脱走(彼女の場合)

「二人で死まで歩いていこう。」

彼は私に言った。


 とりあえず、明日家に帰って荷物を取りに行くことにしよう。

きっと、親たちは何も言わないだろう。

「言い訳を考えておかなくても、大丈夫?」

「ええ。何か聞かれたら、お勉強に専念するために一人になりたいと言います。」

彼は優しかった。

「優都さん。二人で・・・。ね?」

私に向けられるほほえみ。

久しぶりに本当の優しさに触れた気がした。


 朝、自分の家に向かう。

やっと、息ができる場所を見つけたのだ。

もう、逃げられる訳がない。

こんなにも幸せな気持ちで家に向かうのは初めてかもしれない。

「ただいま。」


 家に帰れば母がいた。

部屋にそっと入る。荷物をまとめて、ふとフルートが目に入った。

・・・・・どうせだから持って行こう。

そう思って持って行く荷物に含める。

荷物を持ってリビングを覗くと母が言った。

「どこ行くの?お勉強は?本当に受かる気はあるの?」

「受験勉強に専念する。だから、一人になりたいの。塾の先生のご実家が空き家になっているらしいから、お借りすることにしたわ。」

嘘を混ぜて言う。

「そう。お金は?通帳は持っているものね。あとで、振り込んでおくわ。」

「ありがとう。いってきます。」

そう言って玄関に向かう。

「いってらっしゃい。絶対にお勉強するのよ。」


 やっぱり、こんな程度か・・・。

少しがっかりしたが、家から逃げ出せた私は、幸せだった。

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