弓士

ぎゃあああああ!」


「いやぁあああ!」


俺達・・は夜の森を絶叫しながら走っていた。


時は少し遡り、1時間ちょっと前になる。




「...なんでいるんですか、先生」


そこには寝ているはずの先生がいた。


「なんでって、起きて部屋を出たら部屋を出てとことこ歩いていく九条君が見えたので着いてきました。」


でも、なんで起きている・・・・・...?

皆毒を盛られて眠っているはず...


「九条君はどこかに行くのですか?」


「いえ、少し散歩に。なので戻っていただいて結構ですよ」


これで、戻ってくれると有難い。

先生をこのクラスから離して俺と一緒に来て欲しいと思う気持ちもある。

ただ、それは本当に先生にとって幸せなんだろうかと思ってしまう、俺はこっちで永住すると決めたけど先生は帰りたいと思っているかもしれない。

クラスの方に残っていてかすかな希望にかけた方がいい。

それに柊さんだって1度帰ってきている訳だから、絶対に無理という訳ではない...はず。


「...また難しい顔をしましたね、先生は九条君が嘘をついていることがすぐ分かりますよ?多分、城を経とうとしているのでしょう?なら...なら!私も連れて行って下さい。」


でもそれじゃあ...


「迷惑なのは分かっています、足でまといになってしまうでしょう。でも私は九条君という1人の人間が知りたいのです、そして九条君が作る物語に差し出がましいですが私もはいれたら、と思っています」



先生は俺が相当変わり者に見えるんだろう。

よく、学校にいた頃先生に聞かれたことがあった。

「何故、九条君は仕返しをしたり思わないのですか?今、九条君が受けている行為は周りから見ていても気持ちの良いものではありません。私はこうして動けないことが凄く悔しいです、九条君はどうして耐えられるのですか?」

と聞かれたことがあった、その時は社会にでてしまえばちっぽけなこと、こんな事で人生を棒に振りたくないとかなんとか言った覚えがある。


でも、それでも気になることがある。


「...クラスはどうするんですか。」


そう、クラスだ。


「今からいう言葉は教師ではなく1人の人間として言いますが、私は彼等の事を快く思っていません。それどころか許せない、なんて思うことがあります、教師失格です。ですから大丈夫です」


何が大丈夫なのだろう...と思っても口には出さない。

でもここまで言われてしまったら断るすべかなくなってしまう。


「先生、俺はこの世界に永住しようと思っています。向こうに帰っても意味が無いから。なので帰る気はないんです。俺に着いてきたとしても帰れません。」


「...これはある意味、告白なんですよ?...」(ボソッ)


今、先生が何かを言ったように聞こえた。


「先生、今...なにか?」


「いえいえ、何にも。とりあえず先生は着いていきます!」


先生が何も言っていないというのだし、何でもないんだろう。

それに先生を断る理由もなくなってしまったし。


「分かりました。じゃあ一緒に行きますか...!」


「はいっ!」




と意気込んで順調だったのは1時間だけだった。

事は先生が蜘蛛の巣に引っかかった事から始まった。

俺は慌てて木の棒で蜘蛛の巣を壊した。


そうしたら、蜘蛛が巣を荒らされたので怒ってでてきた。


ただの蜘蛛だったらいいのだが先生の身長が160cmくらいだと思うけど、先生が引っかかる蜘蛛の巣。

つまり、めちゃくちゃでかい!



そして今追いかけっこ中だ。


「はぁ、はぁ。ここまでくれば流石に諦めるだろ」


確かに自分の巣を荒らされたら怒るのは自然。

ここには来ないであろう、蜘蛛にごめん。


ってあれ先生は?

よくよく考えたら先生がいない。


ヤバイ。


「きゃああ!」


先生の声だ!俺の方にこないで蜘蛛が先生の方に行っているのかもしれない。


声がした方に全力でダッシュする。


するとそこには、横たわっている蜘蛛といつも掛けているメガネ・・・を外している先生がいた。

いつもの先生とは別人のよう。



え、何この状況...。

とりあえず


「先生、無事ですか?!」


そして、先生はメガネを掛け直すといつも通りの笑顔で

「大丈夫ですよ。」


その笑顔はやはり先ほどとは別人みたいだった。

見間違えか何かだろう、少し離れてみたから、きっと。


俺はその時、少し怖かったのかもしれない。

だって、メガネを外していた時の先生の顔は狂気・・でそまっていた顔だったから





「先生どうやって倒したんですか?!」


「うーん、それがよくわからないんですよね。なんか気づいたら倒してた、みたいな?」


気付いたら倒せるのか、ていうか今、俺の方が先生の足でまといなんじゃないか?

多分先生なら1人でもこの森を抜けられると思ってしまう。


「まぁ、何であれ無事でよかったですよ」


「はい、それにそろそろ街が近いですよ。ほらあそこ」


先生が指を指す方を見ると壁が見えた。

大体どの街も魔物侵入を防ぐために要塞化させるらしい。


「本当ですね、なんとか今日の寝床につけそう...そういえば俺達無一文ですよね。」


「そうですね〜」


「ってことは宿に泊まれないんじゃないですか!?」


「そうですね〜」


「そうですね〜って先生!?」


先生の意識がシャットダウンしていた。


「ちょっと先生!起きてください」


「そうですね〜」


ヤバイ、さっきからそうですね〜を連呼している。

まるで、壊れたおもちゃのようだ。


はぁ、とりあえず安全な所を探そう。

安心して眠れるところでも。


「そうですね〜」


先生をどうするか、置いてくわけにも行かないし

取り敢えず


「よっこいしょっと」


先生をおんぶする、うっ。当たってはいけないものが当たっている。


素数を数えながらいこう。


2、3、5、7...


駄目だ。くそ、気になって仕方がない。

そうか!持ち方を変えればいいんだ!


「失礼します」


先生を一旦下ろして、お姫様だっこに持ち替える。

いけるっ!


よし、取り敢えず水辺だな。


しばらく歩くと湖があった。


「よし、ついてる!」


「そうですね〜」


本当はこの人起きているんじゃないかと思った

だが完璧に寝息が聞こえてるから多分寝言なのだろう。


木をとりあえず沢山集める、石、それと少し燃えやすそうな雑草を。

本当はココナッツの皮とかいいらしい

ここにはそんなものないと思うから、雑草で代用。


テレビとかで見たことがある、原始的な火のおこしかたを実践していた

木を擦り合わせるやつ。


まず石で木を削って、擦り合わせて発火させなきゃいけない。


これがなかなか難しい、少し火がついてもすぐ消えてしまう。


それから試行錯誤を繰り返し30分後


「やっと、出来た!」


なんとかついた火を他の木にも点火させることができ

ちっちゃいキャンプファイヤーみたいなのができた。


さてと、ここからが本題。


俺の職業は『弓士』。

つまり、弓がなくてはいけない。


貰えなかった、なら作ってしまおう。

まぁ簡単な物なんだけど。


まずは木を石で削り、テレビとかで見たことあるような形にする。

あとは引っ張る所、弦なのだが、これはさっき蜘蛛の巣からくすねた糸を使おうをと思う。

蜘蛛の巣はネバネバしてるのとしてないので形成されている

あのクソでかい蜘蛛の巣の粘ってない糸は凄く丈夫だった。

これをさっき作ったやつにちょっと巻いて、くっつけて完了!


弓矢は木の先端を尖るように削って完成。


なにかに使いたいな、飯でもとるか。

幸い、すぐそこに湖があるから魚がいるだろう。


『鷹の目lv1』を使う。


これを、使うと視界が凄くクリアになる。

ただ使いすぎると酔う。


湖の近くまで行き、魚を探す。

凄く沢山いる。

その中のあまり深くない所にいる奴を狙い

弓を構える。


初めて弓を使うが即席で作った弓も手になじむし弓の使い方が元々知っていたかのようにわかる。


先程作った弓矢を蜘蛛の糸で使った弦に引っ掛け、後ろに引いていく

よく狙いを定め止まったところを確認し弓を弾く。

スパン!

俺の放った弓矢は磁石に吸い寄せられるかのように狙いを定めた魚に突き刺さった。


「よしっ!」


初めてにしては上出来かな。

制服のズボンを膝まで捲し上げ、裸足になり湖にはいる。


「うっ、冷たい。」


俺が仕留めた魚が刺さる矢を持ちさっさと水から出て、

ミニキャンプファイヤーの近くに行き矢を地面に突き刺し魚を火で炙る。


5分くらい待ち中身が焼けてるかも確認せずかぶりついた。

5分も待ったから大丈夫だろう。

ちゃんと焼けていた。


すごく美味しい。

これが本当に生命を食らうという事なのだろう。

自分の手で仕留め、自分で食べる。

この世界では当たり前のことかもしれない


なんか、涙が出た。


転移してきてなんでサバイバルをやっているんだろうなぁ。


「...ご馳走様でした。」


骨以外は綺麗に食べた。


俺もそろそろ寝よう、先生はいつの間にか静かになっていた。

疲れていたのだろう、いきなり転移なんかしてよく分からないままここまできてしまった。

そりゃストレスも溜まるよな。


俺達の制服はブレザーなので、ブレザーを先生に被せて上げた。


てか、火ってこのままつけといていいのかな。

まぁいっか、寝よう。







「...条君、朝...よ...起きて...ください!」


誰かに呼ばれる。目を開けると目と鼻の先には先生がいた。


「えっ」

あぁそうだ、異世界にいるんだっけ。

俺はそのまま

「先生、おはようございます」


「お、おはようございます!」


先生が慌てて離れた。


「昨日は申し訳ありません、あまり記憶が無いのですが変なことしませんでしたか...?」


ええ、かなり...とは言えないので


「いえ、いきなり気を失ったのはビックリしましたけどね」


「本当にすみません。大人である私の方がしっかりしなくてはいけないのに」


「そんなことありませんって、お互い助け合っていきましょう。」


足を引っ張るのは俺になってしまいそうですが。


「...お互いに...そうですよね。取り敢えず街に行ってみましょう。」


「はい。」


日払いの働き口を見つけて宿を確保しなくてはならないし。


「それじゃあ、張り切っていきましょう!」


「おー!」




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