女のこのこのこの魔法
ナレーターSIDEーーー
とある住宅街、学校へ行こうと道を歩く一人の少女。
ピンク色のショートヘアでシワの無い制服、膝までのスカート、顔立ちはあどけなさが残り可愛らしい。
彼女の名は薄椅子 まほ、そんな少女はその朝、とてつもない運命の分岐点を目の前に迫っていた。
まほはハミングをしながら学校へ向かう。
そんな時、ゴミ袋の山に残飯を漁っている一匹の動物を見かけた。
その動物は黒い毛皮を身に纏って背には翼が生えていて細長い尻尾を揺らしている。
四つ足で体を支えている。
カラスのようだがカラスでは無いみたいだ。
そして猫のようだが猫でも無いらしい。
地球外生命体なのだろうか?
そんな時、その生命体は歩く人物の気配に気がついたのか、突如その視線を歩く人物の方向に向けた。
「ひっ!?」
ふと驚いたように後ずさるその人物、薄椅子 まほ。
「翼の生えた猫…こんな動物いたかな…?」
「!!!」
まほの独り言を聞いたその猫?の表情はあからさまに変わった。
その動物はその少女に人語で質問を口にする。
「君は…この俺が見えるのか…?」
「猫が喋った!?」
まほはつい裏返った声で答えてしまう。
するとその猫?は何やら目をウルウルとさせて天を仰ぐように両手を掲げ、感激に浸っていた。
「神は我を見捨てていなかった!魔法少女の素質を兼ね備えた者にこの場で出会えるなんて!!」
「魔法少女??よくわからないけど貴方一体…」
人のようなリアクションを見せ、人語で感動を口にするその猫にまほは愛嬌を感じながらも尋ねる。
その黒猫はまほの質問に答えた。
「よく聞いてくれた、俺の名は黒…」
黒猫は答えようとしたが或る時の事を思い出し、続きを喋るのを止めた。
思い出したのは、キヤクの説明の言葉だ。
『これからあんたには魔法少女を一人契約させてその魔法少女を一人前に育てる仕事をしてもらう。その代わりあんた自身の事を相手にバラしたら…わかってるわよね?』
理不尽な心境のまま勝手に魔法生物にされ、魔法少女を契約させて育てると言った仕事を押し付けられた黒猫、かつてはブラック企業で働く従業員、黒井 キギョウ。
彼はキヤクからそう命令されたばかりでなく、一人契約させるまで戻って来るなとわけもわからず入口まで蹴飛ばされ、こうして魔法少女の素質たる者を捜していたのだ。
しかし魔法少女の素質がある者以外はキギョウを見つけられず、キギョウは空腹を抱え、気がつけばゴミ袋の山で残飯を漁って命を繋げようとしていたのだ。
「お俺はしがない黒猫さ~ところで君にお願いがあるんだけどお~?」
キギョウは言おうとした言葉を無理やり紡ぎ、話題をすり替えて少し鼻声になりながらまほにお願いしてきた。
毛むくじゃらにも関わらず体中から大粒の汗がパラパラと垂れ落ち顔は引きつっている。
危うく話すと危なかった。
「お、お願い??」
少し怪訝な表情になりながらキギョウに問い質すまほ。
キギョウは一息おいてまほに言った。
「俺と契約して魔法少女になってよ!!」
「魔法少女??」
キギョウに言われたまほはくりくりした目をパチクリさせる。
魔法少女、それは女の子が魔法を使って人を助けたり、或いは敵と戦ったりする少女のことである。
まほも実は魔法少女に憧れる一人だった。
魔法少女のアニメを見ていて、魔法を使う事に憧れを持ったりしていたが、まさかリアルに魔法少女になれるなんて事もあるのだろうか?
しばらく疑問詞がまほの頭上に浮かぶのだが、魔法少女と言う普通ならなれる機会の無い存在になれるのなら、ならない理由なんかない!
まほの表情は段々と明るくなる。
「私、魔法少女になる!」
まほは決意をあらたに言った。
それを聞いたキギョウの表情は明るくなる。
「そうか!じゃあ君は今日から魔法少女だ!そしてこれを受け取って欲しい!」
そう言うとキギョウは胸についてあるポケットに手を入れる。
その様子をまじまじと見つめるまほだが、
「クロネコさんの体ってカンガルーさんにもなってるんだ?」
と間の抜けた声を出していた。
(クロネコて名前じゃ無いんだが…)
と聞こえ無いように小声でゴチるキギョウ。
そしてキギョウはポケットからあるものを取り出した。
キギョウがポケットから取り出したものは一つのコンパクトだった。
丸い形をしていて装飾が彩られ、中央にはハート型の宝石が埋め込まれていて、見た感じ魔法少女の使うアレだ。
「すごーい!クロネコさんこんな手の形なのにどうやってそれ掴んでるの??」
とまほが驚いた様子で聞いてきた。
キギョウの手の形は今は猫のそれだが、キギョウはごく自然なようにコンパクトを手に持っている。
いや引っ付いているという表現が正しいだろうか?
「これか?これは肉球が磁石みたいになってて魔法のアイテムを引っ付けて取り出すことが出来るんだ!」
キギョウはそう言って手のひらをまほに見せる。
「そうか、歩くの大変そうだね…」
とまほ。
「心配ないよ、磁石の効果あるのは魔法のアイテムだけだから、それより早速魔法少女のイロハ教えたいのだが…」
「ああそうだったね!よろしくお願いします☆師匠!」
まほは笑顔で元気よくキギョウにそう答えた。
よろしくお願いします☆師匠!
そう答えられ、思わず顔を綻ばせてしまうキギョウ。
(し、師匠か!悪くない響きだ…!それにこの子はわりかし素直そうだし…やはり俺の目に狂いは無かった!)
しかしキギョウのその考えは愚の骨頂だった。
ーーーー
「だからこうして~」
キギョウは変身の仕方、魔法の使い方をまほに教えるがまほは物覚えが悪く、教えるのも一苦労である。
しかし、キギョウも相手に物を教える事に関しては素人だ。
実のところ、人から物を教わるより人に物を教える方がずっと難しい。
キギョウはまほを前にして、それをひしひしと実感した。
「やっと出来たあ!」
能天気な声をあげ、喜ぶまほ。
しかしキギョウは若干顔が疲れていた。
「クロネコさん元気無いね?」
(てめーのせいだよ…)
キギョウはそう心の中でゴチるが面と向かっては言えず、やや引きつった苦笑いで答えていた。
そんな時、まほのコンパクトのハートが赤く点滅し、ビーッビーッと音が鳴る。
「こ、これは近くに敵がいるのね!」
真剣な表情になり反応するまほ。
「ダースマターと言う奴だ!まほちゃん!教えた通りにやるんだよ!!」
「はいっ!」
(この子…返事だけは良いがちゃんとわかってるんだろうか?)
敵のいる方向に走るまほについていく形で、まほに対して心の中で憎まれ口を叩くキギョウ。
ちなみにダースマターとは、
人の負の感情から現れ、具現化した物体であり、人の不幸や災厄、天災等、政治的混乱等、彼らが原因で引き起こされてしまう場合が多い。
具現化と言っても、人の目には見えず、魔法少女と言う存在のみ彼らを相手に出来る。
ちなみに倒すとマナキューブと言う宝石が現れ、魔法少女の魔力を回復出来る餌となる。
ダースマターは育つと強くなるが、それだけ回復量の大きいマナキューブを落とす為、ベテランの魔法少女はしばらく育ってからダースマターを倒している場合が多い。
しかし人の為世の為を考えるなら倒すのは早い方が良い。
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