第8話 ゆうぐれの国 (伝奇)
パソコンに残された彼の足取りをおってみる。
『感想をありがとうございました』
オオガミ先生、はじめまして。いつも先生の『転生忌譚/紅の飛翔』を楽しく拝読しています。
まさかそのオオガミ先生から、私の下手な物語に感想を頂けるなんて、ほんとうに夢みたいです。
先生からのご質問ですが、あとがきにも書きましたが実体験がもとになっています。
わたしが十九のときの。
ほんの一瞬、背中を向けただけなのに、振り返ったら二歳の息子は消えていました。
物語では駐車場としましたが実際はアパートの玄関先での出来事です。
まるで血を流したような夕暮れの空がドアの形に切り抜いたように見えました。
当時の私は十代で子どもを生んで早々に離婚、生活保護を受けながらの二人暮らしでした。
突然消えた息子は、私が殺したのではないかとひどく疑われました。けれど車も持っていない私が息子を
あの日の夕焼けが忘れられません。
赤というより黒っぽく、まるで異世界につながっているようでした。
息子は階段を上った二階の部屋の入り口で、空を見いっていました。それまで、歌なんか歌って騒々しくしていたのに、ぴたりと口を閉ざしてまるで大人のように。
息子は
またの更新を心待ちにしております。
感想、ありがとうございました。
『オオガミ・メモ』
××県〇〇市における幼児失踪事件について
当時二歳の聖人ちゃんは、母親との買いものをして帰宅したが、母親がアパートの玄関先に荷物を置いて振り返るとすでに姿を消していた。その間わずか一分足らず。部屋は二階で、階段は一か所しかなくしかも部屋は一番奥だった。まさに現代の神隠しと当時はかなり騒がれたが、聖人ちゃんは見つからなかった。
事件発生から七年後に身元不明の青年の遺体が見つかったが、DNA鑑定で母親との血縁関係は分かったものの、聖人ちゃんと断定するには年齢がずれていた。
最近のPVが四桁までいかない。更新しても反応が鈍い。ブクマをはずされることが続いている。落ち込む。話が面白くないのか。リアリティが足りないのか。とりあえず、ネットのコンペには出してみる。
『こんにちは^^』
先日はメッセージ、ありがとうございました。
……あの事件のことですか。先生が興味本位ではないことは、いただいたメッセージの誠実さからも分かりました。
ただ、わたしには分からないことだらけだったのです。
確かに血のつながる遺体は見つかりましたが、失踪してから七年後です。ほんらいならば、九才のはずです。けれど、警察から連絡があり駆けつけるとそこにあったのは十代後半から二十代前半の青年の体でした。
わけが分かりません。警察の検視の方も戸惑っていました。
たとえば息子が攫われてしまったのだとして、ろくに食事を与えられず標準よりずっと発育が遅れてしまっていたというのならば分かります。でも、その逆だったのです。どうすれば、十年以上のズレが出るほど成長するのでしょうか。
遺品として、奇妙な石を渡されました。
メノウのような、赤い半透明の石で真ん中に紐が通せるくらいの穴が開いていました。
結局、親子関係は証明できるものの、聖人だとは断定できず、行旅死亡人とされました。
李李李
追記 青年は見慣れぬ服を着て体には、全身刺青があり警察はカルト教団とのかかわりを懸念したようですが、確証はえられませんでした。
『オオガミ・メモ』
××県△△市における幼児失踪事件について
公園に入って、ジャングルジムにのぼり、母親が女性とわずかに会話を交わして振り返ると、消えていた。
遊具から落ちたわけでもなく、忽然と姿を消したのだ。時間帯は夕方、真っ赤な夕焼けが鮮やかで母親と女性はそのことを口にしただけだという。
なんとかコンペの一次は通過した。ブクマも三桁後半。悪くないけれど、連載が終わったら、ブクマがごっそり減る可能性ありか。就活も少しは本気を出さなくては。
『感想をありがとうございました』
恥ずかしいです。似たような話しか書けなかったです。やはりオオガミ先生のように才能はありませんね。
実体験かと聞かれたら、そうとしか言いようがありません。わたしなんかが書けるのは、実際に体験したことばかりですから。
六年前の出来事です。
こんどもまた夕暮れ時に子どもが消えてしまいました。
二番目との夫ともうまくいかず、別居状態でした。高校すらきちんと出ていないわたしに、生活を支えるくらいの十分な収入など得られませんでした。その日暮らしです。でも、子どものために頑張らなくてはと思っていました。
でも、不安で不安でしょうがありませんでした。
いっそ子どもを道連れに……なんて最悪のことも考えてしまうことも正直ありました。
どこか別のところへ行ってしまいたい。そんなことばかりを考えていたのです。
そして、息子・岳斗はいなくなりました。
李李李
『オオガミ・メモ』
「李李李(りりり)」氏は、二度にわたり子どもを神隠しにあった。直接話を聞いてはみたいが。卒論も進まず、小説は二次落ち。気が抜けて続きが書けない。
やる気がでない。いっそ何もかも捨ててしまいたい。
『こんにちは^^』
先日、警察から連絡があり、出向きました。身元不明の遺体のDNAが岳斗と一致したとのことでしたが、また青年でした。
ねえ、先生。わたしの子どもたちはどこかこちらとは時間の速さの違う異世界で過ごしてきたと思いませんか? わたしは前に遺品として渡された石をペンダントにして岳斗に付けさせていました。
こんどもそのペンダントだけが遺品として返されました。
もしかして、この石をもって血のしたたるような夕焼けのなかにいたならば、異世界に行けるのではないかと思うのです。
実証されましたから。
オオガミ先生は、プロになられるのですか? それとももうお仕事をされているのでしょうか。
どこか遠くへ行ってみたくなりませんか。いま、わたしは一人です。
石は私が持っています。こんど使ってみようと思ってます。
いつでもご連絡ください。
李李李
やり取りはここで終わっている。そして田上は行方不明だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます