第26話

 あの後、ボクたちは再び一室に集められた。とはいっても、元帥に直接会えたわけじゃない。例の水晶玉を通して声を聴いただけだ。


「貴方達の価値を認めましょう」


 ひどく暖かで、綺麗な声だった。それが怖い。冷たい声より、優しい声が出せる人に気をつけろ。何かの本に書いてあったけど、それを思い出したよ。

 

「追って、連絡します」


 それで終わりだった。ますます分からないよ。触れてもいないけど、いったいどういう母娘関係なのか? 姉妹たちは粛々と聞き入るだけだ。ヤンのすさまじい殺気はどんどん強くなっていくけど。


「てめえは殺す」


 部屋を出る時のその言葉で、少し漏らしちゃった。ゾンビで匂いが目立たないから良かったよ。止むを得ないとはいえ、先が思いやられるなあ。


 案内された客間で、ボクらは一息つくことができた。教会を何倍もお金をかけて内装するとこうなるんじゃいかなあと思える、豪華な部屋だ。早速ジャイアはベッドで跳ねまわる。ますますアホが進行している気がする。

 ボクも少し休ませてもらおう。疲労を感じないのと精神は別だからね、一番小さいベッドに横になる。


「お兄ちゃん添い寝してあげる!」


「子守歌歌ってあげるわ!」


「子づくり計画について話しましょう!」


 ああ、憐れベッドは4匹分の重量に耐え切れず圧潰した。その責任をめぐって取っ組み合う3匹を放置し、ボクは床に寝る。いいもん、こんなことで泣かないもん。


「なあ」


「ん?」


「『配合』ってどうなるのかな?」


「あ、そうだよ! ナイスバディにしてくれる約束だったのに」


「そんな約束してた?」


 しかし、重要だ。ボクとしたことが愛しのフジコさんを一瞬とはいえ、忘れてしまうとは情けない。オネス、ありがとう。


「そういえば、どこにいるのかしら?」


「探してくるぜ! トモナミ!」


「やめなさい」


 絶対キミは騒ぎを起こす。こちらから出向くかな、いやでも素直にたどり着けるとは思えないし、何より3姉妹と出くわしたら……。ヤンもだけど残り2人もやなんだよなあ。誰か来るまで、大人しく待つとしよう。


「品がないですわね」


「元人間って嫌ですね~お食事がおいしくありません~」


「……」


「お兄ちゃん! あ~ん!」


「どきな! あたしがやる!」


「はしたないですね。ほら、あなたおいでなさい」


「トモナミ! オレ肉がいい! 肉ー」


「勝手に食ってろクソゴリラ!」


「お、おいしいなあ~」


 結局、夜になって初めて師団長が部屋に足を踏み入れた。そのまま夕食ってことになったんだけど、何故か3姉妹と同席。まさに地獄絵図だね。

 嫌味を垂れる姉2人に、ボクを睨んで離さないヤン。好き放題のミドたちと、痛みを感じないはずなのに胃が変になりそうだ。

 師団長はにやにやしながら見守るだけで、フジコさんについて聞いてもはぐらかされる。どうにも嫌な感じだ。


「さてさて」


 師団長が念じると、水晶玉が浮かび上がる。これは3姉妹の武器と同じ原理なのか、それとも呪文の一種か気になる。


「お達しがありましたのでお伝えします」


「お母様はいらっしゃいませんの?」


「何分ご多忙でして」


 パマが一瞬見せた寂しげな顔を見逃さない。模擬戦といい、あまり扱いは良くないのかな? 事情を知りたいところだね。

 水晶玉から、あの優しい声が聞こえてくる。


「貴方達に命じます。全員で指定した街を殲滅しなさい」


 また随分急だね。全員ってボクらと3姉妹? 戦力的には申し分ないんだろうけど……。3姉妹だけで大抵の敵には負けないだろうし、今回は花を持たせる方向でいこうかな。


「かしこまりましたわ、お母様」


「お任せを~」


「……うっす」


 3姉妹側からの元帥に対する忠誠心はかなりのものに見える。ますます関係が分かりづらいな。

 さて、出発前に出来れば全員の『配合』とレベルアップをしておきたいんだけど、いつ切り出すか。話を遮ると3姉妹と余計に関係を悪化させちゃうし。かといって、やれないのはもっと困る。


「それと、指揮権は……」


「お任せください。私が必ずやお母様の―」


「貴方じゃありません」


 空気が凍り付いた。

 同時に今まで絶対当たってきた嫌な予感がボクの全身を駆け巡る。


「屍族の、少年に委ねます」


 ……おおう。

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