第30話

「……」


 あ、剣を杖代わりに―止まれない。ボクは、壁にめり込んだ。

 肉の裂ける音と、骨折の音。

 なんてこった、自爆だよ。


「……」


 だけど、ここからがゾンビの見せどころだよ。


「ん……んしょい」


 ふう、抜けた。おお、ボクでも石造りの壁に等身大の穴を開けられる。回復も、あっという間だ。


「……」


「あ」


 首が落ちた。忘れてたよ『勇者』。


「しかーし!」


「!」


 どうだ! とっさに生首をキャッチしてくっつけると、直りが早いんだよ。切り口のきれいすぎる剣があだに―


「っ!」


「あららら?」


 またサイコロ切りにされちゃった。しかし、これではっきりした。魔法が使えないねこの人。ゾンビ相手の経験がないわけないもん。


「だらあ!」


 3姉妹が背後を取って、またあっけなく切り捨てられ、超回復。パターン化してきたな。『勇者』の仲間がいないのはどうしてだろうか? もちろんありがたいけど。


「!」


 ! 『勇者』の体が浮いた! 炎と銃弾。ってことは―


「やって……くれたわねこの!」

「お兄ちゃんに何し腐るんじゃ! ぶっ殺す!」


 ミドとトモナミが回復した。

 ここでボクの出番だ。2人を下がらせて、森から援護射撃させる。エスパは3姉妹の回復支援。うん、この作戦だ。体も元に戻った。


「当たってよ!」


「!」


「あらまた」


「オメーは引っ込んでろっての!」


 『だいとつげき』をまた躱され、ヤンの罵声がボクを襲う。

 何をしてるんだボクは? なんで一人で飛び掛かる? 指示を出して、下がって援護を―


「っ! だああああ!」


「!」

 

 カウンターで脇腹に蹴りを食らった。吹き飛びながら、腐った腸と膀胱が皮を破って飛び出し、ミレに降り注ぐ。

 ミレは金切り声を上げて、地面に転がりボクの内臓を振り払った。


「ぐえええええ⁉ 何よこれ⁉」


 あ、伸ばしてた語尾がない。あれはキャラ付けなんだね。少し親近感が湧いたよ。


「まだまだですよ!」


 足は無事だから、すぐに起き上がってボクは『勇者』に飛び掛かる(ゾンビだからそんなに早くはないけど)。

 引っ掻こうとした義手が斬り飛ばされる、もう片方は振り上げる前にやられた。なら噛みついてやる。ゾンビの基本だ。


「……」


 顎から上が切り離される。構うもんか、すぐにくっつけ―あ、腕がないんだった。次に足を斬られ、倒れ込む。


「むうう……」


「……」


 ああ、そうか。

 決着をつけたいんだ。

 パパとママと村のみんなの。

 悪いのは、きっとボクたちさ。

 でも、納得はできてないんだ……

 ああ、もう。やめやめ、こんなのやめだ。作戦? 戦略? 知るか。

 一撃、一太刀、石でもいい、『勇者』に、ボクをぶつけたい。このずっとあった、もやもやをそれが晴らしてくれそうなんだ。

 誰のでもない、ボクの一撃を、あの人に。腐った体よ、もう少し付き合ってもらうよ。




 

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