第2話 月が照らす夜に

 現在、保有する魔物たちの戦力を簡易に評価した頁をここに作成する。

 今後の作戦立案、戦況判断の目安として使う事を目的とする。

 なお、参考までに現指揮下にはない二体の魔物についての評価も記載する。


※凡例

●(魔物の通称)

・魂の保持者:(名前、年齢、性別)

・地上機動力:(主に速力、瞬発力も含む。)

・空中機動力:(飛行能力だけでなく、空間的な機動力も含む。)

・抵抗力:(防御能力や奇跡による干渉への耐性も含む。)

・特筆すべき機能:(その魔物に特有な能力、身体的特徴。)

・破壊能力:(破壊活動に関する適性。)

・工作能力:(偵察、陽動、潜入などの工作に関する適性。)

・射程:(自分の能力、機能が有効に働く限界距離。)

・魔力感覚:(どれだけ強く魔脈へ干渉できるか、また自分の体内の魔力の循環を効率的に行えるか。)

・成長性:(今後、より高い能力を発揮できるようになれそうか。)


 S:随一といえる優秀さを持っている

 A:非常に優秀

 B:優良

 C:平均的

 D:得意でない

 E:著しく劣る



●飛竜(レッドドラゴン)

・魂の保持者:トーマ=ウェルナー(14歳、男)

・地上機動力:E

・空中機動力:S(ただし細かい機動には不向き)

・抵抗力:D

・特筆すべき機能:火炎、尾、飛行性能

・破壊能力:S

・工作能力:D

・射程:A

・魔力感覚:D(ないしC以上)

・成長性:A

 まだ魔物として覚醒してから日が浅く、経験の面で他の者たちに大きく劣る。それでも積極的に魔物への順応に励み、試練を乗り越え、高い戦闘能力を発揮するに至った。その成長速度は随一、今後に期待できる。

 しかし、自己防衛力、抵抗力に欠けるため、孤立させるのは得策とはいえないだろう。


●灰色の巨狼(グレイウルフ)

・魂の保持者:ネーヴェ=エミリ(15歳、女)

・地上機動力:A

・空中機動力:D

・抵抗力:S

・特筆すべき機能:結晶、牙、強靭な体毛と肉体

・破壊能力:B

・工作能力:B

・射程:C

・魔力感覚:C

・成長性:C

 素晴らしい抵抗力を持つ、作戦の盾、ないし囮を任せるに相応しい存在。

 ただし、保持者であるネーヴェは心を閉ざしているため、魔脈への干渉能力や今後の成長については不安を抱かざるを得ない。


●獅子鷲(グリフォン)

・魂の保持者:アルクス=アーレ(19歳、女)

・地上機動力:B

・空中機動力:A(ただし短い距離に限ってはS)

・抵抗力:B

・特筆すべき機能:空気の操作、羽根、鉤爪

・破壊能力:B

・工作能力:B

・射程:A

・魔力感覚:B

・成長性:C

 大きな弱点といえるものもなく、全体的にバランス良く優秀な存在といえる。いかなる状況においても対応可能な器用さを持つ、頼りになる中衛。しかし、妹の存在を拠り所としている節があり、それの様態次第では今後の作戦の参加に支障を来すおそれがある。


●影の黒豹(シェイドビースト)

・魂の保持者:ラルマ=バルザッリ(18歳、男)

・地上機動力:S

・空中機動力:B

・抵抗力:C

・特筆すべき機能:爪痕、隠密、瞬発力、偶像

・破壊能力:C(ただし、使者や奇跡に大してはS)

・工作能力:A

・射程:D

・魔力感覚:B

・成長性:D

 素晴らしい地上機動力と、隠密性、更に使者に対する破壊能力を持つ。反面、実質的な破壊能力は低く、強固な防御の破壊や広範囲への制圧などの役を任せることはないだろう。しかし、どれほど強固な防御であっても隙間さえ見つける(ないし、開ける)ことができれば、そこから物理的な制約を無視して侵入することが可能。

