第71話
「水樹殿は、まず、どこから行くべきだと思っておるのじゃ?」
黒爺からの問いかけに私は即答した。
「まずは中央地区の岩蛇さんのところ。」
「うむ、順当ではあるのぉ。韋駄天、早速行くぞい。」
「うーっす。でも流石に二往復になるな。雛さんちょっと待ってて。」
「はぁい。」
いつものように私と黒爺を連れていき、高賀山自然の家で待っていると、直ぐに雛ちゃんがやってきた。
まぁ、待つといても数秒なんだけどね。
「ふぇぇぇぇ…、景色が飛んでました…。」
相変わらずのマイペースな雛ちゃん…。
全員揃ってから岩蛇さんを呼んでみた。
「岩蛇さーーーーん。」
すると地面から頭だけ出してきた。
そして、中央地区に棲む、他の妖怪達も姿を表した。
あんな事があったけれど、まだまだ沢山の妖怪さん達が顔を見せてくれた。
「回復中ゆえ、このまま失礼する。」
「全然大丈夫!」
私は元気に答える。
もちろんこれには意味があるよ。
私が落ち込んでいたら、他の妖怪はどう思う?ってのが理由。
それに、あの怪我から完全復活したとアピールするのもあるかな。
「岩蛇さんは怪我が酷いの?」
「うむ…。胴を食い破られた。全快するにはちと時間がかかる。」
「雛ちゃん、治療出来る?」
「うーん、正直妖怪さんを治療したことはないのです。」
「じゃぁ、初挑戦だね。」
「えーと…、その…。はい!やってみます!」
「岩蛇さん、この雛ちゃんも巫女の血を引く仲間なの。それでね、治癒の能力があるからやってみてもいいかな?」
「うむ…。」
ぐぉぉぉぉ…っと体が地面から姿を現す。
丁度、体の半分ぐらいのところが大きくえぐれ、体液が滴り落ちていた。
治るのにちょっと時間がかかるどころの話じゃないよ!
「大変!雛ちゃん!お願い!!」
つい慌ててお願いしちゃった。
だけど彼女は冷静に、というかマイペースな感じで準備を始め、怪我の部分に向けて手を合わせ祈りを捧げる。
すると、怪我の部分が光り出し、少しずつ修復していくのが分かる。
「す…、凄い…。」
少しずつ怪我の部分は小さくなっていく。
治癒の力に見惚れていたけど、彼女を見ると既に大量の汗をかいている。
私は無意識に彼女の背中に右手の手の平を当てて、彼女に霊力を注ぎ込む。
「さすがよのぉ。」
源爺が何か言ったけど気にしない。
私の霊力は雛ちゃんを通じて治癒の力に変換されているのが理解出来る。
霊力を吸われている状況だけど、私は大丈夫、まだまだ大丈夫。
そして傷を覆っていた光が点にになり完全に傷が塞がると、岩蛇さんは満足そうに頷いた。
「さすがは巫女の血、巫女の力よ。」
「ふー。雛ちゃんは大丈夫?」
「はい、途中で水樹ちゃんが手伝ってくれたので、それから私はほとんど力を使っていませんので。」
「思いつきだったけど、上手くいってよかった。」
ニシシーっと笑う。
「笑い事ではないぞ。巫女が、他の巫女へ霊力を供給する。これはかなりの高等技術じゃ。お互いの信頼関係も無いと成功せん。」
「ふーん。まぁ上手くいったし、いいじゃない。それより岩蛇さん、中央地区の反応はどうなの?」
「うむ、今だ打倒さるとらへびの意見は多い。このままだと
「私がもっと強ければ…。」
私は悔しさが蘇る。
阿鼻叫喚となった、このグラウンドの惨劇が脳裏に蘇る。
色んな妖怪が交錯し混乱するなか、さるとらへびはしたたかに、そして確実に私を殺そうとしてきた。
真実の鏡の存在に気付き的確に破壊する。
あの状況の中狙ってくるなんて尋常では無いよね。
圧倒的な力の差を見せつけられた。
私を未熟だとあざ笑うかのように…。
「!?」
怒りで体の芯が熱い。煮えたぎる熱い想いが噴き出る。
「「「さるとらへびなんかに負けないんだから!!!」」」
何かが弾けた。
ドンッと私を中心に光の輪が一瞬で広がる。
その様子を見ていた妖怪達が、私の前で横一列に整列し始めた。
「巫女殿、どうか静まりたまえ…。」
岩蛇さんの言葉にハッと我に返る。
いつの間にか力を開放していたみたい。
赤い霊気が体を覆っている。
「あなたは先の闘いより更に力を強めた。もはや巫女殿は我らの希望。高賀山中央地区に棲まう妖怪一同は、あなた様に着いてまいります。」
かしこまった言葉に冷静になり、力を収める。
「こちらこそ、改めてお願いします。私はこれから各地区の代表者と交渉して説得したいと思っています。」
「どうか…、どうか我らを導いてくだされ…。」
そう嘆願される。
急にかしこまってどうしたんだろう?
「誓いの印に、ワシの鱗を持っていってくだされ。これを見せれば我らの意思も伝わるはず。」
白っぽい半透明の鱗を受け取る。
とても綺麗…。
とりあえず中央地区は大丈夫みたいだね。
礼をしたまま妖怪達が姿を消す。
「なんだろう?何で急にかしこまったんだろう?」
黒爺に聞いてみた。
「まぁ、あれだけの力を見せつければかしこまるわい。岩蛇殿は元々そなたに協力すると決めていたが、他の中級以下の妖怪をまとめるには手っ取り早い方法じゃったわい。」
「そんなに怖かった?」
「怖いなんてもんじゃないぞ。さっきの水樹、山鬼よりこえーよ。」
「ふむ。怒りはもっとも力に変えやすいが、一歩間違えれば鬼にも修羅にもなる。気を付けなされ。」
「はーい。」
流石に鬼になるのは嫌だよね。
「今でも十分鬼…。」
バコッ!
靴を投げてぶつけてやった。
まったく、韋駄天はそういうデリカシーの無さがダメダメだよね。
靴を拾って履き直す。
トントン
「さぁ、今度は東地区の
「うむ、彼等とは一度実力を直に見てもらっておる。話しやすいかも知れぬの。」
「ううん。逆に大変だと思うよ。」
「ほぉ、何か秘策があるのかな?」
「いや?全然。」
またニシシと笑う。
「だって、そんなの考えてるより、話し合うことの方が大切だよ。」
黒爺はキョトンとして、そしてケラケラ笑った。
「水樹殿には敵わぬのぉ。」
そして4人は東地区を統括する星宮天狗のいる星宮神社へと向かった。
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