アストロ・ママ
うちのママはちょっと変。もう私は高校生になるのに、毎晩寝る前に、ベッドの脇に椅子を持ってきてお話の読み聞かせをする。でも、友達には絶対言えないなとは思うけど、私自身はそんなにイヤじゃない。ママが好きだから。
“This is a story of a small world. A very small world, filled with monsters and magic and miracles. The hero of the story is …”
今日のお話は『家出のドリッピー』。さすがママ。英語の発音はバツグンだし、オーソン・ウェルズの声真似も完璧。渋いおじ様の低音ボイスが私を心地よい眠りにゴリゴリ誘うの。
ああ、だめ。
私はハッとして、ママに声をかけた。
「ママ、お話中にごめんなさい。どうしても気になることがあって」
「あら、なあに?」
ママはいつもの優しい声に戻って応えた。お話を中断させられて怒っている様子もない。
「あのね、玄関のドア、ちゃんと閉まってる? 窓のカギもぜんぶ閉まってる? 賊が入り込む余地はない?」
「あらあら、どうしたって言うのかしらね。統合失調症?」
「ううん、違うわ。たぶん違うわ。でも、不安なのよ」
ママはゆったりとした笑みで、私の瞳を見つめ返した。氷みたいな私の不安が、すうっと解けていくのが分かる。
「大丈夫よ、安心なさい。このあとママが家中確認してきてあげるから、あなたは寝なさい。アホみたいな顔してぐっすり眠りなさい」
「うん、分かった、ありがとう。ごめんねママ、私すごく、怖いの」
「なにが怖いの? ママに話してみてごらんなさい」
「聞いてくれるの?」
「ええもちろん。今晩は読書してクラシック聴いて映画観てから糠床かき混ぜる予定だったけどいいわ、ぜんぶ同時にやるから気にしないで話してみなさい」
「あのね、ママ。私ね……」
「なあに?」
「私、殺されるかもしれないの」
「ほほう。面白くなってきたじゃねえか」
「たぶん変態だと思うの。港のほうに遊びに行ったときにね、そいつら、倉庫の中でギャングみたいなコスプレしてジュラルミンケースやりとりしてたの。それ以来付きまとわれちゃって……」
「なるほどね、オーケーよく分かったわ。ママがちょっと行って片付けてきてあげる」
ママはそう言うと、お礼を言う間もなく窓から飛び出していった。「ギャアア!」っていう悪党どもの悲鳴がすぐに上がって途絶えた。高かったわりに言語野とか少しいかれてるけど、やっぱり買ってよかったな。やつらのブツとカネもこれでまるまる手に入ったから元も取れたし、新しいママ最高。
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