 意図的に能力を抑えているふしがあり、本人もこれ以上、魔物へ適応することは望んでいない。


●海竜(シーサーペント)

・魂の保持者:ティーフ=エルマー(13歳、男)

・地上機動力:E

・空中機動力:B(界域外はE)

・抵抗力:A(界域外はD)

・特筆すべき機能:界水への潜航、界水の弾、魔力の調整をする宝球

・破壊能力:B

・工作能力:A

・射程:A

・魔力感覚:S

・成長性:B

 魔力の乏しい地に魔脈を伸ばし、魔力を循環させることを前提とする各都市への侵攻において、その要となる存在。

 戦力としても申し分ない能力を有しているが、その性質上、あまり表だった行動をさせることは控えるべきだろう。


●女王蟲(ブルードクイーン)

・魂の保持者:ウェルテ=フランチェスキ(14歳、女)

・地上機動力:E~B

・空中機動力:E~A

・抵抗力:A(本体を直接攻撃され続ける場合はE)

・特筆すべき機能:各種蟲

・破壊能力:D~B

・工作能力:S

・射程:S(蟲の拡散範囲)

・魔力感覚:A

・成長性:B

 自身が産み落とした蟲を操り戦うという特性上、評価はそれらの蟲も加味したものとなっている。故に、いくつかの項目において一律の評価ができない特殊な存在だといえる。状況に応じた蟲の生産と莫大な数の利は、その各個体の脆弱さや非力さを補って余りある働きをする。

 

●樹身獣(トレント)

・魂の保持者:ドリユス=フランチェスキ(当時15歳、男)

・地上機動力:B

・空中機動力:B

・抵抗力:A(森の外ではC)

・特筆すべき機能:森、特殊な草木

・破壊能力:E

・工作能力:A(森の外ではC)

・射程:A(森の外ではC)

・魔力感覚:A(森の外ではC)

・成長性:A

 鹿の姿をした樹の魔物。自らが作り育てた“魔力の森”を拠点として活動する。

 破壊能力は期待できないが、高い環境への適応、改変能力を持つ。

 しかし、自ら魔物に完全に帰化した後、こちらからの干渉を完全に拒絶して失踪。

 その後、教会、異端の徒、いずれにも接触した形跡は無く、目撃情報も無し、その所在も目的も未だに不明。


●屍竜(ネクロドラゴン)

・魂の保持者:レトラット=ブランチ(当時14歳、男)

・地上機動力:C

・空中機動力:E

・抵抗力:A(再生する環境が無い場合はE)

・特筆すべき機能:骨、毒の息、吸収、再生

・破壊能力:A

・工作能力:B

・射程:B

・魔力感覚:C

・成長性:C

 翼を持たない蜥蜴とかげに似た姿の屍竜。骨と肉と多様な臓腑で構成された身体は、決して堅いとは言い難いが、周囲の魔力を含んだ土や水、あるいは血肉を吸収して自らの身体を再生、増強、変成することができるため、抵抗力は非常に高い。また、奇跡に対して高い侵蝕能力を有する。

 保持者であるレトラットの精神が非常に不安定であり、強く明確に魔物への帰化を拒み続けたため、記憶を抹消し、審問の院より追放。

 後、ベリダ属下の村“コルノ”にて生活をしていたが、ほどなく同村は魔物による襲撃を受けて壊滅。廃村となったコルノからレトラットの死体は見つからず、行方不明となっている。


 ――これらの評価は単なる目安であり、状況や保持者の心理、思考に応じていか様にも加減することに留意されたし。


「少し、休むか…」

 ウィクリフは、椅子にもたれ掛かると、眼を閉じます。

 月明かりに照らされた机の上の白い洋書は、独りでにパタリと閉じられ、光の粒になって霧散しました。

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