第31話

 どれくらいたったんだろうか?

 今動いてるのは、ボクと『勇者』だけ。

 3姉妹はもちろん、ミドたちも、ボクたちの戦いを、ただ眺めていた。いや、怖がってるんだろう。ミドのことはよくわかる。あれは、怖がってるんだ。

 

「……」


「う……」


 胸に突き刺さった剣が抜かれると、心臓が串刺しにされていた。自分の心臓を生で見るなんて、きっとボクくらいのもんだね。あ、意外とゾンビじゃポピュラーだったりして?


「……」


「いたっ―」


 痛みもないのについ言っちゃう。だって、心臓が顔に当たったらびっくりするだろ? そのまま一緒に縦に切り離されたら、なおさらだ。

 今度は切断面を上にして、地面に落ちる。

 地面を見ながら、ボクは考える。何をしてるんだろうか? 挑んで、倒れて、蘇る。そしてまた挑む。あ、蠅が止まった。

 いつからか、『勇者』は追撃してこなくなった。ボクが治るのを待って、襲い掛かれば切り捨て、治るまで待つ。

 変だよねえ、ミドたちの気持ちもわかるよ。


「……ふう」


 腕を動かし、切断面をくっつける。あ、蠅が潰れた。ごめん。

 立ち上がり、『勇者』を見る。無表情で、ボクを見据え剣を構えていた。


「あの」


「……なんだ」


「どうしてここに? 他の仲間の人は?」


 今頃聞くなよなあ。あーもう、ずっとやってておかしくなってきたのかなボクも?

 『勇者』は初めて顔を、少し、ほんの少し寂しそうに歪ませた。


「……里帰りなんだ」


「あ……」


 ああ、そうか。なんだろう、なんだかその……。


「家族を?」


「……だいぶ前に死んでる」


「そうですかあ……」


「……はえおとこ」


「はい?」


「……家族か?」


「パパですよ。ママはお化け板」


「……板」


「そう、板です」


 ボクらは見つめ合う。

 そして、どちらからともなく、笑いだした。


「ふふふふ」


「はははは」


 『勇者』の笑い声は、なんだか可愛い。


「ふふふ」


「ははは」


 次で、終わり。

 きっと『勇者』も、同じ考えだろう。


「な、何笑ってんだよ!」


 ヤンの焦れたような叫びが、それの開始合図だった。

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