第22話
連れていかれた先は、大きなお城だった。周りを酸の沼で囲まれ、大気は有毒。要するに、敵にも味方からも隠れて何かをするには最適な場所だ。
何をしてるかはわからない。まだボクたちに明かす気はないようで、着いて早々研究室に連れ込まれて、念入りに調べられた。ミドを宥めるのに大変だったよ。
人間からモンスターに変える実験の最初の被験者がボクたちで、尚且つ、その実験の責任者があの勇者の一件で死んじゃってて、立て直しに大変だそうだ。
というわけで、来て一週間は検査漬け。今は一通りおちついて部屋をあてがわれて過ごしてる。
意外なのは、今もボクとジャイアとフジコさんが缶詰だと言うこと。人間からモンスターに変わり、尚且つ人間の技術である『転生』と『配合』を施されたんだから、当然と言えば当然だね。フジコさんは言わずもがな。
で、少しばかりの休憩時間、2人きりになったボクとフジコさんは今後について話し合っていた。
「『ドラゴン』系同士の『配合』がやっぱりいいんじゃないですかね?」
「けどそれだと多様性が出せないよ? 弱点補強で万能性を……」
ジャコウ師団長にもらった図鑑一式を、フジコさんの知識で補完して『配合』の参考にする。しかし、これについてあんまり違和感を抱かないボクの頭脳が心配になってくる。一応人体改造っぽいんだけどなあ。
「あら? なんだか臭いと思ったら?」
「人間と出来損ないです~お姉さま~」
「臭いが沁みついちまうぜ」
「尖らせると汎用性に難か……」
「キミはチーム戦を想定しすぎてるよ。ミドちゃんトモナミちゃん不在の場合も考えないと」
「お香を焚いても取れそうにありませんわ」
「ゾンビなんて~元の浅ましさが伺えまね~」
「きっしょく悪い!」
「やっぱりボクも―あ」
開いていた図鑑が取り上げられた。
目の前に、不機嫌そうな顔をした『シルバーデビル』の少女が立ってボクを睨んでいた。人型のスレンダーでしなやかな体つきで、ちょうど水着みたいに体の一部分を銀色の体毛が覆って、蝙蝠のような羽と鱗のついた尻尾を持っている。睨んでいることとは別に顔はきつめで、つんつんした銀髪が余計にそれを際立たせていた。ちなみの残り二人はそれぞれ『ゴールドデビル』と『プラチナデビル』、色違いってやつだね。
けど印象はだいぶ違う、『ゴールド』は虫の羽に、先端に鉱物のついた尻尾、垂れ目に丸く太めの眉と巻き気味の金髪おかっぱ、ふっくらした体つきがどこかおっとりした印象を醸し出す。『プラチナ』は鳥の羽に二又の尻尾、グラマラスな体で、輝く髪は飾りで左右に2本束ねられている。というか、プラチナとシルバーって見分けづらいね。
「返してよ」
「てめえ聞こえねえのか? あ?」
「聞こえてたけど無視してたんだよ」
「……あ?」
「キミたちと話したくないからね」
ボクはできるだけ素早く手を伸ばす。よし、取り返せたぞ。
「そういうわけで、行きましょうフジコさ―」
急に迫ってくる地面に咄嗟に反応できず、ボクはしたたかに顔を打ち付けた。痛くないというか感覚は何もないけど、やっぱりびっくりする。
手を付いて、上半身を起こし首を曲げる。足首のあたりで切断された両足が、地面に生えていた。傷口から滑って、落ちたんだね。
「失礼ですね~元人間は~」
「だから消えるよ。それで―」
指がもげて転がる。良かった、フジコさんがくれた方のじゃなくて。
「口ごたえはおやめなさい」
『プラチナ』がボクを見下ろす。眼も、白金の色で輝いている。とても怖い。
どうにもボクの周りには、変な女の子ばっかりだ。
やはり運命は、フジコさんを導いているんだなあ。そんなことを考えてると、くりぬかれた眼がこぼれていって、慌てて義手で拾いあげた。
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