黄金
@ogon
黄金 四月号
表紙 http://17730.mitemin.net/i189979/
一、「短歌」
(苔石 俊)
匂いたつ 春の空には 白き花 海原に浮く 小舟のようなり
春は立ち 生きる者共 歩き出す 風が染めるは 花びらと頬
友達の 吐く息白く 吹く春が たつ人たちの 袖は濡れけり
濡れそぼつ 髪に触れる手 暖かく 長い別れに 一筋の雨
雲隠れ 朧げな月の 寂寥よ 夜霧が伝え 花は泣くらん
星も無き 寂しき夜を 彩るは かしましいほど 舞う白桜
あの頃の 通った道に 思い出は 散った桜と 積もりけるかな
桜降る 薄紅色の 木漏れ日に 目を細めながら 笑う横顔
桜すら 見る余裕なき 生きる日々 散るが 早いは桜か私か
山笑う 余寒の吐息に 身を縮め 落ちる涙に 春風ぞ吹く
仕方ない どこにいたって あの頃の 君の 面影 探してしまう
車窓から 流れる景色こぼれてく寂しさ宿す軋轢の影
夜の街鳥は飛ばぬが千鳥足背中の羽はとうに折れたり
そぞろ雨憂心沈む人の川流れる傘は花のようかな
踏切のそばに置かれた枯れ花に春雨降りてしとどに濡れる
雨上がり薄雲を切る月尖り夢幻の輝き心を突き刺す
水溜り黒く気高く月浮かべ風に揺れては形が変わる
河川敷河津桜の花沈み淀む言葉は告白の詩
目に残る 朝日の緑玉 ちらつかせ輝く景色に 雀は歌う
空白み 春の朝焼け 陽だまりに響く鶏鳴 今日が始まる
果物が 実るにも似た 吸殻よ落ちた後には 何も残らぬ
(明日 彼方)
天仰ぐ黒き夜空の白きかな綿のはじける冬の寂しさ
闇夜から這い出てくるは風の声寒さ吹き付け温さ持ち去る
恋焦がれ月と出歯亀情けなし人の夢見る儚きことかな
闇が張り霞がかった土の中生まれ出でるは新たな命
暖かな春の陽気に誘われて殻の中から生まれる命
孤独から光差し込む赤い音流れてくるは時の礎
遥かなる水の流れに誘われて目に浮かぶのは熱き育み
桜咲く春夜の空を彩れば仄かに匂う出会いの季節
桃色の炎が咲けば現れる黄緑身につけ歌を奏でり
新しき若葉芽生える春うらら人の心もうららなるかな
悲しみの心を赤に染めていくあの子の顔は輝きの元
稲光り夜の帳に轟かせ遥かな空を右と左に
足元の蟻の行列命の線認めるべきは人の卑しさ
ひらひらと舞い散る花が曝け出す色気のもとへ誘われる夜
梅の咲く庭の景色は酒の味あの子の髪は桜の匂い
屋根裏で一人佇む雨の夜悲しみ暮れる君への想い
ひび割れる光と闇のエクスタシー二つで一つ一つは二つ
浅ましき心を拭うは水の音流れにまかせて闇を濯ぐ
春先の芝生の上で大文字春の陽気が見に降り注ぐ
桜色出会う季節は恋の色あの子の髪は高嶺の花色
(藤光 憂美也)
悲しみに耐えるが如く蝶々のゆらゆらと飛ぶ羽は重たし
桃色の椿の花の柔らかき花弁なりけりそっと手を置く
胸奥の桜の如く咲き誇る想いを散らす風の何ぞか
儚くも尚散りにける言の葉の心にだけは留め置かまし
一枚の桜の花を掌で潰れぬように軽く握りし
雨上がり濡れる重みに春草の背は丸くなり枝を突きけり
我が胸は待雪草の如きかな静かに夢のつぼみ膨らむ
大空も青く輝く日があれば灰に染まりて憂いる日もあり
春空や如何に心は虚しけり咲かぬ桜の枯れ木で鳴きし
椿落つ物の壊れる音もせず憂鬱に泣く心の如し
我が道の夜風に色を染められし白木蓮の如く隠れし
(我が青春の日々に)
