挨拶 1-5
二人の騒ぎが落ち着いた頃、やっと領主らしい話が始まった。
「これからはヘンリはタグランド地方の領主となっていますが、この後の日程は?」
「一ヵ月後に王都に来るようにとザルベスタ国王からの招待状があったから、それまでは暇かな」
「そうですか・・・・・・。それでは、私と一緒に
リーシャが前のめりで聞いてくる。
「出来るのか?」
「領主となれば領地の兵を率いて戦にも出るので、しっかり鍛えています」
リーシャは誇るように体を張ると、後ろではシャルが呆れていた。
「申し出はありがたいが、止めておくよ」
「どうして?」
「武具が扱えないんだ。昔からそういうことは避けてきたから」
その言葉を聞いて、意外だったのか。リーシャが持っていたお菓子は床に落ちて、彼女は固まったままだった。
「本当に扱えないのですか?剣以外にも、弓や斧とかあるのに?」
「無理なんだ」
そういうと、一瞬静かになって、リーシャは考え始める。
「ううん」と言いながら考えていたが、直ぐに案が出たらしく、シャルと話し合った。
シャルもその案に納得をしたそうだ。
そして、ヘンリに伝えられる。
「それだったら、より一層武具を扱えるように励まなくてはいけないですね」
その答えに至った理由がヘンリには分からなかった。
「なんでそうなるんだ」
「それは、ヘンリが領主だからです」
リーシャはイスにしっかり座りなおして話し始める。
「アンシャン王国では代表者に対して、国王がその証を与えることになっている。それは領主も同じで、私も代々受け継いでいます」
その時、リーシャは立ち上がって背中に右手をやった。背中には何もないのに。
(何かあるのか?)
ヘンリは彼女の背中に視線をやろうとするとリーシャは口を開いた。
「我、この地において・・・・・・」
彼女がそのように始めると、周りは部屋の色より赤く染まり、輝き始めた。
それはどんどん大きくなり、炎の形を作ってリーシャを包み込む。
「手にする君を」
次には、その炎が彼女の背中に集まり始める。
そして、最後に「今、呼ぶ!」とリーシャが叫ぶと、炎が一気に弾けて、中から細長い箱が出てきた。
部屋の中は、元の色が戻ってきた。そして、リーシャは「ふう」と言いながらこちらを向く。
「これが、フィベル家に受け継がれている
剣『ガレスティア』」
「それが・・・・・・剣?」
先ほどのできごとにまだ動揺していることもあってうまく反応できなかった。
「剣はこの中」
リーシャはそういうと、箱の開け口らしきところに手を当てる。
すると、蓋が開いて、光と共に先ほどよりさらに細長い剣が出てきた。
「これがそうです」
長さはリーシャの身長の半分はありそうで、それほど豪華ということはなかった。すると、リーシャは微笑んだ。
「“意外”という顔ですね」
「いや、そんなことはないぞ」
「パフォーマンスが凄いわりに実物は呆気ないですか?」
「うぐぐ・・・・・・」
ヘンリは先の思いを後悔していた。
しかし、目の前のリーシャは「そう思って当たり前です」と付け足した。
「実際、受け継いだときに私もそう思いましたから」
「で・・・・・・でも、なんでそうなのかな?」
「分かりません。先代の父も何か仕組みがあるのだろうとは思っていたそうですが、特に分かったことはありませんでした」
「そうか」
いったん落ち着いた時、ヘンリは一つ疑問に思った。
「そういえば、さっきの力って“魔力”か?」
「あら、よく知っていますね」
「一応、勉強はしているからな」
この世界には、伝説になりつつある“魔力”というものがある。
実際に確認されているのは二百六十年前からで、アンシャン王国が誕生したときからとなっている。「二十一人の中の誰かが作り上げた傑作」やら「元々存在していた」など多くの話がある。
そして、その力が目の前にある。
「それで、俺にもそのようなものが授けられるということになるのかな?」
「それは分かりません。しかし、相応のものを授かるはずです」
ヘンリはそこで落ち込むしかなかった。
(貰うということは、上手く使わないといけないよなぁ・・・・・・)
「ということになるので、一緒に武具の扱いに慣れるように励みましょう!」
「まあ、結果を見ればいつかはそうなりそうだからな。よろしく頼む」
