第28話

「お兄ちゃん見えた!」


「煙……」


「遅かったか! 予想はしてたけど……」


 ミドの背から見えた標的の村に、煙があがる。地響きがして、また新たな煙があがる。


「とりあえず―」


「! 捕まって!」


 急旋回したミドの背から落ちたボクを、エスパが拾い上げた。

 すぐそばを、強烈な風が吹き抜ける。はるか後方の山が、すっぱりと両断されて頂上が滑り落ちた。


「風魔法⁉」


「お兄ちゃん!」


「ミド! 炎を吐け! 街に向かってたくさんだ!」


 さすがボクの妹。慌てず『かえんだん』を発射した。いくつかが、空中で爆発し、残りが街に降り注ぐ。

 やっぱり予感が当たったよ!


「地上に降りるんだ! 風魔法が飛んでくるぞ!」


「地上でも変わらないんじゃないですか⁉」


「下は森! この距離じゃ途中の障害物で威力が殺せる。空じゃ的だぞ!」


 そうこういう間に、またかすめて飛んできた風魔法が後ろの山を切断した。旋回したミドが、ボクとエスパを掴んで地面に降りていく。


「止まるなミド! 止まらなかったら当たらない!」


「うん! おに―」


 衝撃。大きくミドがぐらつき、バランスを失ってきりきり舞いの状態になった。


「ミド―」


 ボクとエスパが手から放り出される。上下左右もわからない、風圧で身動きが取れない。このまま地面に―。

 痛みはない、大きな衝撃だけ。ゾンビになったのを、この時ばかりは感謝した。感触からいうと……岩肌に背中からぶつかったのか……。

 そのまま、ずるずるとボクの体は滑り落ちる、地面に―


「おにいぢゃんんん!」


 包んだのは、ミドの体。そのまま転がる衝撃が、ボクにも伝わってくる。

 ようやく止まって、ボクは首を動かしてミドを見る。


「ミド!」


「大丈夫⁉ お兄ちゃん!」


「バカ!」


 右の羽が大きく切り裂かれて、血が滴ってる。『風魔法』にやられたんだ。ボクは打撃や斬撃じゃ死なない。なのに……。


「ミド!」


「ミドちゃ……ちゅ~」


「ああもうこんなところで気絶しないでよ!」


「無事ですか⁉」


 怒鳴りたいのを、みんなの姿が鎮めてくれた。人間だったころを思い出させてくれて、絶対に助けないとって思える。

 深呼吸を3つ、冷静に冷静に。


「エスパはミドの治療、終わったらオネスを起こしてボクの後に。トモナミとジャイアはボクと一緒に偵察に」


「わ、わかったわ!」


「ミドにこんなことしやがって! ぶっ殺してやる!」


 ボクはトモナミに負ぶってもらう。着くまでに、ボクの体は治ってるだろう。


「いいか! 逃げるの前提だぞ! ボクの指示に従うんだ!」


「お兄ちゃー」


「ミドは怪我をちゃんと治す。ボクは大丈夫だから、助かったよ」


「う、うん!」


 ふと、人間からモンスターになるなら、逆も出来るんじゃないかと思った。希望を、捨てちゃいけない。




「どうするの⁉」


「確認するよ」

 

 木々の間を奔りながらボクはトモナミに答える。

 あの『風魔法』はどっちか? 

 3姉妹ならどうしようもない、間違えたって言い逃れはできるし、戦っても勝てない。逃げるしかない。

 ではそれ以外、『魔法使い』や『勇者』のものなら、話は違ってくる。死んでたら、責任は指揮官のボクにある。逆に生きてても、それを助けにいかず報告されたらボクたちは終わりだ。

 助けても、3姉妹が嘘をついてボクを貶める可能性も高いけど、元帥の母娘関係を見るに、彼女が同調する可能性は低い。ただ、あの高度な魔法を使える相手から彼女たちを助けられるか……。

 やれやれ、だね。


「! ついたよ!」


「うほっ!」


 トモナミの背から降りて、体を動かす。よし、回復してる。

 森の中から、トモナミの『ハンターアイ』で様子を探ってもらう。建物が崩れ、火の手が上がる。悲鳴が聞こえないところを見ると、決着はついたのかな?


「死体ばっかり……! 待って! 何か来るわ!」 


 現れたのは、人間の男……。

 いや、『勇者』だ。


「……は、はは……」


 靴で、それが誰かわかるかな? ボクは、わかった。


「……」


 無表情な、無感動なあの顔。

 そして、ブーツ。

 パパの顔を砕いた、足。忘れるわけもない。あの時の『勇者』なんだ。

 

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