挫折篇

ふわふわした雲のような地面を、滑るようにはしる乗り合いタクシーのようなものにのり、人通りの多い所に出た。

いろんな人種の「ニンゲン」が行き交う町。ボクとおなじヒト型、魚やカエル、鳥のような顔の者、見た事もないような派手な色の肌をして、ぎょろりと目を突き出しているもの。

ボクは、交差点の一角にぽっかり出来た空間に陣取り、大きく深呼吸をした。カバンから、相棒のタンバリンを取り出して、シャラシャラシャラと鳴らす。

人の波が一瞬立ち止まった。今だ。ボクは目を閉じ、すーっと息を吸い、歌い始めた。


小さな翼に 大きな夢のせて

羽ばたいていく小鳥たちは

しとしと降る雨に 翼をやすめて

何を思うの?


ふるえる翼を 小さな翼をたたみ

凍えているの?


さあ 私のそばにおいで 小鳥たち

苦しいことも 悲しいことも きっと

私が癒してあげるから


泣いても いいよ

叫んでも いいよ

きっと


力のかぎり 泣いてもいいよ

だれでも 泣きたい時はあるから


くじけぬ翼も 時にはくじける時もあるから

おびえているの?


さあ 私の胸で翼を休めて

寂しいことも 辛いことも きっと

私が癒してあげるから


泣いても いいよ

叫んでも いいよ

きっと きっと いいよ


そして 心が軽くなったなら

また 旅立てばいい この場所から

それまで どうぞ お休み

ボクは目を開けた。大きな拍手を期待していたはずなのに、ぱらぱらと二、三人の小さな拍手しかなく、人の波はボクの目の前を通り過ぎて交差点の向こうへ消えて行く。

どうして? ボクの自信作だったのに…。

ボクは、タンバリンを握りしめ、もう一度シャラシャラと鳴らした。一瞬立ち止まった人の波に、もう一度同じ歌を歌う。


………


みんな、ボクをちらりと見るだけで通り過ぎて行ってしまう。こんなはずじゃなかった…そんなはずあるもんか。

真夜中になり、人の波が途切れるまで、ボクは何度も何度も歌を歌った。

でも、だれもボクの歌に耳を傾けてはくれなかった。

人の波が消え、ボクはタンバリンをカバンに閉まった。

「……!」

目の端で、鮮やかな青い色の猫を見た気がして、ボクは振り向いた。でも、そこには誰もいなかった。

「……気のせい、か」

宇宙船で、あんな男の隣に座り、あんな話を聞いたから、そんな気がしただけだ、とボクは自分に言い聞かせた。

そして、店と店の間の小さな路地に入り、ちょうど良い建物のくぼみをみつけてうずくまった。

暖かいふとんが恋しいと思いながら、ボクはカバンを抱え、眠りについた。

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