第25話

 殺風景な、四方を壁に囲まれた砂地の競技場にボクらはいた。ガラスの天井は、太陽を通さない毒の大気のせいでひどく汚れている。大きさは、故郷の村より一回り小さいくらい。

 3姉妹は対辺で佇み、師団長は輝く水晶を宙に浮かせ、にやにやしながら座っている。ヤンの刺すような視線が、ボクに突き刺さる。実際殺気を感じます。フジコさんが見えないが、いて欲しかったなあ。


「わかったかい?」


「お、おう。た、頼んだよ。お、俺は死にたくないよお……」


 与えられた作戦会議の時間で、ボクは必死に考え出した作戦を皆に伝えていた。オネスは気の毒だほどだった。震えが止まらず、歯は鳴りっぱなし、今にも泣きそうに目が潤んでる。ジャイアの腰巾着くらいにしか思ってなかったけど、今なら仲良く遊べるかもしれない。ごめん。


「ぐちゃぐちゃにしてやる! お兄ちゃん早くやろうよ!」


「殺さないで『配合』に使えない? きっと可愛くなるわ! 形だけはいい!」


「突っ込めばいいんだろ? トモナミ! 見ててくれよ俺の活躍! ゾンビ野郎とは違うぜウホッホ!」


「あなたは露出が多いほうが好きですか?」


 殴ってやりたい。誰一匹にも勝てないけど。


「そろそろいいかねえ?」


「とにかく、ボクの指示に従ってね」


 引き延ばしも限界だ。見てみなさい、ヤンのあの様子を。ボク以外の命はどうか……っていうべきなんだろうけど、そんなことはしないさ。

 聞きやしないだろうし―


「じゃあ、はじめるよお」


 みんなで生きなきゃ、意味がない。

 師団長の拍手と同時にヤンが突っ込む。トモナミよりスピードは上だ。

 ……よし! 姉2人は動かない! 


「うほっほお!」


 あ、バカ! お前が突っ込んでどうするの! 


「―!」


「おほお⁉」


 ジャイアを無視して向かってくる! 狙いはボクだ! ああ、なんて性悪そうな顔だろう。握りしめた拳からは音が聞こえてきそうだ。


「エスパ!」


 エスパが口から濃い霧を吐き出す。『ディープフォッグ』、要は目くらまし。砂埃でも行けるかと思ったけど、そこまで乾燥しきってない。念には念をいれないと。ヤンを霧塊が包み込む。


「よし! 突っ込め!」


「バカがっ!」


 羽ばたきが一瞬で霧が掻き消し、ヤンが拳を振り上げ躍り出る。目の前には―


「あ⁉」


 勿論、誰もいない! さっきのはブラフさ。まだ残る霧に散会して隠れたんだよ。キミの左右だ。


「トモナミ!」


「!」


 トモナミが霧の中から飛び掛かる。ヤンは迎撃の構えだ。そりゃそうだよ、十分カウンターに間に合う。


「おバカはそっちよ!」


「⁉」


 でもそれもフェイクだよ。本命のミドが、逆側の霧から体当たりのまま羽交い絞めにして押し倒す。体格差もあって、単純な力じゃミドが上だ。


「き、汚ねえぞ!」


「自分でもそう思うよ」


「オラッ!」


「!」


「こ、このお!」


 そして、終わりじゃない。トモナミの『でんじパンチ』とオネスの『ねむりかみつき』の連続攻撃。一発なら耐えれるだろうけど……10ならどうかな? 攻撃力ならそれほど劣ってない。


「オラオラオラ!」


「ううう! ううう~!」


「……もう大丈夫」


「ほっほー!」


 素早くトモナミとオネスはヤンから離れる。オネスは腰が抜けたのか、座り込み泣きながら縮こまる。ごめん、でも、良くやってくれた。

 よし、電気と睡眠毒でヤンは完全に気絶してる。


「情けないですわね」


「困ったもんです~」


「元帥さん! もうわかったでしょ⁉ 終わりにしてください!」


「「!」」


 声を張り上げるボクを見て、2人が目を丸くする。同時に視線が水晶玉にくぎ付けされた。あそこだ。


「6人がかりでようやくヤンひと―一匹です。とてつもない強さですよ娘さんたちは! ボクらじゃどうにもできません!」


 これが本当の狙いさ。姉たちの様子じゃ人質作戦は意味がない。ヤンが目覚めるまでに決着を付けなきゃならないのに、どうしても時間がかかっちゃう。殺すのは簡単だ、ミドかトモナミに頼めばすぐに済む。けどそうなった場合、元帥の娘を殺してボクらがどうなるかわからない。

 なら、中止させるしかない。もしダメなら、腹を括らなきゃいけない……。 

 

「その口をお閉じなさい」


「ちょっと調子に乗っちゃいましたね~」


 ! 空中から鞭とハンマー! 武器を呼び出せるのか……いよいよ不味いな。


「お母様に薄汚い言葉を発した罪、この場で―」


「お待ちを」


 ボクらの間に、師団長が立った。ボクを見て、にやりと笑う。


「至急、お部屋にいらしゃるようにと」


 

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