第10話 きみへの贈り物 ( 「君にプレゼント」参加作品)
きみにとびきり素敵なプレゼントをしよう。
だって、クリスマスだよ。
なにって?
それはきみがずっと欲しがっていたもの。
みんなが当たり前のように持っていて、そのくせ大事にしないもの。
当ててごらん。
そんな難しい顔をしなくていいよ。
ケーキどう?
アレルゲンを除去した特製のケーキ。
どこからみても、普通のケーキと変わりない。
味だって、ほら……うん、おいしいよ。
食欲はないかな。
今日はよけいに寒いからね。雪が降り出したし。
あの子は今ごろクリスマスのディナーかな。
ほら、あの子。
きみに意地悪していた。そう、その子。
なかなかな意地悪をしてくれてたね。
きみの靴を隠したり、みんなみたいに給食が食べられないから、お弁当を持っていけば、一人だけズルいって言ったり。
体育をしないのはサボりだって、みんなできみを仲間外れにしたり。
ああ、ごめん。今日みたいな日にする話じゃないよね。
起きてみる?
車椅子に乗ってロビーのツリーを見に行こうか?
じゃあ、手伝うよ。
カーディガンは……あ、あった。それとひざ掛け。
寒くない?
点滴の、うん。足の間に。手でおさえて持っていて。
廊下からも市役所のイルミネーションがきれいに見えるよ。
あの子の家はふだん車を使わないようだね。お父さんはバスと電車で会社へ行くから。
家族で出かけるときだけ。キャンプや海へドライブするのかな。
また行こう、ぼくらも。春になったら。きっと楽しいよ。
お花見しよう。それから動物園? それとも遊園地か水族館かな。夏は花火に海水浴、秋はドングリを拾って、冬は……。
無理、なんて、そんなことない。かならず叶うよ。
プレゼント?
うん、たぶん今夜あたり届くんじゃないかな。
サンタが来るのは夜と決まっているから。
ほら、ツリーきれいだね。病院のスタッフさんには感謝だね。
来年はお家で見よう。お母さんは、もういないけど、きっと僕らを見守っているさ。
あ、サイレンが鳴ってる。ここに来るみたいだね……。
ひとまわりしたから、部屋にもどろうか。疲れてない?
きみは、我慢強いね。
治療が痛くても泣かない。お母さんとの約束……そうか。お母さんも我慢していたものな。
こんなに頑張っている、きみの望みを神さまが聞き届けないはずがない。
あ、何かありましたか?
病室へ戻るところですが。ええ、このまま診察室へ。ドナーが……見つかりましたか。
だいじょうぶ、心配しなくていい。
眠っていればすぐだよ。
ええ、今行きます。
ちゃんと願いは叶うよ。
ちょとだけ、ちょっとだけサンタのお手伝いをしたんだ。
きみは不満かも知れないけれど。
きみのほうが、賢い。優しい。我慢強い。
あの子より、ずっとね……。
春になったら、桜を見よう。
fin
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