回想篇

 親の敷いたレールの上を、ただ歩いて行く事に苦痛を感じ始めたのは、いつからだったろう?

 私立有名大学付属の幼稚園から、スライド式に小学校、中学校と進んだ。

「将来は、立派な医者になるんだよ」

 親にいつも言い聞かされたし、ボク自身も医者になることが当たり前に思っていた事もあった。

 仲良しの友達に誘われて、合唱部に入った。歌う楽しみを覚え、歌う喜びを知った。

 歌手になるのもいいと思った。気の合う仲間とバンドを組み、本気でメジャーデビューを夢見てスタジオにこもった事もあった。


 親は、ボクが歌手になる事には反対だった。怒った父さんは、ボクの大事なギターをたたき壊して捨ててしまった。

 仲間と話し合って作った曲の五線譜も全て燃やされ、仲間たちには二度と会わないようにとボクに言いつけた。

ボクはもちろん、親の言う事なんて聞く耳も持たなかった。

 やがて、仲間たちはそれぞれ別々の高校へ通い始め、バンドはいつの間にか解散になってしまった。

 でも、ボクは歌手になる夢をあきらめる事が出来なかった。

家出を繰り返し、見つからないように小さなタンバリンを買ってカバンに入れ、いつも持ち歩いていた。

 ボクを見つけるのは、いつも母さんだった。母さんは、いつも言う事を聞かないボクをなじった。

だれもボクをかばってはくれなかった。ボクは、いつもひとりぼっちだった。


「ボクは逃げたかった。家族も仲間も、全てを捨てて、どこか遠くの、誰もボクを知らない場所へ」

「そして、マヲルーダ行きのチケットを手に入れたのですね」

 ブルーティアは、優しい瞳でボクをまっすぐに見つめていた。

「よろしい。あなたには「光るストーン」を手にする資格があるようだ」

 ブルーティアは、外の風景にちらりと目をやった。

「次のカーブでスピードが緩んだら、飛び降りた方がいい。でないと、すぐに次の駅に入って、見つかってしまいますよ」

 そして、大きく列車から身を乗り出した。

「……待っ」

「あなたは今、あなたの本当の気持ちに気がついた。次に会う時に、もう一度聞きましょう。あなたはどんな星になりたいか、その答え、楽しみにしています」

 ボクが言葉を継ぐ暇もなく、ブルーティアは、ボクの視界から姿を消した。

「ストーンを手に入れる資格……?」

 ボクがブルーティアの言葉の意味を考えようとしていたとき、列車のスピードが緩んだ。

 ボクは、ブルーティアと同じように、扉の外に身を乗り出し、手を離して列車から飛び降りた。

 柔らかい土の上をごろごろと転がり、仰向けに大の字になって、大地に寝そべった。

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