第3話 人魚 (伝奇)

貧しい漁師の網に、傷ついた人魚がかかった。

 漁師は献身的に看病し、人魚の傷が癒えるころには二人は夫婦になった。

 つつましくも仲睦まじく暮らし、五人の息子をもうけた。

 平穏に日々を過ごしていたが、不治の病に侵された領主が人魚のことを聞きつけた。

「人魚の肉を献上せよ」

 死から逃れるために、領主は不老不死になるという人魚の肉を所望したのだ。

 約束の日、漁師は小さな風呂包みを胸に抱いて城へやってきた。

 年老いているはずの漁師の頬には皺ひとつなく、曲がった腰が伸びていた。

 肉を出すよう、申しつけられた漁師は包みを差し出した。

「これを。体は昨夜、家族で喰いました」

 驚き激昂する領主の眼前で包みが解かれ。

「網にかかったときから、あれは私のものでした」

 包みの中には、笑みをたたえた人魚の首があった。

 その後、まもなく領主は病死し漁師の一家はいずこかに消えた。

 今は、血のついた風呂敷だけが人々に伝えられている。

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