第72話
親父に聞いたことがあるけど、
そんで、どっかの有名な寺では、天狗は金星からやってきたって話しが伝わっているらしい。
ん?天狗は金星人なのか?
んなわけないわな。危ねぇ危ねぇ…。
ということで、星宮って名前の神社は天狗が関わっていたりすることがあるらしい。
日本各地に同じ名前の神社があるらしい。
まぁ、ここでは伝説は残ってないけど、今現在こうやって実際に
神社の方はというと、高賀六社の一つで、高賀神社と同じく藤原の高光様が深く関係している。
この辺の地域としては、岐阜の名水に選ばれてたり、鰻は神の使いってことで食べなかったりと、自然と神話が息づく地域だとも親父は言っていた。
そんな神社を黒爺は迷うこと無く進んでいき、境内へ入っていく。
人気はない。
だけど、大きな杉の木に囲まれたこの場所は、どうにも視線を感じてしょうがない。
まぁ、当然見られているわな。
「星宮天狗殿、再び話し合いに参った。」
黒爺の言葉に木々がざわめく。
一際大きな木の枝には星宮天狗が立っていた。
「今更、何をしにきた。」
げっ…。どうやら歓迎はされてないようだ。
「再びさるとらへびを倒すべく、皆さんに協力をお願いしたいと思っています。」
水樹が嘆願するように答えた。奴らの反応は…?
「断る。」
「しかし、このままでは、どのみち各個撃破されて全滅すら考えられます!」
「………、そんな事は百も承知。我ら東地区は玉砕の道を選ぶことに決定した。反対するものは他の地区へ行くことも促したが、そんな奴は一人もない!これが我らの意思である!!」
「なら、私達と協力しても同じでしょう!」
「いや、違う。我らは我らの意思で行動させてもらう!」
天狗はお面の下で笑ったような気がした。
「巫女殿…。世話になった…。」
「待って!待って!!」
水樹の悲痛な叫びが境内に響く。
星宮天狗は再び姿を消そうとした。
「「「待ちなさい!!!」」」
まるでエコーがかかったかのような声がこだまする。
星宮天狗の動きが止まる。
ざわついていた木も静になった。
「自ら命を捨てるなんて…。」
水樹がカッと目を見開くと、赤い霊気が一気にあふれた。
「「「絶対に私が許しません!!!」」」
その時だった。
高賀山方面の木々だけがざわめく。
全員がその方向を向いた。
ボトボトと小さい妖怪が木から落とされている。
そして、新たな妖怪が姿を現す。
おいおい、新しく来たのも天狗かよ。しかも3人も。
「我らは烏天狗の三人衆。今よりこの地方を管轄する者なり。従わぬ者は撃ち倒す。」
「ふ…、ふざけないで…。」
水樹…。あいつが怒っている…。
「どいつもこいつも自分勝手なことばっかり言って…。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォ…。
小さな地響きがしている。
「いかん!」
黒爺が慌てた。
「怒りで我を忘れると鬼になるぞ!」
俺は直ぐに体が反応した。
一瞬で水樹の前に移動すると、真正面から顔を覗き込む。
「しっかりしろ水樹!」
彼女は瞬きを一度し、そして俺の目を覗きこむ。
何もかも見透かされそうな鋭く深い視線だ。
「大丈夫、韋駄天。まだ冷静だよ、私は。ちょっと頭にきちゃっただけ。」
「水樹ちゃん、私達がいることも忘れないで。」
雛さんが彼女の左手を握る。
霊気の荒々しさが落ち着いていく。
「皆、行くよ。」
直ぐに蘭丸が現れる。
「星宮天狗さん!どうか、援護をお願いします!この地を守るために!!私たちの居場所を守るために!!!」
振り返ると、星宮天狗は動きが止まっていた。
判断に迷っているのか…?
「馬鹿野郎!難しいことはいいんだよ!!」
星宮天狗は俺の言葉に視線を向けた。
「自分が信じる方に従えばいい!簡単だろう!?」
彼は少しのけぞり、大きく息を吸う。
そして号令を発した!
「巫女殿に………、続けっぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
それでいいんだよ、それで。
何もしなくて後悔するぐらいなら前に進めばいいんだ。
それで失敗したら別の方法で試せばいい。
命ある限りチャンスはあるさ。
水樹が朱雀を鞘から抜く。
彼女の周囲の空気が変わる。張り詰めた緊張感が漂う。
俺も準備する。
「黒爺!できうる限りの遠距離支援を!雛ちゃん!いつでも防御壁を展開出来るよう準備して!蘭丸は私から離れずに付いてらっしゃい。」
そして彼女は俺を見た。
「韋駄天!あなたが一番槍よ!あいつらの鼻をへし折ってやりなさい!」
「おおよ!!!」
俺は心の底から燃える高揚感を味わった。
烏天狗達を見ると、何かを準備しているように見える。
その前に先手を打つぞ。
ドンッ!
土煙を残し一瞬で天狗達に襲いかかる。
しかし、葉っぱで作られた扇子のような物で一仰ぎされると、突風によって元の位置まで押し戻されてしまう。
それを確認すると、3人の烏天狗は各々が扇子で仰ぎだした。
「いかん!」
星宮天狗が急ぎ応戦する。
さすがは名のある天狗だが、3対1となると分が悪い。
「俺の後ろに避難しろ!」
彼は仲間を自分の背後に移動させ、飛ばされないようにする。
境内は暴風によって砂や石や落ち葉が舞い、大変なことになっている。
このままでは神社そのものや、木々すら飛ばされる勢いだ。
既に瓦が暴れ危険な状態だ。
「雛さん!防御壁では防げないですか!?」
雛さんも必死に耐えている。
「この勢いだと私まで飛ばされてしまいますぅ!」
彼女の推測は正しいだろう。
聞くまでもなかった。
それを聞いていたのか、水樹は妖刀 朱雀を地面に突き刺す。
なるほど、この現象は暴風ではなくて妖力によるものだ。
それなら朱雀で斬れる。
確かに風はある程度防げていた。
しかしスカートが激しくばたついている様子からも分かるように、完全に防ぐことは出来ない。
彼女自身、しっかりと朱雀を握っていないと飛ばされてしまいそうだった。
「
ドスンッドスンッ!!
牛鬼の力を借りて足を地面にめり込ませた。
さすがは機転が利く。
「皆私の後ろに!」
腰を落としながら素早く彼女の後ろに移動する。
なるほどこの状態ならば、俺達は何とかなる。
ん?待てよ?
朱雀で風が斬れるなら…。
俺は一つの案を閃いた。
「水樹!岩蛇に刺さっていた短剣を貸してくれ!」
彼女は無言で短剣を背中側に回す。
背後で受け取り、少しだけ鞘から抜いてみる。
霊力は残っているようだ。
これなら斬れるかも。
「俺が突破口を開く!援護を頼む!」
腰を落としたまま脇を閉めて両腕をガッチリと固定する。
短剣を強く握りしめて飛び出した。
ビューーーーーーーーーーッ!!!
風を斬る音がうるさい。
ハッと天狗達の目の前の枝に移動する。
お面で表情は見えないが、明らかに狼狽していた。
風が止み耳をつんざくような静けさが訪れる。
「反撃開始だ!!!」
俺の合図と共に各々が攻撃を開始した。
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