始発(彼の場合)

「優都さん。二人で・・・。ね?」

そう言った彼女は天使のような微笑み、いや、悪魔の微笑みかもしれない。


 朝、彼女を見送り自分の支度をする。

彼女と歩いていくための準備だ。一人に慣れた僕が彼女とどこまでやっていけるかはわからない。

「とりあえず・・・僕も会社に行ってすべて捨ててこようかな・・・。」

彼女は今日家族を捨ててくるのだろう。

そうして、僕のところに来る。

僕のものになるわけではないけど彼女は僕と歩いてくれるのだ。

つかの間の幸せ。最期に向かうのに美女といられることは男として幸せだろう。

「彼女とどうこうなりたいとは思ってないよ・・・ねえ、母さん。

もうすぐ、そっちに行くよ。彼女は連れて行きたくないなぁ・・・。」


 ガチャ・・・。

「ただいま帰りました。」

彼女が帰ってきたらしい。

「おかえりなさい、都さん。」

僕はいつも通りの表情を作れているのだろうか。

荷物を見せて彼女が言う。

「無事帰ってきましたよ、ね?優都さん。言った通り・・・。」

あぁ・・・。なんて、寂しそうな笑顔だろう。

綺麗な顔は確かに笑顔を作っているのに、どうしてか寂し気なのだ。

僕もこんな風に自分が思っているのとは違った顔をしているのだろうか。

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