2.新たな家族

新たな家族 2-1

ガリアントと共に王都に行進し始めて2日目の夜始め、王都までは残すこと丘一つだった。

ヘンリたちが村を出てからは、問題になるようなことはほとんど起こらず、順調に進んでいる。


「ヘンリ、疲れていませんか?」


「正直なところ・・・・・・ちょっと疲れた」


「王都に着けば、大きな部屋で休むことが出来ますよ」


「それはいいなぁ」


個人の部屋としては、宿の少し狭いくらいの大きさが続いていたことから、王都での部屋の様子をヘンリは思い浮かべる。


「あと、王都には温泉があるんですよ」


「温泉? あの、温かいお湯に浸かる?」


「はい。疲れを取るにはとてもいいですよ。ヘンリ・・・・・・温泉を知らないのですか?」


「家にはそういうものはないから、とても楽しみだよ」


「ふふ。そうですね。今日はゆっくり休みましょう」


緩やかな上り坂が続き、街道をゆっくりと進む。周りは丘といっても森が広がっており、背丈の低い木が連なっている。

虫や鳥の声が森の中を這う様に響き、静けさを見送っている。

そして、星が良く見え始めた頃、いよいよ、隊は丘の頂上に到着した。

涼しい風が吹く。

隣のリーシャは髪を少し押さえるように耳近くに手をやる。

その行動にヘンリは気づかない。

なぜなら、彼らの見ることのできる前の景色が理由だった。

大きな都市だ。

それは、ヘンリの暮らしていた自身の領地の街やリーシャの住む街とは比べ物にならないほどの大きさだからだ。

直ぐ近くに見えているわけではない。

現在位置から直線距離でも三キロ近くある。それでも、大きさが判ったのは、街の明かりだ。

とても明るい。

また、中心部であろう所に背丈が周りの建物と比べ物にならないほどの建造物があることも一つである。


「・・・・・・すごい」


ヘンリを始め、ガリアントの兵からも感嘆の声が出る。


「私としても久しぶりなので・・・・・・懐かしいですね」


そう、今彼らが見ているのが、目的地である王都『ラシャータ』。


「ラシャータは、大きな街道十四本とつながっており、内陸部の流通中心地として栄えています。そのことから、ランシャン王国の技術の全てが集まっています」


リーシャが簡単な説明をする。

しかし、隊の他の者は聞いている感じが無かった。

そのことに気づいたリーシャはため息をしながらも苦笑いをする。


「それでは、皆さん。行きましょうか」


「あ、ああ。行こう」


街の商店が閉じる時間、ヘンリ達は街に到着していた。





既に通りに出ている人はほとんどいなく、城までは止まることが無かった。

そして、目的地に到着したのだ。

王城の中に入ると、段取りよく各人の部屋まで通された。

ヘンリも白色の壁がとても目立つ部屋に通され、やっと休めると思っていたが、席に腰掛けて直ぐ、休憩は終わってしまった。


「ヘンリヴァルト様。移動のご準備をお願いします」


「移動?誰かが呼んでいられるのですか?」


「王がお待ちです」



王の間には見覚えのある後姿があった。


「リーシャ?」


「ヘンリですか? あなたも呼ばれたとなると・・・・・・明日のことについてのようですね」


「打ち合わせということか?」


「それもあると思いますが、もう一つ、大事なことがあるのです」


リーシャの言葉にヘンリは予想のつかないという顔をした。

それを見たリーシャは言葉にして伝えようとしたが、もう一人の登場によって、その必要は無くなった。


「お先に誰か来ているようだね」


ドアの閉まる音と共に、女性が入ってきた。

黒色の髪でショートヘアーということから、ヘンリは違和感を覚えた。

それが顔に出ていたらしく、女性はヘンリの方に体を向ける。


「何か私に聞きたいことがあるのですか?」


「い、いや。黒髪の人を見たことが無かったので、つい見入ってしまいました。すみません」


「いやいや、謝ることは無いですよ。実際に黒髪の人はほとんどいないから、よく言われますし。

・・・・・・それより、リーシャ。この方は?」


女性はリーシャに紹介の仲介を頼み出た。

それに、素早くリーシャが対応する。


「こちらは、今回の領地拡大に伴って新たに設けられた『シグリー領』新領主となったヘンリヴァルト・フラン・シグリーですよ。

年は私と同じ十七歳。そして、幼馴染です」


「へぇ。何か面白そうな話だね。

どうかな? 今回の会の途中ぐらいにもお茶会でその話を聞かせてもらえるかな?」


「いいですよ。他にもお話したいことはたくさんありますから」


二人の間に話の華が咲こうとしていたが、リーシャはヘンリのことを思い出し、「ごめんなさい」とヘンリに言った。


「ヘンリ。この方はランシャン王国『王国代表会』二十一人の内の一人、製造技術部門のミア・オロスです。

今回、ヘンリのための『箱』を造って頂く方ですよ」


「ミア・オロスです。これからはよろしくお願いいたしますよ、新領主様」


ミアはニコリと笑って、手を出す。

それに対して、ヘンリはぎこちなく「よろしくお願いいたします」と言いつつ、彼女の手を握った。

そして、一通りの挨拶が終わったところで、鈴の音が鳴った。

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新入り領主と二十一の権娘 桜空みかたまり @hana2kokoro5

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