無辺の闇

「ああ、起きたね」

「……私、寝てたの? ここは?」

「エレベーターの中だよ」

「どうして真っ暗なの」

「ん? ああ、そう、急に止まってしまってね。照明も消えた。具合はどう?」

「駄目みたい。何だかすごくだるいの。まるで麻痺状態だわ」

「そうか。……ねえ君、どこまで覚えてる?」

「最上階のバーで、あなたにナンパされたわ」

「はは。今時、『綺麗な瞳ですね』なんて台詞でね」

「そう。でも二人で飲んでたら、気分が悪くなってしまって……」

「うん。それで家まで送ろうと思って、エレベーターに乗った。そうしたら、これさ」

「私、どのくらい眠ってた?」

「三十分弱かな」

「そう……。ごめんなさい」

「いや、いいんだ。君がお酒に弱いことも知らずに、飲ませすぎた。反省すべきなのは僕のほうだ」

「ねえ。エレベーターって普通、非常用の通話ボタンが付いてるのよね?」

「ああ、押してみた。けど反応がないんだ」

「じゃあ、携帯は?」

「繋がらなかった」

「そんなことって……」

「うん。どうもおかしいね。もしかしたら外では何か、とんでもないことが起きてるのかもしれないな」

「とんでもないことって?」

「わからない。そもそも、どうしてエレベーターが止まってしまったのか。地震か、それとも……」

「そんな、どうしたら……うっ」

「どうした、大丈夫?」

「駄目……話しすぎたみたい。戻しそうだわ」

「大変だ、すぐに助けを呼ばなきゃ。――くっ!」

「何をしてるの……?」

「ドアを、こじ開けてる。開けられたら、上か下のフロアに抜けて、救助を呼びに行く」

「そんな、危ないわ」

「起きないほうがいい。大丈夫だから。――よし、開いた!」

「……何よ……、どうして……どうして外も真っ暗なの」

「……わからない」

「怖いわ。訳がわからない。それに、ひどく眠いの」

「君はここに居て。必ず助けを連れて戻るから」

「嫌よ、危ないわ」

「大丈夫。安心して」

「駄目よ、待って。待って……」



「あー、すみません、どなたか乗ってらっしゃいますか?」

「……あっはい、居ます、乗ってます」

「ああ、大変申し訳ございません。どうやら当ビルの制御システムに何者かが内部から……う、うわあっ!?」

「え、何、どうしたんですか?」

「あ、あ、あんた、いったい……いったいこれは……」

「ねえ、明かりを点けてくださらない? 暗くて何も見えないの」

「まさか……まさか気付いてないのか」

「……何のことです……?」

「あんた……、あんた、目玉が無いんだよ……えぐり取られてるんだよ!」

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