女のこのこのこの魔法そのに
しばらく走ると、一人の男子生徒が、ダークマターに襲われているのが見えてきた。
その男子生徒は、まほの学校の男子制服であり、なんとまほの知り合いらしい。
青髪でややツンツンした癖毛で、中学生だけありまだ幼さの残る顔立ちに体格、少々気の強そうな瞳を輝かせている。
なお襲っているダークマターはその少年の倍ほどの体の大きさで、黒い煙のような、魔人のような体を作らせている。目は吊りあがり、大きな口を開け、いかにもその男子生徒を丸呑みにせんとしている。
「あわ、な、なんだこいつ…俺をどうするつもりってんだ!?」
その男子生徒は、そのダークマターにおののき、後ずさる。
一方まほの手に持つコンパクトがダークマターに反応し、それを頼りにその方向に向かっているまほとキギョウ。
走っている最中、少年がダークマターに襲われようとしている所をキギョウ達は発見する。
「ガキがダークマターに襲われてるぞ!まほちゃん!変身だ!!」
「ガキじゃないもん!滅斗君だもん!!」
走りながらキギョウに怒鳴るまほ。
「わ、わりい!ともかく変身だ!!」
怒鳴られたキギョウは一瞬たじろぐも、平謝りし変身を促す。
なお襲われている男子生徒は亜流出 滅斗(あるて めつと)
まほの幼馴染だ。
「うんっ!」
キギョウに教えられた通り、魔法少女に変身するまほ。
変身する際目を瞑り、装着しやすいように体を広げている姿勢になる。
まほは一旦ありのままになり、背景は虹色になる。
そしてコンパクトからリボン、ドレス、長靴、ステッキやらが現れ、まほの体にリボン、長靴、ステッキ、ドレスと順番に装着していく。
そして演出の為にステッキをクルクルと手で回し、ポーズを取る。
「魔法少女まほちゃん登場!魔物よ!その子から手を離しなさい!!」
かっこよくダークマターに怒鳴るまほ。
滅斗とその大きな体をした魔獣は魔法少女となったまほの方向に目を向ける。
「ま、まほ!?なんだそのカッコウ…?」
素っ頓狂な声を上げる滅斗。
まほは赤いリボン、フリルのついたドレスに煌びやかな長靴。
一見するとかなり痛いカッコウをしている。
それよりも、まほに襲ってきたのは奇抜なデザインのドレスによる恥ずかしさよりも
恐怖心だった。
その自分の倍以上ある大きな魔獣を、魔法少女は相手しないといけないのだ。
「ふえぇん!あの魔獣怖い~」
足をへの字に曲げてしゃがみ、身動きとれなくなるまほ。
「何やってんだよ!戦えっての!!」
怯えて動けなくなるまほに声を荒げて怒鳴ってしまうキギョウ。
「ふえぇんだってあの魔獣怖いんだもん~!」
どこにでもいる少女が自分と倍以上の体格で凶悪な魔獣と戦わないといけないのだから無理もないだろう。
しかしキギョウとしては魔法少女と言えば敵にも果敢にバシッとやっつけると言う固定概念もあったので、怯えて何もできないまほに苛立ちさえ感じていた。
『グッグッグ、魔法少女がこんな所にいたとは…貴様から食ってやる!!』
その魔獣はまほに飛びかかってきた。
「くそっ!!」
キギョウはまほを庇うように前に出る。
魔獣はキギョウらの至近距離まで近づき、牙を向けて喰らおうとする。
(もう駄目だ!どうせ社会人になってからろくな事なんて無いなんてことはわかっちゃいたが…せめてこんな形で死ねる事には感謝しないとな…)
怯えるまほの前に立ち、体が光明に包まれ、聖人のような顔つきとなり、キギョウは死を覚悟してそう悟った。
そんな時、ある人物がキギョウの前にまた現れる。
「!!?」
驚くキギョウ。
その人物はなんと、魔獣に襲われていた滅斗だった。
滅斗はなんと、喰らい尽くされようとしているまほを助ける為にキギョウの更に前に立ったのだった。
そして滅斗は拳を強く握り、大きな魔獣に対し動ずること無く睨みつける。
そして拳を襲い狂う魔獣の顔めがけて助走をつけて放った。
ドオオオオン!!!
