挨拶 1-3



「んん・・・・・・朝か」


部屋の窓は既に開けられていて、心地よい風が入ってきていた。普通に何もない日だったら、気持ちのよい朝なのだが、夢の切れ方が悪かったことにヘンリは落胆していた。

昔の記憶なのだろうか。

それともただの夢なのか。

(彼女は誰なのか)

髪型が特徴だろう。

横髪が長いのに、後ろは肩まで。

ヘンリにとっては、それが珍しかった。

どうにか思い出したくとも出てこない。もう一度寝ればいいのかとベッドに潜ろうとしたが、ちょうど入ってきた世話役に止められて渋々朝食と食べに行った。

朝食を終えて、準備が整うと宿をあとにして再び目指した。

風に当たりながら最後の山を越えて、予定通り、昼ごろにはガリストに着いた。


何階あるのだろうか。

そこにある領主の家はヘンリが住むのよりはるかに大きく、白かった。


町に入り、城のとりでを潜ろうと入口に近づくと、一人の若い男が待っていた。


「お待ちしておりました。ヘンリヴァルト・フラン・シグリー様」


ヘンリを出迎えたのは、ガリスト家執事補佐だった。ヘンリは馬から降り、「どうも」と挨拶する。

馬を預けた後、執事補佐の言われるように供と別れて、案内されてある部屋に着いた。

中は暖かそうな赤色で決まった部屋で、なんとなく落ち着いていた。

背の高い大きなソファーが2つあり、料理の皿がたくさん並びそうな机がある。

執事補佐は主人を呼んでくるとのことで、座って待っているようにヘンリに言って、部屋を出て行った。

ふかふかの二人掛け用のソファーはなんとも言えない良さだった。

また、部屋の中がいい香りに包まれており、手入れがされていることにヘンリは感嘆かんたんした。

そして、ヘンリの目は部屋の壁に向けられる。

単調な壁だったが、一箇所だけが違った。絵が飾ってある。そこには二十一人が描かれており、それぞれの手には一人一人違ったものを握っていた。

短剣、盾、杖のような武具もあれば、金槌かなづちや包丁、ペンなどもある。

ヘンリはそれらを見て、アンシャン王国初代『王国代表会』のメンバーだろうと思った。しかし、描かれたメンバーは見る限り、年の差が激しそうだった。下は子供のように見える者がいたり、既に貫禄かんろくの集大成という者もいたりした。

ヘンリはその絵に見入っていると、あることに気づいた。二十一人が立っている左右の空間に石台とそこに旗が掲げてあるのだが、片方がもう一方より深く刺さっていた。

(絵師のミスだろうか?)

ヘンリは目をつぶって考えるポーズをとる。


「ヘンリヴァルト様は絵の鑑賞が好きなのでしょうか?」


ヘンリが目を閉じている内に女性の声がドアの方向からした。驚いて、目を直ぐに声の聞こえた方に向けると、やはり女性が立っていた。

(自分と同じくらいだろうか)

ドアのところに立っていた女性はすらっとしていて、横髪が長く後ろは肩までと特徴的な髪型をしていた。

自分が気づいたことに、ヘンリは少しの疑問を抱いた。

(あれ、この人って・・・・・・)

思い出そうとしたが、それは前の女性によって終わった。


「何か私が変ですか?」


「あ、いえ。考え事があったので」


「そうでしたか。絵のことですか?」


彼女が目を絵に向ける。それにヘンリは苦笑いで答える。


「そのこともありましたが、あなたについても考えていました」


「まあ、私についてですか? ふふ。」


彼女は小さく俯くように笑う。

その様子は綺麗だった。今日は晴れていることもあって、窓から入る光が彼女に当たり、彼女の美しさを増している。


「すみません。それでは席に座ってお話をしましょう」


彼女は部屋にしっかり入って、その後には世話役の人達も続き、ヘンリと彼女が席に着くと飲み物、お菓子を用意し、彼女の命令で部屋から出て行く。

テキパキとしていた。

彼女は、飲み物を口に一回含んで、次にはお菓子に手を伸ばす。


「んん。今日のは特においしいわ。ヘンリヴァルト様もどうぞ」


そういって、ヘンリにお皿を近づけて、食べるように進める。


「では、いただきます」


彼女の言葉に甘えて、お菓子を一つ口に運ぶ。口の中は、直ぐに甘い味に包まれた。


「おいしいですね」


そう言うと、彼女は笑顔になる。


「気に入っていただけてよかったです」


「あなたが作ったのですか?」


「ええ、これでも小さい頃から作っていまして、あなたも食べたことがあるはずですが」


ヘンリは首を少し傾ける。

(こんなにおいしかったら忘れるわけがないと思うんだが・・・・・・)

彼女に視線を戻すと、ドアの方を見ていた。

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