第10話

 それが出たのは、数日が過ぎた朝食の時だった。メニューは、トモナミが仕留めた猪の丸焼きだ。


「これからどうすんだよ?」


 発言主は、ジャイア。今後についてのことだった。

 そろそろだと思ってた。興奮は収まり、悲しみにも一区切りつく。なら、生き残った僕たちはどうすべきか。まずはそこからの話だった。


「む、村に戻ろうよジャイア! ママがきっといるよ!」


「おバカですね」


「え、え?」


「勇者の一行がまだいたら? 勇者でなくても冒険者でもいいですけど。どうするんです?」


 エスパは嫌いだけど、頭が良いのと説得力に長けてるのは素直に尊敬する。

 勇者がまだいる可能性はさすがに少ないが、火事場泥棒や残党狩りの冒険者がいる公算は高かった。

 ミドとトモナミがいれば、大抵の冒険者には勝てるだろう。だが、戦闘経験が圧倒的に足りてない。隣の村を襲ったのは、一方的な殺戮だ。対抗手段を持った相手との戦闘では、何が起こっても不思議じゃない。分の悪い賭けだった。


「エスパの言う通りだと思う」


「わかってくれてうれしいです。伴侶たるものこうでなくてはいけません」


「おう、ごら。ケツの尻尾脊髄ごと抜くぞごら」


「無駄にでかいおっぱいもぎとったろか?」


「やめてよもう」


 村が消えた日から、この3人の仲は悪くなるばかりだ。

 特に、エスパを二人が憎んでる感じがある。逆にエスパは、右が無くなって不自由だろうと何かと僕の世話を焼く。ジャイアとオネスは何故か僕に当たりが強い。


「あ~どうしよう~」


 僕は背を壁に預ける。 

 魔王軍を探すという手もある。けどそのあとは? 軍に編入させられて、人を襲うだろう。そしていつかは勇者か、その仲間かに……村の時と一緒だ。みんなはそれでいいかもしれない、けど、それも僕には納得し辛い。

 そうだよ。結局僕が踏ん切りがつかないだけだ。

 人間か、モンスターか。

 どっちだ。


「ねえ君達?」


 それは、運命だったのかな。

 

「僕と少し話さない?」


 洞窟に入ってくる外の光を浴びて、彼女は立っていた。

 スレンダーな体を、幾何学模様の刻まれた紐が幾重にも走って覆う。勿論とても隠し切れず、あらわになった褐色の肌には、カラフルな刺青があちこちに刻まれている。顔にはさすがにないけど、首まである。

 赤髪が、いかりライオンみたいにぼさぼさのまま、腰まで伸びている。その腰には、鞭が巻き付いて、細い腰を一層細く見せていた。

 そして―


「お邪魔?」


 惚れ惚れするほど、いい笑顔だった。

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