滅斗の髪の毛や服がその風圧で、生きているかのように踊る。
そしてまほの髪の毛やドレスもかすかな風が伝い、動いた。
肌にもその威力により、そよ風の感触がまほに、そしてキギョウにも伝った。
その細い腕に小さな拳からどこからそんな力が出るんだというほどに、大きな体の魔獣の顔は滅斗の放つ拳にクリーンヒットし、吹き飛ぶ。
目をパチクリさせて驚くキギョウ。
目の前に立つのはあどけなさの残る少年。
<i373089|25457>
しかし、その少年の瞳は怯えて動けない女子を守らんと前に立つ騎士そのものだった。
フェンスにぶち当たった事により、フェンスは破壊され、白い埃(ほこり)が魔獣の周りを舞う。
『グッ…何なんだ!?』
魔獣もヨロヨロと立ち上がり、前を見る。
「俺のダチに手を出す奴はこの亜流出 滅斗(あるて めつと)様が許さねえ…!」
滅斗はそう言って魔獣に対し睨みつける。
『こ…こやつ…!』
さすがの魔獣もその滅斗の佇まいに恐怖を覚える。
小さな体に似合わない程の大きな闘気がまるで鎧のように、滅斗の体を纏っている。
大きな闘気を体から放っている滅斗におののく魔獣だが、
(人間相手に何をビビっている!?それにこいつはまだガキ…何も恐れることはない!!)
と自分に言い聞かせ、雄叫びをあげながら滅斗に突進してきた
ガシイイン!!
滅斗と魔獣の一騎打ちがはじまる。
滅斗は器用な身のこなしで格闘術を繰り広げる。
魔獣も負けていない。
魔獣は体から鋭い刃物のような爪を腕から出し、滅斗を引き裂こうとする。
お互い体を傷つけ、倒し、または傷つけられまいと激しい攻防戦を繰り広げる。
滅斗の制服が魔獣の爪によって引き裂かれ、滅斗の拳によって魔獣の体力、戦意は削がれていく。
しかし魔獣には滅斗に対する勝機が見えてきた。
(やはりこいつはただの小童!何も恐れる程の事は無かったわ!!)
『もらったあぁ!!!』
魔獣は豪腕を振り下ろす。
「くっ!」
すでに沢山の傷を作っていた滅斗は自分の身を防ぐ事しか為す術を失った。
ドガァァン!!!
