第24話
数日後、ボクたちは城の一室で待たされていた。
「臭いますわね」
「ええ~」
「けっ」
「踏み潰すぞクソ猿が」
「ケツを鉄で溶接してやるぜ」
「いい加減にしなさい」
10分も経ってないのにこれだよ。勘弁してくれないかなあ本当に。
「お、俺格好良くなりたい」
「うんうん、男の子はそうでなくちゃ」
おかげでフジコさんとおしゃべりできないじゃないか。しかし、フジコさんは男らしいのがいいのかな? ならボクもそっち系に配合してもらいたいな……。
「集まっとるなあ」
そうこうしてると、師団長が現れた。お馴染みのにやにや笑いがなんだか腹立たしい。
「わたくしたちをこんな愚物と同じ部屋に閉じ込めるとは、随分ですわね」
「羽むしるぞゴラあ!」
「ほっほ、ご勘弁を。元帥のお達しです」
「お母さまかよ……」
「しかたないですね~お姉様~」
「……」
お母さま……元帥がトップかな? だとすると3姉妹はその娘さん……。どういう教育してるんでしょうね全く。それと姓がすごく気になる。それだけでも教えてもらえないかな?v
「さてさて、これからお嬢様たちにはこの者たちと模擬訓練をしていただきたいとのお達しです。簡単な戦闘ですね」
「あらら~公開処刑ですね~」
「いいじゃねえか。っへ」
「あたしは金色殺す」
「じゃワタシは銀色。なぶり殺しにしてやるからね」
「自分でお掃除というのもいいかもしれませんね」
あれれ? また妙なことになっちゃったなあ。
意図はなんだろう? ボクら検査終わりでこれってことは用済み? 娘たちに経験を積ませる……ありうるか。自分たちを貴重なサンプルと思い込んでたけど、解析できればいらなくなるって考えなかったな。
まずいぞ、素の力量と経験で劣ってる。できれば時間を置いて、『配合』と戦略を―
「それでは、ご案内します。あんたは見学よお」
「え? ……う、う~ん」
くそ、今すぐに加えてフジコさん抜きか。強化術はエスパ頼み、回復を任せるのも考えれば使わせられない。ミドとトモナミ二人がかりで一人、ジャイアは……無理だな、オネスとボクに至っては相手にもならないだろう。
師団長の後に続いて、3姉妹が、ミドとトモナミ、ボクたちが歩き出す。何かしかけないと……。真っ向勝負じゃ相手にならない。
逃げる……ダメだ地理に明るくないうえ、ミド以上のスピードのモンスターがいないなんて保証はない。
「お風呂の準備をしときませんと」
「お姉様~、出来損ないがきてからいつでもお風呂にはいれるようにしてありますよ~」
……これでいくか。
「あのお、ヤン様?」
「口開くなバーカ」
「ああ⁉ なんだその口の利き方はあ⁉ それとお兄ちゃんどうして様づけなの!?」
「ぶっ殺すぞこら!」
「キミたちは黙ってなさい!」
いかん、冷静に冷静に。運命の分かれ道だぞ。
「ハンデをもらえませんか?」
「おいおい! 逆だろ! オレがいるんだからこいつらに―」
「……黙らせろミド」
「はい! お兄ちゃん!」
ミドがジャイアの口を塞いで抱え上げる。けど、ナイスタイミング。明らかに3姉妹、特にヤンの機嫌が悪くなってる。やっぱり一番こいつが短気だ。
「ねえ、いいでしょう?」
「なんでそんなものをあげなければいけないのでしょうか?」
「あなたたちは無理ですけど、ヤン様ならボクらで何とかできます」
言い終わると同時に飛んできた拳を、トモナミがボクの顔面前で受け止めた。我ながらよくやるよなあ。少し遅れたら終わってたよもう。
「はしたないですわよ? ヤン」
「お下品です~」
「姉様……最初はオレに任せてよ……皆殺しにしてやるからさ」
「お好きになさい」
「やられちゃったら、敵はとってあげますよ~」
「ふん!」
ヤンは拳を引いて姉たちの後ろに続く。的を絞って正解だった、これで3人同時にかかってくる可能性はかなり抑えられる。あったときから、明らかに一人だけ同調してないもんね。
高いプライドと、信じて疑わない優位性、姉妹間の軋轢を見事に読み切ったボクの作戦勝ち……。なのは、実際に思い通りに運んでから。気まぐれを起こされたりしたらあっという間に瓦解してしまうし、戦闘自体どう転ぶかわからない。こんなの知略でもなんでもないよもう。
「師団長、作戦タイムはくださいよ? こんなのあんまりじゃないですか」
「ん~? まあ少しならいいわな」
これで少しは時間が稼げるかな。下手すればここで全滅、勇者に仕返しもフジコさんとお付き合いもしてないのにそんなのはごめんだ。
気合を入れろ、ボクができることをするんだ。
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