「それでは、この話は決着がついたということで、他に話をすることはあるりますか?」
「そうだな・・・・・・。この国についてちょっと教えてくれないか?」
「勉強しているのでは?」
「知らないことがあるかもしれないから頼む」
「分かりました」
リーシャの許可を得て、始まった。
現在、アンシャン王国とは八つの国と隣接しており、王都は国の中心に近いところにあり、『ラシャータ』という。そして、それを囲むように十の地方がある。それぞれには領主という国王に仕える王国代表会のメンバーが治めている。
そして、王国代表会のメンバーには他に、騎士団代表の二人、国外対策部署に四人、建造に一人、鍛冶に一人、料理人が二人、そして特技として二人がいる。メンバーは世襲として、または師の受け継ぎとして今に至っている。年齢については、下は十三歳から上は五十四歳となっている。メンバーは王国代表会の規約のように、『王を中心として国外との会談に臨まなければいけない』を守りつつ、国外との関係を築いていっている。
一通り話し終わったことで、リーシャは少し疲れたそうで、タイミングよくシャルが飲み物を渡す。
そこまで聞いたヘンリとしては、大体は知っていたことだったとまとめていたが、一つだけ気になったことがあった。
「一つ質問をしてもいいか?」
「はい、どうぞ」
「代表会のメンバーは十三歳から五十四歳までとそんなに年の差が広くて大丈夫なのか?考えがまとまらないこととかないのか?」
「そのことは心配ありません。喧嘩はよくあることですが、全員が王に仕えるものとしての心構えをしっかり持っています。それに、世襲、それ以外でもメンバーになる前から何度も顔を合わせたことがある人が多いので大丈夫です。
実際、十二歳の頃から領主をやっている私も上手くやってきていますから」
そう言って、笑顔をつくる。
「では、これで話し合いは終わりでいいですか?」
「そうだな。ありがとう」
「こちらこそ、ご苦労様でした。・・・・・・ではこれから一ヵ月近くの特訓を頑張りましょう!」
「今からなのか!?」
「そうです。時間は短く、あることはありがたいのです!」
「いや、でも、一回領地に戻っていろいろやらないといけない事が・・・・・・」
しかし、リーシャは大丈夫という。そのことに理解できないヘンリに、シャルが付け足す。
「ヨワ・ノイド・シグリー様から「息子のことは昔なじみとして頼む」ということでして、武具が扱うのに教育を頼まれました。領地については今から兵を出して向かわせます。このことは、既にティーベ執長はご存知です」
ヘンリは、そこであることに気づいた。昨日、ティーベは父からの手紙を持っていたが、そんなにタイミングよく手紙が見つかるのだろうか。さらに、ティーベはヘンリが起きる前の父の行動に「今日、まだ暗い時間に出られました」と言ったのだった。
全てが仕組まれたことだった。
(もう、後は流れに任せるしかないのか・・・・・・)
ヘンリはなんとなく、抵抗することを諦めた。
しかし、その話がこちらに来ているということはもう一つの話ができるということだった。
「父さんがどこに行ったか聞いていないか?」
そのことにリーシャは不思議な笑みをした。
「はい。知っています」
ヘンリは、確信した。
(これで父さんがなんでこのときにいなくなったのかが分かる)
「教えてくれないか?」
ヘンリが、前のめりになって尋ねる。
すると、リーシャも前のめりになって顔をヘンリに近づける。
「条件があります」
「条件?」と言い、ヘンリは首を傾げる。
「ヘンリには武具の扱いを覚えてもらうという事を先ほどから言っていますが、それが達成したときにお話しすることにいたしましょう」
「どうして今は駄目なんだ?」
ヘンリはどうにか、自分の中のモヤを消したがっていた。
そんな様子が顔に出ていたのか、リーシャはヘンリの頬に彼女の人差し指を押さえつけた。
「それも秘密です。一ヵ月後には全て分かりますよ」
ヘンリは「わかったよ」と両手を挙げながら降参した。
その結果にリーシャとシャルは満足感を示した。
完全な完敗だった。
そして、ヘンリのガリストでの短い生活が始まった。
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