魔獣によって横に叩きつけられ、吹き飛ぶ滅斗。
滅斗もまた、フェンスにぶつかり、フェンスはヒビは入らないものの滅斗は致命傷を負ったに違いない。
「滅斗!!」
キギョウは滅斗の危機をそこで感じる。
『終わりダァ!!!』
魔獣はとどめを刺そうと空高くジャンプし、空中から急降下して滅斗に牙を突き出す。
「くそっ!」
そこでキギョウは魔獣に向かい駆け出す。
黒猫の姿だけに、四つ足で猫が走るような走り方だが、気が付かぬ間にそれが板につくようになっていた。
猫だけに素早い身のこなしで滅斗を助けようと駆けるキギョウ。
そして滅斗の目の前に立つとキギョウは今度は魔獣を睨み、地を蹴って魔獣めがけてジャンプする。
「フギャアアァ!!!」
キギョウは気が付かぬ間にそのような雄叫びを上げ、細い黒毛に覆われた腕に力を入れ、可愛らしい手から鋭い爪を出す。
鋭い爪と言っても猫のそれと変わらない小さな爪なので、魔獣に致命的なダメージを与えることは出来ない。
しかし、魔獣に隙を作るには充分な威力はある。
キギョウは力を入れてその魔獣の体を引っ掻いた。
『!??』
キギョウに付けられた傷に反応する魔獣。
「さあ滅斗!今だ!!」
キギョウは滅斗にそう叫ぶが、キギョウの声が滅斗に聞こえるはずも無い。
そして滅斗はボロボロの体で立ち上がるのがやっとだ。
『このクソ猫が!!』
魔獣はキギョウを大きな手で叩き潰そうとするが、キギョウはそれを避ける。
「滅斗君!」
そこでまほが傷ついた滅斗に駆け寄る。
「ま、まほ…!?」
「大丈夫?傷治してあげる!」
まほはそう言ってキギョウから教わった全身治癒の魔法を滅斗にかける。
まほの手のひらから優しい光が灯り、滅斗の傷口を触れていく。
すると滅斗の全身に受けた傷はまほの治癒魔法により塞がっていく。
目を見開き、驚くも、目の前には魔獣が殺気を撒き散らして滅斗らを睨んでいる。
「ちいっ、話はあとだ!まほ!てめえは下がってろ!!」
そう言って体力と傷が回復した滅斗は構えをとり、まほを下がらそうとする。
「ううん!私も戦う!!」
まほは先程魔獣に怯えて動けなかったまほでは無く、魔獣に果敢に立ち向かう魔法少女となり、凛々しい目を魔獣に向けて滅斗と共に対峙していた。
「へっ、そうか、行くぜ!まほ!!」
滅斗は僅かに微笑み健気な表情のまほに声をかける。
「うん!」
まほもステッキを力強く握り、魔獣を睨みながら返事をする。
『貴様らガキが何人かかったところで負けるこの魔獣様ではないわ!!!』
魔獣は響くほどの咆哮をあげ獲物を狩る虎の如く滅斗達に襲い掛かる。
しかしそこで逃げる滅斗、そしてまほでは無い。
まほはステッキを構えて魔法を唱えた。
「スロウリー!!」
これは敵の動きを鈍らせる魔法だ。
それによって魔獣の動き、そして与えるダメージを軽減する。
続いてまほはまた魔法を唱えた。
「ブースト!!」
それは唱えた対象の運動能力、五感の神経を強化させ、ブーストをかける魔法。
そしてスピードや破壊力、そして防御力もあげる事が出来る。
まほの魔法により魔獣の動きが鈍り、その上滅斗の身体能力にブーストがかけられ、滅斗は無敵の状態となる。
「行くぜ!これが俺のダチを襲った恨みと今まで俺がてめえにやられた恨みだあぁー!!!」
滅斗の体からはち切れんほど溢れる闘気。
滅斗の力一杯握りしめられ、血管の浮き出た拳は赤いうねりを上げる。
滅斗は威力に勢いをつけるように体を横にひねり、そして拳を思いきり魔獣にめがけて放った。
滅斗の放つ拳は岩をも破壊する威力を持つ。
その上魔法でブーストがかけられている為更に威力は増している。
襲い狂う魔獣についに滅斗の拳が放たれる。
『こ、この魔獣が人間ごときに…』
魔獣は銀河に消される生命体の如く吹き飛びながら眩い光の中で消滅していった。
消された魔獣の体からマナキューブが現れる。
一見するとハート型の宝石状のもので、まほのコンパクトのハート型のものと形上が似ている。
それを拾うまほ。
そんな時、滅斗がまほに話しかけてきた。