青色の春に風雨が重なりて桜ではなく夢が散りけり
(体調を崩せし祖母に)
何時なれど緑の盛る松柏の病みしを聞いて枝で鳴きけり
ニ、「春という季節」
(明日 彼方)
春、それは桜の咲く季節
春、それは出会いの季節
春、それは恋の季節
春、それは花見の季節
秋には様々な秋があるが、春にもまた様々な春がある
人の数だけ春があり、人の数だけ花が散る
人の数だけ出会いがあり、人の数だけ別れがある
桜は桃色にも白色にも見えるし、あの子の笑顔は輝いても濁ってにも見える
土を踏み歩き、桜並木を眺めれば、舞い散る花びらと暖かな風が感じられる
芝生の上に座り、酒でも飲めば、体も気分も暖かくなる
去ってしまわれたあの人を思えば、心が萎むし、桜の花もまたすぐに無くなる
虫が這い出る季節でもある
蝶が飛び、蜂が飛び、てんとう虫が飛ぶ
お天道様(おてんとさま)が降り注ぎ、鉢植えの花が咲き、人は長考するようになる
春というのは出会いの季節、そして同時にまた別れの季節でもあるのだ
夏に向けて様々なものが動き出し、梅雨を前に立ち止まるものもいる
桜の花は春にしか咲かないし、春を過ぎれば気持ちが落ち込む
ウグイスの鳴き声で喜べば、次第に雨の降る音で憂鬱になる
あの人と出会えて喜べば、違う人と出会っていて憂鬱になる
春は登り坂でもあり、下り坂でもあるのだ
(藤光憂美也)
俺は春を睨みつけた。瞳には、虚しさが大きく映った。皆は春についてどう思っているのだろうか。出会いへの期待や喜び、それとも別れへの寂しさや悲しみ、春は温かな季節でもあり肌寒い季節でもある。
月は卯月を迎えて桜の花が満開に咲いている頃、俺は何故か胸に溢れる郷愁に頭痛と動悸とを伴っている。その時間に耐え忍ぶために酒を飲みながら、俺の愛する執筆活動をしているわけだけれども、この文章が誰にも届かない儚いものになるのなら、それこそ俺の胸は恐怖と言う言の葉に包まれ窒息死することであろう。
桜の花がちらちらと舞う季節、君は何を心に抱く?桜の花弁が散っていく様を見つめて、俺はどのような感情になればいい?俺は春を象徴する桜の花弁が散る光景に、悲しさしか見いだせず、そのせいで春が憂鬱の季節のように思われる。かといって夏も秋も冬も俺には唯、おもしろくない季節に思われて、その原因は結局、不甲斐ない己の心のせいかと思われる。
ああ、鬱陶しいと思うのは、腐りきった俺の心のせいか?心に春風が吹くけれど、暑さも寒さも感じられない。唯、悲しさがある。寂しさや虚しさがある。心は絶望に染まりきっている。そして、俺は地獄の季節を歩いていくのだ。
(苔石 俊)
表紙の絵について
桜には不思議な力があると思います。春の朝の気持ちの良い青空に咲き乱れる満開の桜は私たちにほんのりと優しい元気をくれます。静かで寂しい夜も枝を揺らし語りかけてきます。雨の滴にしっとりと濡れた桜はどこか寂し気で、妙な色気すら感じさせます。落ち込み肩を落とし歩いている時には花を散らし、地面を彩ります。桜は私たちには関係なくただ咲いているだけかもしれません。しかし少し見方を変えると、共に春を喜び、夜に語り、雨を憂い、落ち込んだ時には傍でそっと佇み、花を散らし慰めてくれているのです。そう思うと私は桜を友達のように思います。この絵は友達の顔を描く様に優しく描こうと思いました。未熟ゆえ表現できなかった事がこの文章により補完してもらえれば幸いです。
三、「俳句」
(藤光 憂美也)
春雨の音の留まりし地面かな
隅に目をやれば広がる春の国
春草やあの日の空と混じりけり
青空や春の花より花らしく
物寂し訳は何ぞや春雀
春空が葉を持たぬ気に実りけり
菜の花や金平糖の転がりし
幻惑を呼びし小さな雪柳
蒲公英や風吹き東から西へ
桜の花に触れる
天道虫を見つける二人になる
小さな天道虫の親になる
春だ石ころを蹴って起こしてやる
四、「詩歌」
(苔石 俊)
一、「笑顔」
気付いたら足が無かった
足が無ければ這えばいい
這おうとしたら手さえ無かった
前に進みたい体は
高潔ではあったが
まるで芋虫のよう
喘いでいる
この見にくき身体に
大切に残された
心臓
その中には
きっと暗色の硝子玉
最も清く無垢で崇高な
あの頃の右手では
時さえも操れたというのに
これまでの人生の中で最も長い時間
騒がしい夜空を見ながら考えた
けれど考えても意味は無かった
考える頭も無かったのだ!
目も無いのに何を見ていた?
耳も無いのに何を聞いていた?
心だってそう!
足も手も頭もない体で
笑うしかなかった
その笑顔は
卑屈で怠惰で卑猥で傲慢で
それでも僕は笑うしかなかった
二、「形成」
人は生きていくと
良いものも悪いものも思い出となって残る
思い出は人の形
人は思い出の帰結
空や海や山はそこにあるだけ
あらゆるものを黄金にさせる、太陽もそう
悲しげな月だって私たちとは違う
ただずっとそこにあるだけ
聞いて触って見て
たった一つの私が出来ていく
ならば
私が死ねば思い出がそれに?
三、「一年」
一月 空は霞 町は沈み 赤く染めるは初日の出
いつもと同じ日の出の景色に マフラーと手袋輝かせ 共に健康を祈りながら 口いっぱいのあくびをしよう
二月 白い息を吐きながら 静かに更ける深い夜 珈琲なんかを飲みながら 煙草をふかし思い出と 耳まで真っ赤な失恋や 積もる話に花を咲かそう
三月 ちらほら見える別れに 孤独と哀愁を感じ 眼には光を浮かべ 口は悪態つきながら 晴れの日はふらふら散歩し 雨の日は家で本でも読もう
四月 花は綺麗 生き物は踊り 人も何やら上気立つ 花弁お猪口に浮かべながら ちらりと一杯酒を飲み 春の眠りにずくずく浸かろう
五月 青深く空泳ぐ あの鯉のように 色深く物憂げに垂れる あの藤の花のように 優雅に高らかに思慮深く 互いの人生に拍手を送ろう
六月 傘叩く雨音に 弾く薄い水飛沫 ポツポツと佗しい自然の旋律から 叱責の声聞き己を律し 堕落した毎日を 梅雨空に浮かべ たまには頬を濡らしながら 遠くの空まで聞こえるように カエルと一緒に大声で唄おう
七月 惜しみなく溢れる白光の粒に 蟻は働き汗流す 水を飲み水を流す一連の循環 動植物も一つの川 時の流れや命の始終 あらゆる物事も川のよう そんな阿呆な不毛な会話を ポツリポツリ放ちながら 輝く海に釣りをしに行こう
八月 紙飛行機は墜落し 入道雲が立ち上がる 涼しさ求め木陰に入り 皮膚をまだらに染めながら 昼寝の猫や蝉の歌 古本のしみや独特の匂いに 悲恋の影を見出そう
九月 雲に隠れる人見知りの月 人を恐れる人見知りの僕 少しの勇気と気遣いで 兎もきっと狐でさえ 友達になれることだろう 慈愛と嫉妬に汚れた手を 万年欲求不満の手を 月に向かって伸ばそう
十月 腐った色したアスファルトでさえ 紅く染めてしまう紅葉 その力強く尖った葉は 恐竜の足跡の様 四十六億年の 歴史の歪曲 ジュラ紀に舞い立つ平成の人類 銀杏の匂いがしたのなら 髪の毛でも切りに行こう
十一月 柿は熟れてる方がいい 栗は剥いてある方がいい 蜜柑に葉っぱがついてあると嬉しい 些細な事に喜びながら 小さい幸せ探しながら 美術館に絵を見に行こう
十二月 雪は音を食い 静寂は死を喚起させる 養豚場の豚や まな板の上の鯉や たわわに膨らむ鶏卵よ 大量生産された死について 雪が溶けるまで 答えが出るまで 語り明かそう
そう君と この詩を読んだ君と 遠い空のどこかにいるまだ会った事の無い君と 色んな楽しいことをしたい
四、「空腹 眠気」
空腹 眠気 グルグル
醜き生存本能
一時的な死への誘惑
空腹 眠気 グォグォ
他の生物の命を喰らい
それでなお安眠を求む
空腹 眠気 グウウゥ
獰猛な動物の唸りのような
腹鳴といびき
空腹 眠気 グワォン
服を着た現生人類の
隠しきれない野生
空腹 眠気 ガーガオ
どれほど科学が進歩しても
この馴れ馴れしい悪魔からは逃れられない
五、「或る爺さんの歌」
無限の空は花を浮かべ
不変の川は風を孕み
無窮の太陽は光を吐く
青空の上、星たちは永遠を盃に祝杯を挙げ
春空の下、或る爺さんは土手に尻を着く
太陽の粒を浮かべた川に
子供達が歓声を上げている
長い人生の中で感じた事は
人生が如何に短いかだった
死への恐怖はない
しかし
生きられるのなら生きていたい
震える手で刻まれたシワをなぞると
八十幾年生きた思い出がふと溢れ出す
立つのにも一苦労な弱い足は
家庭を支える為必死に働いた足だった
桜の花がそっと触れたその頬は
愛する人に触れられた頬だった
今では死を握りしめているその手は
疎開先、母の手を握った手だった
憐憫を浮かべる慈愛に満ちた目は
若い頃、鋭敏な批判の目だった
孫に優しく、楽しい冗談を言う口は
醜く酷い言葉を吐いた口だった
けれどその温かき微笑は
変わらず常に誰かを微笑ませた
或る爺さんは口ずさむ
春の風に乗る悲しげな歌を
ありありと見える死を前に
自分の為の鎮魂歌を
いつか一瞬にして弾けとぶ
八十幾年の思い出、記憶
その飛沫は私たちに降りかかり
体の奥に沈み込み
涙と言う低俗なものに成り代わり
あなたの八十幾年におよそ匹敵する事なく
涙を流し涙を流し
それでも私たちは泣く事しかできない
どうかその一瞬まで
もう少し一緒にいさせてください
ふわりふわりと
花の香と花粉とともに
悲しげな歌が聞こえる
ある爺さんの抑揚の効いた
春にはあまり似合わない歌が
あとがき
読んで下さってありがとうございました。楽しんで頂けたでしょうか?まだまだ実力不足でもあり、これから力を付けていく三人であります。どうか応援のほうよろしくお願いします。
これから「黄金」のほうは、毎月12日を目安に更新していこうと思っています。来月の五月号もどうか読んで下さい。私たち三人は、黄金を通して、己の文学に対する感覚を研ぎ澄ませながら、なお読者の皆様にたのしんでもらうことができましたなら幸せの限りです。
感想や意見のほうがありましたなら、
ogon.literature@gmail.com
までお願いします。
黄金 @ogon
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