挨拶 1-9

太陽は昇り始めており、道を照らしていく。

隊列も揃った頃、ヘンリはリーシャに昨日の話をしようとした。


「リーシャ。体は大丈夫かい?」


「はい。もう元気ですよ!」


リーシャは片腕を上げて元気な様子をヘンリに見せた。


「何かあったら、無理はしないでくれよ」


「わかっていますよ」

二人で笑い合う。

こうして本題へと入った。最初は昨日の話。

全部を言い終わった頃、リーシャは昨日のヘンリのような顔を見せた。やはり不思議なことがあったのだ。


「『盗賊』というからには、少数で、荒く、連携はそこそこだと思っていましたが、全く逆の結果ですね」


「そうなんだ。さらに馬があり、装備は兵のよう」


「それは、どこかの兵だとは確定は出来ませんが、まずは『盗賊』ではありませんね」


今も馬を進めている状態だが、腕を組んでしまいそうになるような件だ。


「このことは、王都についてから調査の準備をしてみましょうか」


「そうしよう」


今のところでは動くにしても情報が少なすぎるという事で、今は保留となった。しかし、その場で足りない情報はそんなに遠くない内に得ることになるのだった。


事件は四日目に起こった。

予定通り、四日目は急ぎの行進となったことから、目的の宿は遠く、その近くに到着するときには夜を迎えていた。


「この季節だと、夜は冷えてきますね」


「早く宿で休みたいというのも感じられるね」


「あと少しです。頑張りましょう」


リーシャは笑顔をつくる。

夜の月明かりははっきりしていて、彼女の顔もしっかり見える。

ヘンリとしては、何よりも見惚れるようなものがあった。

しかし、そのような時間は良く続くはずもなかった。

森を抜けて、いよいよ目的地の村が見えてきた時、馬を止めて村の方角を見た。

王都に向かっていた集団は驚愕きょうがくした。村が燃えているのである。

「・・・・・・!」


リーシャは馬を勢いよく出した。


「リーシャ!」


ヘンリも追いかけるように馬を出し、シャルも他の兵を連れて村に急いで向かった。

近づくにつれて、村の状況がより詳細にわかってくる。複数人が村を襲っていたのだ。

ヘンリは盗賊だと判断した。

ヘンリはリーシャにどうにか追いつこうと馬に付けていた荷物を勢いよく外した。そして、リーシャに追いついた。


「リーシャ、どうするつもりなんだ!」


「助けます!」


リーシャはヘンリの方を向くことなくそう言った。馬の速度は落とすことなく、村がより大きく見えてくる。

その時、ヘンリは気づいた。


「・・・・・・声が聞こえない」


「どういうことですか? 村からは叫び声がしていますよ」


「そう、『叫び声』は聞こえる。でも、この声は住民たちの声、『悲鳴』のように聞こえる」


ヘンリの言葉に、リーシャは自身の目を閉じて、もう一度耳を澄ませる。

村のほうからは、「助けて!」や悲鳴しかない。確かに、村人たちの声のような言葉しかなかった。


「普通、団体で行動するにあたって指揮するのに声を出すのは必須だ。なのに、その声が聞こえない」


「ただ単純に、周りに気づかれないようにしているという可能性は?」


「無いと思う。住民の叫びが大きいと、小声で話しても無駄だし、民家を燃やしていれば、人が寄って来てしまう」


「それじゃあ・・・・・・」


「一つしかない」


ヘンリたちには思い当たる話があった。

それは二日前ほどのあの話だ。

無口で統率の取れた集団。不気味なほどの集団だ。

それが、今、見えるところにいるのである。


「どうする?」


ヘンリからの質問に、今度は彼の方を向いたリーシャが答えた。


「村人を助けて、あの集団も処罰します!」


真剣だった。

ヘンリとしても見過ごすことの出来ることではなかった。

しかし、今は王都へ向かっている途中。

全体がボロボロになるわけにもいかない。

(・・・・・・特訓の成果を出さないとな。自分のために皆で王都に向かっている。自身が握る紐なら、最後まで守りきらないといけない)

・・・・・・。

ヘンリは決心した。


「リーシャ!」


「はい!」


リーシャは突然の呼ばれに動じず、はっきりと反応する。


「みんな!」


「は!」


ヘンリたちの後ろからもたくましい声が聴こえる。


「助けよう!でも、自分の命を大事にしろ。それが出来ないと、人々は救えない。これからもだ。それを心に刻んで、いこう!」


「了解!」


村まで、二百、百と距離はどんどん近づいていく。

そして、少数ながらも、ヘンリたち王都への集団は村の柵内に突入した。

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