挨拶 1-6


ヘンリがガリストでの稽古けいこを受け入れてから2日後、シグリー領内のティーベに知らせが入った。

内容は、ヘンリのガリストでの稽古に関する事だった。

ティーベは兵に「ご苦労様でした」と言い、ついでにキリとローヌを呼んできてほしいと頼んだ。そして、五分後に二人はティーベの前にやってきて、ヘンリの今の状況を知ったのだった。


「私たちは、その一ヶ月の間、どうしていたらよいのでしょうか?」


キリはティーベに強い口調で尋ねる。

しかし、ティーベはやさしく対応した。


「ヘンリ様が帰られるまで、自身を研いておくのがいいでしょう」


こうして、シグリー領に領主が不在の一ヵ月、それぞれの成長は始まった。





夏も終わりに近づき、ヘンリの稽古も終わりを告げようとしていた。

一ヶ月の間にリーシャ達が交代で多くのことを教えてどうにかこうにか間に合ったという感じである。


「まだ、ヘンリにはたくさん教えることがありますが、今回はこれでお仕舞いとしましょう」


「一ヶ月の間、ありがとう」


「いえ。ヘンリも少しは領主らしくなってきたんだなということで、私もうれしいですよ」



二人で使った武具を片付ける。

そして、いよいよヘンリは王都に向かうときとなったのである。

ガリストでの稽古を終え、一度、自治領に戻ることとなる。

ガリストを出る最後、ヘンリはリーシャと言葉を交わす。


「それじゃあ、五日後、王都まで一緒に頼む」


「分かりました。無事に帰って、五日後に私に会いに来てください」


そして、ヘンリはシグリー領に向け、出発した。

帰りも行きと同じようにして帰り、ヘンリは久しぶりに、自分の家があるシグリー領レガブシルの土を踏んだ。

町の門に近づいていくと、その側にヘンリの世話役の二人が待っているのをヘンリ一行は見た。

そして、彼女たちの前で馬を止める。


「「お帰りなさいませ、ヘンリ様」」


「あぁ。ただいま」


「久しぶりにキリとローヌの声を聞いたなぁ」とヘンリは思っていた。

話したいことはたくさんあった。しかし、今は次の用事が待っている状態だった。


「すまないが、直ぐに出ないといけない。準備を手伝ってくれないか?」


ヘンリがキリとローヌにそのように言うと、二人は笑って答えた。


「既に、ヘンリ様の着替え以外は完了しています」


「直ぐに寝室へ」


その言葉を想定していなかったヘンリは、驚くしかなかった。

ヘンリの着替えは、彼が寝室につくなり、何人かのメイドによって一気に行われた。

そして、食事を済まして短い休憩を取った後、ヘンリは席から立ち上がった。


「よし、行こう!」


こうして、ヘンリの二回目となる領主業が始まるのだった。




今回は、供を十名ほど連れてのガリスト訪問となった。

城内に通されたヘンリ達はリーシャに会いに行こうとするが、メイド長は馬から下りずに裏門に向かうように言った。

そのことにヘンリは疑問を抱いたが、言われたように向かってみると、その答えは直ぐに分かった。


「お待ちしておりました。では、行きましょうか」


リーシャ率いるフィベル領御一行がそこに待っていた。


「これで全員か」


「どうしたんです? 何か心配なことでも?」


横に馬をつけてきたリーシャが尋ねる。

今日のリーシャの服はこの前のように城内用とは違い、煌びやかなものだった。


「いや、大丈夫だ」


「そうですか。では、出発しましょう。今日のうちにできるところまで進んでおきたいものですから」


ヘンリは、それに頷きで答える。

そして、二十三人になった一行は王都に進み始めた。

今日は晴れているおかげか、とても気持ちよかった。

多くのものがいろいろな思いを抱いていたが、ヘンリは少し違っていた。

「六日間も掛けて王都・ラシャータに行くとは、世界も広いな」


「そうですね。今私たちがいるところは、地図上では小さな一点のような場所。これからアンシャンでヘンリが知っていくようなことは、それと同じように広く、多くあります。頑張ってくださいね」


リーシャは右目でウィンクをした。

ヘンリは、苦笑いをしながらも「努力するよ」と答えたのだった。

その後も話をしながら順調に進み、一回目の宿に着いた。

着いてからは、宿主が直ぐに一行を宿の中に入れて、食堂に彼らを招いた後、調理を終えたものから次々とヘンリたちの前の机に並べられていった。

リーシャは宿主となんとなくの世間話をしていた。内容は、主にこの近辺のことだったが。

しかし、その話の中にリーシャが特に気にしたことがあった。


「盗賊?」


リーシャは疑問に思う。


「この前の王国騎士団による作戦で終わったのでは?」


「はい。確かに騎士様たちのおかげで多くがいなくなりましたが、残党がいたらしく、このあたりを荒らしているのです」


その言葉に、リーシャ側の兵が声を上げる。


「なんて者共だ。そのようなことしか考えられないのか」


その言葉に「そうだなあ」と何人かからも声が上がった。

そして会話が始まり、一人の兵がヘンリとリーシャに問いかけた。


「領主様方、どうなさいますか?」


その問いかけに二人は少し悩んだ。

今、ここに来ているのは違う意味だからだ。しかし、見過ごすこともできないこと。領主たちの口からは言いにくいことだった。

しかし、そこに同行していたシャルが口を開く。


「あなたたち。今回の王都に行くという主旨を忘れていませんか?

今回はヘンリ様が我が王国に入られたことを歓迎するということで向かっているのです。あまり時間はないのですよ?」


シャルの言葉で、言い始めの者から全員が口を閉じた。

ヘンリ、リーシャとしてはみんなが意見してくれるのはうれしいことだが、やはり時間が問題となる。


「すみませんが、今の私たちでは直ぐに残党対策はできません。

その代わりに、王国騎士団にそのことを伝えておきます」


リーシャが宿主にそのように言うと、彼は「ありがとうございます」と言い、みんなのおかわりを持ってくることに戻った。

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