挨拶 1-7

食事後、部屋についたヘンリは、苦笑いをしていた。


なぜか、リーシャが部屋の中にいて、お風呂に入った後のようだった。タオルを巻いた様子の彼女は、ある意味綺麗だった・・・・・・が、この状況ではタイミングが悪かった。

ちょうどその瞬間にシャルがやってきたのだ。

何秒間か静かな時間が過ぎる。

そして、初めて動いたのはシャルだった。


「・・・・・・すみません。お楽しみのところを、お邪魔してしまいました。私は部屋に戻りますので、どうか気兼ねなく・・・・・・」


「い、いや。シャルさん。これは違うんです!」


「それでは、失礼します」


ヘンリの言葉はシャルには届かず、彼女は部屋を去っていった。

ヘンリとしては、とても気まずい状態となった。

(まずは、リーシャに弁解を・・・)

今の状況からどうにかしようとしたヘンリは、シャルの方向に視線を戻した。

しかし、そこには誰もいなかった。

ただ、床にはタオルが一枚あるだけだった。




(びっくりしました・・・・・・)

リーシャは浴室がある部屋に戻って隠れていた。

彼女は、自分の部屋に訪問者が来ると思っていなく、浴室と同じ部屋の中に着替えを用意していたが、着ようとしてなかった。

しかし、そこにヘンリが来たのである。

リーシャの胸はバクバクしていた。

リーシャは自身の手に視線を落としてみると、手が震えていた。

息も少し荒い。

(初めて・・・・・・見られた)

忘れてはいけないが、リーシャは歳としては乙女の時期なのである。彼女自身、悲鳴を上げずにいれた自分は、まずは良かったと思っている。これで声を上げれば、多くの人がこの部屋に集合して、見られることになったかもしれないのだ。

髪もしっかりと乾いていなく、他にもしなければいけないことがある。そう、綺麗にみられる女としてのことが。

しかし、震えがまだ止まらない。

そんな時、ドアの外から声が聞こえた。


「リーシャ、どこへ行ったんだ?」


その声はヘンリだった。

リーシャは、落ち着こうとしない鼓動がさらに強く、速くなったことを感じる。

そして、いよいよ声になって出てきた。


「で・・・・・・」


ヘンリとしてもその声は聞き取れていた。


「で?」


「出て行ってくださーい!」


大きな声として、リーシャはいよいよ声にしてしまった。

そして、ドアの外からはヘンリが「ご、ごめん!」と言って出て行くのを聞いた。

通路との扉がしまったのを聞いたリーシャは、何かの力が抜け、その場に座り込んだ。

少しの間、思考停止。

その後、動き出すまでに時間が掛かった。

(わ、わたし。言ってしまいました・・・)

緊張の中、少しの後悔を彼女は覚えた。

しかし、直ぐにそれを自身で撤回する。

(いえ、ヘンリが悪いのです!)

彼女は、その時、やっと緊張が和らいでいた。


「クシュッ!」


リーシャのくしゃみが浴室方向に響いた。

くしゃみをしたときに下を向いた彼女は、その時、初めて知った。

彼女の体には、何も巻かれていなかった。



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