第9話
それは、オーソドックスなパーティだった。
「じゃああああっ!」
「ぎえ!」
「ぼおお!」
鎧をまとった戦士。
斧の一振りで、地面は裂け、鉄の家は崩れ、モンスターはすりつぶされる。
「『ファイヤアロ―』!」
「がああ!」
「手が……手がああああ!」
帽子に、色鮮やかなローブをまとった魔法使い。
呪文でできた炎の矢が、すべてを貫き消し炭にしていく。
「ここは臭いですね」
白い法衣の聖職者。
詠唱する魔法で、メンバーの能力をあげている。
必死にモンスターが攻撃を仕掛けるが、バリアで近づくことすらできない。
爪を壁で砕かれたくろい野犬が、腕を抑えてもだえていた。
「……」
そして勇者。
無感動に、無表情に。剣を振るってモンスターを切り刻む。
すでに周りは死体の山に、血の湖ができていた。
オールラウンダー、近接担当、遠距離担当、回復補助。オーソドックスな、そして隙の無い、勇者の一行だった。
「逃げるぞ!」
とっさに出た言葉だった。
死体の山のほとんどは、魔王軍のモンスターたちだ。少なくとも、僕たちより戦闘経験は遥かに豊富なはず。それがああも簡単にやられてるなら、僕らに勝ち目はない。
「ジャイアとオネスはミドに乗れ! 僕とパエスはトモナミに!」
「おに―」
「早くしろ!」
怒鳴るのなんて、いつ以来だろうか?
そのかいもあってか、ジャイアとオネスは大人しくミドの背に乗ってくれた。
「トモナ―」
閃光だった。
狙ったのか、流れ弾か。炎の矢、いや閃光にしか見えないそれが、僕たちの横を霞めた。
爆風に曝されながら、僕はみんなを見る。移動役のミドかトモナミがやられてたら、もう終わりだ。
「お兄ちゃん!」
よかった。
僕の右手足だけだった。痛くない。けど、もう焼かれてるからくっつかないな。
死ににくいのが、僕の唯一の長所だったのに。
「よぐもこの―」
「飛べミド! 飛べえ!」
ミドが驚いて飛び上がり、閃光がギリギリでかすめた。間違いない、こっちを認識して狙ってる。
「いけ! いけ!」
トモナミが僕とエスパを抱え上げて、ブースターをふかして跳んだ。
トップスピードになるまで時間のかかるミドが、数秒遅れて並ぶ。
閃光が後方で爆発した。思った通り、射程距離はそこまでじゃない。
「助けてくれ!」
生涯(ゾンビにしては変な表現だけど)、僕はこの言葉を忘れることはないだろう。
爆発の隙間に見た、下半身が弾けて、でろでろの内臓が飛び出たパパの姿を。モンスターになったせいで、生命力が半端に強くなっている。
僕は、迷いなく叫んだ。
「振り返るな! 進め!」
パパに聞こえていたかは、わからない。
直後に、ブーツが頭を踏み潰したのだから。上げた足に、脳みその粘りがこびりつき、糸を引いていた。
「ごめんなさい……お兄ちゃん……」
「もう……限界……」
「いいや、ありがとう」
真夜中、体力の限界に来た二人を降ろし、僕たちは森の中の洞窟に隠れていた。
相当の距離は稼いだはずだ、追跡技術まで持ってたらどうしようもないけど、当面は大丈夫だと思いたい。
「な、なあ、母ちゃん大丈夫だよな?」
「う、うん。ママと一緒に逃げれたよ」
「お父さま……」
「……」
諦めなければ、希望はある。
ママだって、パパだって、わからない。
諦めない限り。
僕の判断は間違ってない、もどればやられてた。現に今だって生きている。
そう―
「……」
「きゃ」
疲れた。ゾンビだから疲れないはずだけど、疲れた。
力が入らなくて、パエスに寄りかかる。そうだ、右手足がなくなったんだ。どおりでバランスが取りずらいはずだ。
「そ、そんな大胆に……」
「お、お兄ちゃん! 私の方が肌触りいいよ⁉」
「温度調節できるわよ⁉ こっちに来て!」
僕はなんだろう?
モンスターだ。なのに、人間らしい部分が大きく残ってるように思える。半端といっていい。
いや……そもそも人間らしいのか? さっきの判断は魔物のかもしれない。どっちだ?
「う……うう……」
どっちだ⁉ 親を見殺しにしたのは⁉
どっちだどっちだどっちだどっちだ!
泣いても何も変わらない、なのに僕はそのままずっと、パエスの胸で泣いた。どうすればいいのかなんて、少しもわからなかった。
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