挨拶 1-12

既に王都に向かい始めて四日目。

ガリアントとの戦が行われ、終わった頃には空は満天の星空が広がっていた。気温も下がり、大地を冷やしていく。

ヘンリたちが入った村はガリアントの策の通りに進み、何軒かが燃やされ、終わった。

戦の後片付けをしていく。

その中で、ヘンリとリーシャは自領の兵の安否確認をしていた。それぞれ分かれて行うのでなく、一緒に行動していた。


「今のところ死者は出していない。けが人はいるが・・・・・・」


「はい。三人が重症状態ですね。他はかすり傷程度です。どうしましょうか」


小さな村で起こった戦いは、ヘンリ達は重傷者三名、軽症者四名。

ガリアント側では十二名の死者と多数の負傷者を出していた。

負傷者に関しては、村の協力もあり、手当てが進んでいる。

しかし、ヘンリ達にとって状況は良くなかった。

王都に向かうまでに、今日の間に進む距離があるのだが、隊の中に負傷者を抱えていては、達成は不可能だった。

今日も含めて、王都まで約百四十kmある。

5日目では、半分以上は進んでおきたいところであった。

全員の安否確認を終えたヘンリとリーシャは村の宿を借りて、今後のことを考えた。


「シャルとガリアントの隊長も呼んだほうがいいのかな?」


「そうですね。今の状況は早く対策する必要がありますから」


シャルについては、宿に向かっている途中に出会えたことから合流してもらい、隊長については、ガリアントの傭兵に「隊長さんを呼んできてほしい」と頼んだ。

そして、全員が宿に集まった時には、既に村は普通を取り戻していた。

隊長は、宿に着くなり宿主から水をもらい、一気飲みしてから話し合いに参加していた。

大きな机が用意された食堂部分に四人。

机の上にはランシャン王国の地図が置かれていた。

ここでの話し合いは、『あと二日でどのように王都まで行くのか』、『負傷者の対応はどうするのか』などだった。

ルートについては王都までの主要通路を進むことは変更せず実行することになった。しかし、問題は負傷者だった。


「やはり、この日数だと厳しいな」


ヘンリが唸る。

すると、リーシャが「それでは」と言い、提案をする。


「馬車用の台車を村から借りて、その中に負傷者を乗せていくというのはどうでしょう?」


「それは無理だ」


リーシャの提案に対して、ガリアントの隊長は直ぐに否定する。

すると、シャルが隊長に「理由をお聞かせ下さい」と尋ねた。

それに、何も躊躇いなく隊長は答える。

「今現在、負傷者はこちらが十二人だった。そちらは?」


「三名です」


「よって、十五人だ。その内、動かすことの出来ない奴が数人いて、さらに、そんなに人数がいると、乗せるのにこの村の荷台では足りないということもあるんだ。

まあ、俺たちを置いていけばいい話だが・・・・・・」


ガリアントの隊長はリーシャの方に視線を送る。

すると、リーシャは口を開いた。


「私が、あなた方についてきてほしいと頼んだのです。今でもそのことは変わりません」


「・・・・・・まあ、こういうことなんだ」


ガリアントの隊長はため息をついた。そして、考えも無くなり、全員が静かになってしまった。

すると、次にシャルが口を開いた。


「では、ここに私と負傷者を残していってください。リーシャ様はヘンリ様、ガリアントの隊長殿と一緒に王都へ向かってください。私が監督として残れば、大丈夫でしょう」

「・・・・・・シャル、本当にいいの?あなた、王都のお姉さんに会う予定なのでしょ?」


「会えるのは今回だけではないので・・・・・・。ガリアントの隊長殿もそれでよろしいですか?」


「そうして頂けるのなら、ありがたい」


「しかし、村に迷惑が掛かるだろ」


「そのことについては・・・・・・」


シャルはリーシャに視線を送る。


「村の負担については村長と話し合ったあと、ここの領主にも報告しますので大丈夫だと」


「そうか。じゃあ、シャル。お願いできるか?」


「かしこまいりました」


会議が済んだ後、ヘンリとリーシャは村長の家を訪ねて今後のことを話した。

その結果、村としても協力するという返答を二人はもらった。

こうして、シャルと兵二名、負傷者を村に残して王都への行進となった。

星空は天を回り、全ての話が終わった頃には紅色を連れてきた。

朝だ。

王都組は直ぐに出発の準備を完了させる。

そして、村を出る時、村側にはシャル、王都側にはヘンリたちが向かい合った。


「それでは、シャル。頼みましたよ」


「リーシャ様も安全にはお気をつけください」


「出来るだけ早く戻ってくる」


「ヘンリ様、焦りは禁物ですよ」


「分かっている。それでは頼む」


ヘンリたち率いる総勢三十四人はシャルと数名を残し、王都に向けて再度出発した。


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