の声が聞こえてきた。
「まほ、何か言ったか?」
ステッキに問うキギョウ。
「ううん、私、何も言ってないよ?」
とステッキは答える。
そんな時、札のようなものがまほの胸もとに張り付いた。
「な、何だこれ?」
外そうとするまほだがそんな時少女の声が聞こえてきた。
「これは治癒の魔力を込めた札よ、外さずじっとしてなさい」
静かな口調で語られる少女の声。
成る程まほの体の傷は塞がっていき、まほも体の痛みが癒え、暖かく、軽くなっていくような感触を覚える。
しかし何処かにいるだろう少女の姿は見当たらない。
『ちいっ、今の内に回復魔法か!?そうさせる前に俺様が息の根を止めてやる!!』
魔獣はまほの体の治癒が他者のものであるとはつゆ知らず、拳を再び振り上げ、まほめがけて攻撃を浴びせようとした。
そんな時火柱が魔獣と滅斗の間に突如ほとばしった。
その突如現れた火柱に驚く魔獣とそしてキギョウ達。
『うぐっ!?』
まほにトドメを刺そうとした魔獣だったが目の前に突然火柱が立てば一歩下がり、戸惑うしかない。
火柱の熱気が魔獣にも、キギョウ達にも伝わり、その火柱で魔獣やキギョウ達の姿が照らされる。
「貴方の相手はこの私よ」
そんな時、巫女の衣装を羽織った少女が女神の如く、夜の空中から地上にゆっくりと舞い降りた。
魔獣は背後に現れた少女に驚いた様子で振り向く。
「な、なんだ!?あいつも魔法少女!??」
驚くキギョウ。
巫女服を着ていると言うのは確認出来るが、炎の灯りの反射条件が悪くて顔はよく見えない。
或いは少女の幻惑の魔法か何かで顔を見えなくしているのか真相は定かでは無いが、顔が見えなくともピシリとした姿勢や冷静な声質、そしてほとばしるような魔力から彼女はそこらの魔法少女とは違う事はすぐに理解できた。
戦女神のような佇まいを見せ、魔獣と対峙する巫女の少女。
『熟練の魔法少女か!?今のところは見逃してやろう…』
その魔法少女には戦っても勝てないと一目で悟った魔獣は彼女から尻尾を巻いて逃げようとした。
そしてその直後、魔獣の逃げ出したその目の前に再び激しい火柱が。
「残念だけど貴方を逃すわけにはいかないの…」
巫女は一歩一歩、魔獣に歩み寄る。
『こうなったら破れかぶれだ!』
魔獣は逃げられないと悟るや、今度はその巫女に食いかからんとするばかりに突進してきた。
少女は魔獣を睨みつつも、キギョウらに対し冷静な口調で言い放つ。
「よく見ておきなさい、戦いとはこうするのよっ!」
そう言うと、巫女はえいやと腕を振り、印を描いた。
するとその火柱は魔獣に襲いかかり、炸裂する。
「ぎゃーーぎゃーー!!!」
魔獣は断末魔の悲鳴を上げながら炎の中で消滅していった。
「かっこいい…」
巫女の見事な戦いっぷりに尊敬を抱くステッキ。
「へん、どーせ俺はダサいですよ!!」
ステッキの声に憎まれ口で返事するまほ。
それにしてもあの巫女は何者だろうか?
そう考える間にその巫女は姿を消してしまった。
顔はよく見えなかったが、俺たちを助けてくれたことには違いない。
もしどこかで会ったら、ちゃんと礼を言わないとな。
とキギョウはまほらに諭し、滅斗の家へと戻って行った。
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