第15話

 それからすぐに、僕たちは森を抜けられた。見渡す限りの平原、そして遠くにそびえる山。絵みたいな、いや絵でもみたことのない風景だ。


「開放的だ~」


「ゾンビなのにさわやかだね」


「気分だけでもと思いまして」


「これからどうするの?」


「そうだぞ。合流ってどうするんだ」


「まずは話の通じるモンスターと会わなきゃね。地道に……」


「お兄ちゃん」


 ロエの指さす先に、こちらに近づいてくる茶色い物体が見えた。トモナミのモノアイが小さく絞れる。


「牛だわ……真っ赤で、角が燃えてる」


「あばれやけうし、だね」


 おお、さすが専門家。


「こ、こっちに来るのはどうして?」


「好戦的だからねえ。とりあえず走ってるところにボクたちを見つけたんだろうね」


「どうするのお兄ちゃん?」


「とりあえず話を聞こうか」




 あばれやけうしは、話せなかった。突進を難なくミドが押さえつけ、話しかけても唸って暴れるばっかりでどうしようもない。

 妙なことになったのは、フジコさんの一言でだ。


「動けなくしてもらえる? 生きたままで」


 ミドに手足をもいでもらって、フジコさんは紋章を地面に描くと、ボクとあばれやけうしを置いた。言っておくが僕は反対したよ? だってかわいそうじゃない。


「何するんですか?」


「まあ見ててよ」


 フジコさんはボクとまだ生きてはいる肉を前に腰を下ろし、拝むように手を合わせた。地面が光って、粒子がフジコさんの体に刺青を伝って登っていく。

 たまらなく、綺麗だった。


「いくよ」


 両手を紋章に乗せる。粒子が波の様に紋章を走り、ボクと肉の体になだれ込んでいった。

 

「お兄……ちゃん?」


 ほんの一瞬、目を閉じたつもりだった。飛び込んできたのは、一様に驚愕したミドたちの顔と、たまらなくキュートなフジコさんの笑顔。


「な、なにしたよ⁉ あんた⁉」


 トモナミが詰め寄るのを止めようとした手(木の義手じゃない方だ)を見て、ボクはようやく身に起きたことが理解できた。

 腐った肉がついてるはずのそこに、毛皮が生えている。いやよく見ると艶が悪いし、ところどころ腐った肉が見える。頭に手をやれば、硬い2本の何かが触れ、焼ける音が。戻して見た、掌の肉と木が焼け焦げてる。最大限に首を回してお尻を見ると、骨の見える尻尾。


「転心成功」


 フジコさんが笑顔で立てる親指に、ボクはできるだけ満面の笑みで返す。あばれやけうしと、ボクは合体したのだ。


「お、お前だよな?」


「うん」


 心なしか、力がついたような。


「気分はどうかな?」


「可もなく不可もなく」


「ど、どういうことなんです?」


「転心だよ」


 フジコさんが足で紋章を消しながら答えた。


「モンスターを強化する方法。魔王軍か、ボクらしか知らないはずだよ。ほかにも―」


 最後まで続けられなかった。ミドとトモナミが、フジコさんを囲んだからだ。目が血走って、鼻息に炎が混じっている。かなり興奮してるな。


「ミド!」


「あれあたしにもできるのできるよねできるでしょできるべきやって」


「女の子女の子女の子の形エスパみたいなねえ」


 ……やばい。全く聞こえてない。


 


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