彷徨篇

次の日も、その次の日も。ボクは街の中で歌をうたった。

でも、だれもボクの歌に立ち止まってくれる人はいなかった。

……ボクには、才能がなかったのだろうか……

真夜中、棲み家となった建物のくぼみにうずくまり、ボクは声を上げて泣いた。

「帰りたい…帰りたいよ…」

ボクの心はすっかりくじけていた。


「やあやあ、あなたですか」

ある日、刑事を名乗るあの太った男が、ボクを見つけて声をかけてきた。

「若いというのはいいですな。自分の夢にまっすぐだ。いやはや、結構結構。おおいに夢を見なさい。ね。」

男は白い扇子でぱたぱたと顔をあおぎながら、「わっはっは」と笑った。

「こっちはあれからゼンゼンですわ」

ボクが何も言い出さないうちに、男は話を始めた。

「例のホシの目当てが「光るストーン」というところまではわかったのですがね、そのブツがどこにあるかがまるで判らない。どうも東の方というところまではつきとめたのですがね。やー、こまったもんですわ」

光るストーン……? ボクは、あっと息をのんだ。マヲルーダに初めて来たときに会った老人の言葉を思い出しのだ。

「どんな願いでも叶える石……」

「そうそうそう、それですそれです。ご存じないですかねえ。なにか噂とかでもいいのですが……」

「どこに、どこにその光るストーンはあるの?」

ボクは男の首からぶらさがっている黒いネクタイをつかんだ。

「お、お嬢ちゃん……そんなに……引っ張らないで、苦しい……」

男があえいだので、ボクはハッと気づいて手を離した。

「ごほごほっ……やあ、力強いお嬢さんだね。だが残念なことに私も詳しい情報までは知らなくて。なにしろこのマヲルーダという星は、ふわふわしていて実体のない、まるで幻のような惑星でして。」

男はふぅっとため息をついた。また扇子でぱたぱたとやり始めた。

「……だからこそ夢や幻を追いかける旅人が多く訪れる場所なのでしょうけども……」

夢、幻……ボクの夢も、幻なのだろうか? それとも……?

「やあ、話がそれてしまいましたなあ。これまで私が集めた情報のほとんどは、東の方角を指し示しているようです。私はもうちょっと情報を集めてから東へ向かうつもりです。それでは失礼。」

男はぱたぱたと扇子で顔をあおぎながら、大きな体をゆさゆさゆすって交差点の向こうへ消えてしまった。


東へ……。

ボクの心は、光るストーンのありかへ向かっていた。どんな願いも叶える石。その石があれば、ボクはビッグスターになれるに違いない。

ボクは、カバンを握りしめ、東へ向かう貨物列車にこっそり乗り込んだ。

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