挨拶 1-8

王都への行進、二日目。

食堂では、ヘンリとシャルが予定表とにらめっこしていた。


「一応、余裕のある日程になっているけど、その他に何かあったら、急がないといけないな」


「私たちの隊は一日分の宿を越すことができると思われます。

なので、明後日の四日目はそのようにしたらどうでしょう?」


ヘンリは「そうだね」と頷く。

なぜ、ヘンリたちがこのような話をしているかというと、リーシャが風邪を引いてしまったのだ。本人は「大丈夫です」と言っていたが、そんな彼女をヘンリは止めたのだ。もしふらついて落馬らくばしたら、余計、時間が掛かるからと言ったのだ。

リーシャは渋々そのことを承諾した。

世話は宿の女将さんに任せた。

そして、ヘンリ達は食堂で議論していたのだ。

その結果としては先程のように、四日目に早足で宿を一つ跳ばすことにした。

その後は、シャルはリーシャのところに戻り、彼女の世話をすると言って、その場を去っていった。

食堂に残ったヘンリは、今日はどうするか考えていた。

個人的には、リーシャの看病を手伝いたかったが、シャルに「ヘンリ様は他のことをなされてください」と言われてしまったのだ。

ヘンリは少し考えた末、宿の周りを歩いてみることにした。

兵たちにはゆっくり休んでいるように言って、ヘンリは自身の剣だけを持って宿を出た。

周りは何軒かの家があり、あとは畑という田舎風景が広がっていた。その風景は、風がよく似合うところで、今の時期、少し黄色がかった稲穂が波をつくり出す。

「サラサラ」と音を出し、互いの存在を主張する。

ヘンリにとって、この光景はとても懐かしいと感じた。

彼の領土では稲を育てるには環境が悪く、外から仕入れていたが、父に付いて多くの場所を周っていたヘンリとしては、何度か見たことがあった。


「そうか、もうすぐ収穫の季節か。うちでは葡萄ぶどうがよくなってきているくらいかな」


小さな笑みがこぼれる。

畑の間の道を進んでゆく。すると、遠くの方で何人かが作業していた。

ヘンリは昨晩の話『盗賊』についてを思い出し、情報収集してみようと思った。


「こんにちは」


「・・・ん? 見ない顔だね」


ヘンリから一番近いおじさんが反応した。

大きめの麦藁むぎわら帽子をかぶって、半そで。

屈強な男という感じだった。


「はい。今、王都に向かっている者でして、この近くの宿で少しの間休んでいるのです」


「ああ、街道沿いのあそこにね。でも、あんたの格好は随分変わっているね?」


「隣の領土から来ている者ですから」


「そういうことか」


おじさんは皆に「一回休憩しよう」と呼びかけて皆で飲み物を囲んで話し合いが始まった。

最初は世間話をしていたが、ヘンリはついていくのがやっとだった。

そして、やっと盗賊の話に入ることができた。


「人数は多いのですか?」


「そうなんだよ。俺が遠くで見たときは、一つの家に三十人ぐらいが囲んでやっていてな、大掛かりだったよ」


「そうそう、私も奴等が多くで移動するのを見たわ」


「そうですか・・・・・・」


ヘンリは一つ疑問に思うことがあった。

しかし、今は彼らの話を聞くことに専念することにした。


「武装とか分かりますか?」


「えぇ・・・・・・と、確か、弓と剣、盾だったかな。何人かは馬に乗っていたな」


「何か叫んでいたりしていませんでしたか?」


「いいや。襲われている家族以外の声はしなかったよ。奴ら、不気味なほど喋ってないんだ」


今の言葉に、ヘンリはさらに悩ましいと感じた。

(このことはリーシャと一回話しあわないといけないな)

ヘンリは、その後も彼らと話し合って、キリがいいところでお礼を言って別れた。

帰り際、彼らから聞いたことをヘンリ自身内でまとめていた。

連携が出来、口を動かすことなく行動する。

さらに、軽く二小隊ほどの人数で規模の小さい盗賊。

不思議でならなかった。

影響を受けた家もそんなに裕福な家庭でなく、普通の家庭だ。

そこから金めの物を奪う。

なのに、裕福の家は襲っていない。

ヘンリは、腕を組んだままゆっくりと宿に戻っていった。

彼が宿に着いた頃には、既に太陽も沈みかけていた。

夕食、食堂にはリーシャの姿はなく、未だ看病中であるとシャルからヘンリは聞かされた。

ヘンリとしてもリーシャに無理させる訳にもいかないので、今日の話は明日伝えることにした。




王都への行進、3日目。

リーシャの体調も回復し、朝早くに宿を出ることにした。


「すみません、皆さん。私が風邪を引いたばかりに」


「そんなことないよ、リーシャ。皆、十分と休みが取れたし」


ヘンリの言葉に、他の兵は頷いた。

リーシャは「ありがとうございます」と言った。

そして、再び前進を始めた。

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