かお(彼の場合)

 「今日は外に食べに行こうか。明日、僕が決着をつけたらこの町を出よう。」

そんな目で僕を見ないでほしい。都さんの目は確かに僕の見られたくない部分を見ている。都さんから視線を外しながら椅子に座る。

「ねぇ、本当にいいのかい?この町を出て。」

僕は一人になりたくないくせに都さんに口先だけの心配を見せる。


 「ふふっ・・・今、やっぱり実家に帰るって・・・ごめんなさい。」

都さんは僕を抱きしめた。

「そんな顔を見たかった訳じゃないですよ。」

抱きしめる腕に力がこもる。

それに言ったでしょう・・・?一人になりたくないの。それとも優都さんは私と一緒に死ぬのは嫌ですか?」

僕は彼女の何を見ていたのだろう。

「まさか!さて、ご飯を食べに行こうか。」

明るい声で言う。都さんが小さくうなずいたのが分かった。


「こんばんは。お久しぶりです。」

僕はよく通っている店に都さんを連れて行く。

「あれ、斉藤君が美女連れてる!ナンパ?援交?だめだよ、相手がいないからって!」

「やかましい。違うよ。」

「じゃあどういう関係なんだよう!」

いつも通りの店主の軽口。この店は隠れた名店だと思っている。

隠れているだけあって僕たちが入店したとき、客は一人しかいなかった。店主が客との関係を密接に持ちたいと思って切り盛りしている店だからだ。

気分が落ち込んで一人になりたくない時はよくこの店に来るのだ。

「彼女とは二人でこの町から離れようと思っているんだ。ここにも来れなくなっちゃうなぁ・・・。」

「駆け落ちか!運命だね!うまくやれよ、お二人さん!」

なんだか認識が違うが訂正するのもめんどくさい。

ちらりと都さんを見る。

・・・。あ、笑ってる。

彼女の本当の笑顔が見られた気がした。

それだけで、どうでもいいと思えた。

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