星空篇

全開の扉から、飛び去って行く風景を眺めた。ふわふわの雲海が続くかと思えば、広い野原へ。ハシラサボテンのような植物が生い茂る場所もある。

なんて、不思議な星なのだろう。ボクは、刻々と変化する風景を見つめていた。

「きれいな、星空ですね」

突然、ボクの隣で声がした。ハッと見ると、黒いシルクハットとタキシードを着て、片眼鏡をかけた紳士がいつの間にかそこに座っていた。

「いつの間に……?」

「ついさっきからですよ」

紳士は、にっこりと笑った。そのとき、ボクは、この紳士の顔をどこで見たのかを思い出した。

「『青猫紳士』!」

「……残念ながら、私はそのような名前の者ではありません。ブルーティアとお呼びください」

紳士は穏やかな声で答えた。まるで、ボクを包んでくれるように、優しくて静かな声だった。

「『青猫紳士』の名を知っているという事は、あなたは地球からいらしたようですね」

ブルーティアという名のその紳士は、扉から空を見上げた。

「ここは、遮る強い光が少ないから、小さな小さな星の光もよく見える。いったい、地球はこの星空のどこにあるのでしょうね」

ブルーティアにつられ、ボクは空を見上げた。

「うわあ、本当にきれい……」

空は、無数の星が瞬いていた。

赤い星、蒼い星、黄色い星、オレンジの星……バラ色の星雲、金色の星団……ちいさなちいさな宝石をちりばめて縫いつけたように、きらきらと輝く星空のビロード……

「アンタレス、リゲル、アルタイル、ベガ、スピカ、レグルス……大きな星には名前があるけど、名前のない星のほうがいっぱいあります。どんなに小さな星だって、精一杯の光をこうして私たちに投げかけている」

「……」

「……あなたは、どんな星になりたいですか?」

「……え?」

星空に見とれていたボクは、おどろいてブルーティアを見た。

「ボクは、この星で有名な歌手になって、その名前が地球に轟くほどに活躍して……」

「それが、あなたがここにいる本当の理由ですか?」

………ちがう。

ボクは、言葉を飲み込んだ。認めたくはなかったから。でも、認めるしかなかった。

ブルーティアの、透き通るように、全てを見通すように、まっすぐに見つめる三日月のようなあの瞳で見つめられたら……


どうして、ブルーティアは、知っているのだろう。

ボクがマヲルーダへやってきた本当の理由を。

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