挨拶 1-11

「さぁ、早く終わらせましょう。私たちは急いでいます」


炎の中、一部の空間が出来ており、敵の隊長とリーシャは向かい合っていた。それでも、隊長は炎の熱に耐えるには装備が悪く、どうにか立っている様子となっていた。

リーシャについては、彼女自身の体に炎が付いている。

そう、それが装備かのように。


「これだけのこと、俺を殺せるだろう。なぜ、終わらせない?」


隊長は額に大量の汗をつけてリーシャに尋ねる。

その解答について、少しの間をもって、リーシャは口を開いた。


「・・・・・・理由は二つあります」


リーシャは、剣を強く握りなおして、下ろすことなく話を始める。

炎の色もより明るくなる。


「一つ目は、あなた方の正体についてです。これだけの人数、統率力、武装。ただの捻くれではないと判断できます。・・・・・・あなた方はどなたですか?」


リーシャは真剣に睨むに近い顔で隊長を見た。

しかし、その隊長としては、リーシャの質問に一寸の驚いた顔をつくる。その顔を見逃すことのないリーシャも、その表情に驚いた。


「何かありましたか?」


「ああ。お前たち、俺らのことを知らずに戦っていたのか?」


隊長からの言葉に、リーシャは頷く。

それに、隊長はため息をついた。


「ここでは知られてないってことか」


「どういうことですか?」


リーシャとしては今の状態が良く判らないことになっているということしか理解できなかった。

しかし、その答えは直ぐにわかった。


「俺たちは、傭兵ようへい専門の『ガリアント』だ」


「ガリアント?どこかで聞いたことのあるような・・・・・・」


隊長は「それはそうだろう」と声を飛ばす。


「この国では、『リュノビー家』と『フィベル家』でお世話になっているからな」


リーシャは頭の中の図書館を駆け巡る。

最近のことから、領主になった頃まで。そして、その中に条件に当てはまることがあった。

過去、それらの国の領主たちと話し合っていた内容を。

(・・・・・・そういえばララがこの前の戦でのことでそのようなことを言っていました!)

リーシャはいよいよ彼らのことを思い出した。

ランシャン王国西部の地方と西に位置する隣国『テラジバー』を中心に活動をしている傭兵集団『ガリアント』。

彼らの中にはいくつかのチームがあり、それぞれで誇るような戦術を持っており、その力は大きい。

(何も話さず動く。彼らにとっては、それが戦術なのでしょう)

規模は三千人という多さを誇っており、過去、リーシャも一度、彼らの力を借りていた。


「・・・・・・その顔だと、覚えがあるようだな」


「はい。三年前の海戦で力を貸していただいてありがとうございました」


リーシャは簡単な礼をする。


「しかし、なぜ傭兵の皆さんが盗賊のような真似をなさるんですか?」


「・・・・・・『テラジバー』からの仕事だよ。ヒベス地方の村のいくつかを襲って、挑発をしてこいという内容でな」


「・・・・・・つまり、こちらから戦端を開かせるようにとの作戦ですか」


「さあな、そこまでは判らない。しかし、傭兵という立場でも、戦う者としての心得は持っている。俺たちは、盗賊はしない。襲っているだけだ」


「盗賊はしない? 周りの村人たちは、裕福な家は襲われず、襲われたところは金めのものを奪われたと」


「それは『策』だ。俺たちとしても、汚い仕事まではしたくない。襲うものは貧しい者に限って、空になった家を焼かせてもらう代わりに、その後の生活について面倒を見るということにしているんだ」


「では、村人の話は」


「近くで見ていたものはいなかったからな。家の持ち主については、劇をしてもらっていた。結果としては、俺たちの作戦は成功したのだろう」


隊長は笑顔をつくった。

しかし、リーシャとしては不思議なことがあった。


「しかし、そのような話を私にしてもいいのですか? ネタ晴らししているようなものですよ。仕事を発注した側から怒られますよ?」


「そのことについてなんだがな、俺たちとしてもやっていることは『策』であってもやっぱり心苦しいんだ。家を襲うなんてことは。そんな中、俺の目の前に領主が来てくれた。そして、話し合うことがこうして出来た。部下が見ているところでこんなこと話すことは出来ないしな。

それに・・・・・・俺としても、まだ死にたくない。これ以上、部下を死なせるわけにもいかない」


隊長はそう言い終わると、地面に座る。

そして、深く頭を下げる。


「頼む。降伏する。

だから、俺たちを助けてくれ」


隊長はその体勢を崩すことはなかった。

そして、彼の先、リーシャは剣を下ろすことなく立っていた。

リーシャとしてはどうしたものかと思っていた。

(現在の位置から見ると、この状態は彼の言うとおりでしょう。

実際、村人については殺されている様子はありませんでしたし。

しかし、そのようなことではこちらも動くには大変ですね・・・・・・)

今は違う用事でやって来ているのだ。

今、彼らを助けるにしても後ろにいるのは一つの国なのだ。

下手に動くには、一領主で決めることの出来る用件ではなかった。

その場での軽率な判断が国益こくえきに与える損害が大きいことをリーシャは理解していた。

その中でも、隊長は頼んできているのだ。

そのことを理解しているのか判断が難しいところ。

(これは、王都で話し合う必要があるようですね)

リーシャは決断した。

彼女は自身の炎を収めて剣から手を放す。

すると、箱の蓋が開き、剣は中に消えていった。

そして、箱も彼女の前から姿を消した。

隊長は、周りにあった炎の渦が消えたことで、隊の者を見ることが出来た。

その様子を見ながら、リーシャは隊長に告げる。


「降伏宣言は了解しました。直ぐに終えましょう」


「それでは・・・・・・」


隊長は明るい笑顔を見せる。


「しかし、その後については、ここで決定するには難しいところです」


そういうと、リーシャはヘンリの方を向いて、彼に聞こえる声で尋ねた。


「ヘンリ。人数が少し増えても大丈夫ですよね?」


「え・・・・・・あ、あぁ」


ヘンリとしては、何がどうなっているのか理解できないままの質問だったので、曖昧にも等しい答え方となってしまった。

しかし、リーシャはそれで満足したようで、敵の隊長に向き直る。


「あなた方には、この後、私たちと共に王都まで来てもらおうと思います。そこで、今後を決めさせていただきます」


リーシャが言い終わると、その場は戦場とは思えないほどの静かさが広がった。

そして、大体が理解したとき、リーシャ以外からありえないという声が上がった。




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