「まほ…この先、どうすんだ?」
表情には焦りが見られる。
「え?これはマナキューブと言ってね…」
話を読めていないのかまほは手に持っているマナキューブを滅斗に見せ、説明しようとする。
「そうじゃねえ!魔法なんたらになってこれからどうすんだと聞いてるんだよ!!」
話を読めないまほに対し大声で怒鳴りだす滅斗。
滅斗の突然の怒鳴り声にビクンと体を跳ねるまほ。
滅斗は焦り、まほの今後を案じていた。
魔法少女は魔法を自在に使えるようになるものの、これから魔獣と戦わなくてはいけないという重い宿命も課せられる少女。
それを今まほがなっていて、何故大事な親友(マブダチ)がと言った感じで滅斗は運命への強い怒りと悔しさを感じていた。
魔法少女と言う存在は滅斗の耳にも入っていた。
それは年端のいかない少女が、魔法を扱える能力を身につけ、魔獣を倒して治安を守る存在。
しかしそれは環境に問題を抱える少女、身寄りを無くし、或いは体の一部が無くなり、何も失うものが無くなった少女がなるもの。
それを今家族もいて、何不自由の無い暮らしをしているまほがなっているのだ。
魔法少女になれば魔獣と戦わなくてはならなくなる。
そして魔獣に倒されて人知れぬまま命を落としてしまう。
それが魔法少女。
滅斗に怒りに満ちた表情で睨まれ、何も言えないまほに、キギョウが横から話を入れてきた。
「まほ…すまないが魔法で滅斗とやらにも俺の姿が見えるようにしてくれないか?」
キギョウの表情には、深い罪悪感を抱えた様子が見える。
「クリア!」
まほは魔法を唱える。
クリアは対象者に普段は目に見えない妖精、俗に言う幽霊などを目に見えるようにする魔法だ。
まほの唱えた魔法によってキギョウの姿が滅斗にも見えるようになる。
「滅斗とかいったか…これは俺の責任だ…」
キギョウは滅斗にその姿を現し、重みのある口調で言った。
滅斗は魔法少女に仕える魔法生物の存在を知っているのか、それとも感情が高ぶっているのか、動ずる気配も見えない。
しかし滅斗はぎっとキギョウを激しい怒りを現すように睨みつけている。
「俺はすまされない事をしたと思っている、まほちゃんのような何処にでもいる女の子を魔法少女にしてしまって…」
「てめえ…」
滅斗はキギョウに対し憎しみを聞かせた声で毒突く。
ただ、自分の為だけに少女を魔法少女にしてしまった。
そんな安易な気持ちでまほを魔法少女に選んでしまった。
それがいかに罪であるかなど考えてもみなかった。
ただ、仕事としてのノルマをこなせないと消されるということで、魔法少女としての人材を求める事にしか考えが無かった。
「あんたは自分のしたことが…!」
「やめて!!」
滅斗がキギョウを責めようとした時、まほがそれを遮った。
「クロネコさんは良い人だよ!怖くて動けない私を魔獣から守ってくれたしさっきも滅斗君を助けてくれたんだよ!!」
まほは涙ぐんでいる。
まほは元々争いを好まず、平和を愛する少女。
滅斗はそんなまほを見てため息をつき、言うのを止めた。
「わかったよ、女にこう半泣きで言われたらな…」
滅斗は気恥ずかしげにそう言い、苦笑いを見せる。
ふと安心するキギョウだが、そのまま責められていた方が罪は軽減されていたのではとも思えてしまう。
しかしその先はまほをしっかり守っていかないといけない。
そして滅斗もそう考えていた。
「まほ…何かあったら、絶対俺にも連絡くれよな!飛んででも助けに来るから!!」
滅斗は熱い眼差しでまほに話す。
「うん、ありがとう!クロネコさんもいるし、大丈夫だよ!」
まほは笑顔で答える。
重い宿命を課してしまい、ごく普通の女の子を魔法少女にしてしまった元ブラック企業のサラリーマン、黒井 キギョウと
普通の女子中学生でありながら魔法少女として魔獣と戦う事になってしまった少女
薄椅子 まほ。
そしてそのマブダチの亜流出 滅斗の激しい運命との戦いはここから始まる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます